第25話「「勝負!」」
いらっしゃいませ。
恐らく、一水は炎のブレスを撃墜できて安堵しただろう。その隙をアエルは逃さない。
『まさか!』
撃ち落された炎のブレス、その中からアエルの首一つが現れた。
『ブレスに身を隠すとは!』
アエルの強固な鱗があっての芸当だ。
でなければアエルだって無事では済まない。
『そしてこのアエルの攻撃は炎のブレスだけではなく!』
『ぐぁ!』
狂暴極まる牙で一水の喉に噛みついた。
それに続く他の首五つ。
それぞれが牙を以て一水に噛みついて、口から炎が漏れる。ゼロ距離で撃つつもりだ。
『勇気! 威力! 度量! 認めようアエル!
ヌシの牙は間違いなく我にダメージを負わせた!
が!』
『なに!』
『喰らえい!』
一水が輝く。そう、全身に雷の光が灯ったのだ。
まさか。
そのまさか。
一水大発光。全身から雷が球形に放たれた。
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
堪えきれずに牙を離す――いや、離されるアエル。多くの牙にひびが入り、砕けてしまい。
『これぞ我の絶対防御にして絶対攻撃!
そこにこれよ!』
『あぅ!』
龍の爪が、アエルの首を斬り裂いた。
『残りの首五つ! それとて疲弊し傷ついている! どうする!』
『これだ!』
アエルの口に宿るのはブレスの光。
まだブレスで押す気か!
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッア!』
けれども放たれたブレスは。
『威力が落ちている! それでは我を傷つけられんぞ!』
『ただのブレスであるならばな!』
なんと、炎のブレスが回転した。
弱った威力を補う回転だ。
『ぬぐ!』
回転を加えられ、さながら炎のトルネードとなったブレスが一水を襲う。
『だっ、だが!』
首にブレスを受けている一水は、尻尾から雷を放ち炎のブレスを撃ち破る。
『今のでお前は! このアエルの首一つでも落とすべきだった!』
『うぐ!』
鞭のようにしなるアエルの尻尾が一水の腹を打つ。
堪えられずに一水は水晶柱に体を打ち付けて――炎のブレスをまともに喰らってしまう。
『まだだ!』
一水の尻尾が砕ける水晶柱を打った。そいつはアエルの顔面に当たり、
『何の真似だ!』
しかし傷つけるなどできず。
『ふ! 水晶柱の中に雷撃を仕込ませてもらった!』
アエルに衝突した衝撃で水晶柱は砕け散り、中から現れた雷が首一つを貫く。
『残り四つ! 後がないぞアエル!』
『まだ四つだ!』
アエルの口が開かれる。しかし放たれたのはブレスではなく。
『うぐぉ!』
突如一水が切り刻まれる。アエルが口を開けて、閉ざしたから。
これは?
『牙の威力を纏め撃ち出した! 流石に効こう!』
『よ、良くやりおる!
学ばせてもらう事の多い戦いよ!
今の攻撃はこうだな!』
『おおぅ!』
アエルの首がまた一つ落とされる。
これは。
『我の! 龍の牙の威力を撃ち出した!
残り首三つだ!』
『魔獣の力を! みくびるなよ!』
アエルの全身が光に包まれる。
一水と同じで全身から炎を撃つ気か? 否。否だった。
『空間が!』
ひび割れていくではないか。
『絶対的な攻撃力の塊! それがアエルだ!
その威力の全力を受けてみよ!』
『なんとぉ!』
アエルの周囲の空間が割れてしまう。
しかしこれは攻撃になるのか?
なんて心配どこ吹く風。
『喰らえい!』
『――!』
空間が渦を巻き凝縮される。
そして凝縮させた空間をブレスの如くに撃ち出して――
『小さいな! 小さな凝縮弾!
避けられぬと思うか!』
触れるは危険と見たのか一水は体を捻って凝縮弾をかわし、
『思うな!』
『なっ!』
かわして見せた一水だったが、彼の傍に寄った凝縮弾は一気に膨張した。
膨張して、破壊のエネルギーを解き放つ。
神に守られた土地を壊し、水晶柱を壊し、大気を壊し、空間を壊し、
当然一水の全身とて壊してしまう。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
全身から雷撃を撃ち出す一水。
防御はムダと悟ったのだろう。攻撃で破壊のエネルギーをそぐつもりなのだ。
そして事実そげたのだろう。
しかしそれでも全身に傷を負ってしまう。
そしてとうとう、一水が地に落ちた。
『だ……だがアエルよ……この一水とて神話に名を連ねる王者の一角……。
まだ! やられはせんよ!』
残された気力を振り絞り爪を大地に立てて起き上がる。
何と言う、何と言う強さ。
これが龍。これが一水か。
『素晴らしいな! だがどうする一水! 残った力で何とする!』
『まずはこれよ!』
全身発光。
一水の体が雷に包まれて。
『それはもう見たぞ!』
アエルの炎のブレスが一水を貫い――ていない。
一水の全身が雷に変貌したから。
『なに⁉』
『良く我にこれを使わせた!
往くぞアエル!』
『!』
一水、光の矢の如し。
まさに閃光。
光の速度で以て雷と化した一水がアエルの首一つを貫いた。
『残り二つ!』
けれど。
『――!』
目を見開くは一水。
体が元の鮮やかな色を持つ龍へと戻ってしまったから。
『ダメージが!』
大きすぎたのだ。
最早一水に全身の雷撃化を維持する力が残っていない。
『ならばせめて!』
残りの力を振り絞り、一水は雷を撃ち放つ。
アエルに向けてではなく空に向けて。アエルに撃ってももう効かないと思ったのだろう。
だから一水は、
『ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
雷雲を呼んで巨大な雷の柱をアエルに落とした。
鱗が砕け、首が力を失って。
『これで……残り一つ……』
しかし。
一水は浮遊の力すら失って落ちてしまった。
落下の衝撃で地響きが起こり、生徒会長とバトルを繰り広げていたオレの体を揺らす。
『本当に……大したものだ、一水……』
それから程なくしてアエルも浮遊の力を失って落ちてきて。
落下の衝撃で地響きが起こり、オレとバトルを繰り広げていた生徒会長の体を揺らす。
『済まぬ……樹理よ』
「いいや、良くやった、一水。
意識はまだもちそうか?」
『横になっていれば……』
「わかった。横になってな」
『うむ』
こう会話が交わされる一方で。
『済まないな、宵』
「ううん、充分だよ、アエル。覇王。
力は使えそう?」
『動けそうにはないが、宵に渡す力は残っている』
「そっか。
んじゃ回復に専念していて良いよ。
必要があれば呼ぶから」
『了解だ。では暫し、宵に任せよう』
こうして沈黙する二つの巨大強大な獣。
アエルの体に触れるオレと、一水の体に触れる生徒会長。
これからはオレたちの勝負だ。
アエルも一水も本当に良く戦った。
あとは任せて、休んでほしい。
「互い」
口を開くは生徒会長。一水から視線をオレに移して、まっすぐに目を見つめて。
だからオレも見つめ返す。
しっかりと生徒会長の視線を受け止めながら。
「ジョーカーをパペットが使う余力はわずかと言ったところだろうか」
「ですね」
ライフこそ残っているが、引き出せる力は少量だ。
「ですから」
「ここぞと言うタイミングで」
そこに至るまでに生徒会長を何としても崩す。
無論生徒会長もオレを崩しにくる。
緊張は? 程良くしている。
気力は? 充分だ。
「行くぞ宵くん!」
「ええ!」
「「勝負!」」
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