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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
248/334

第248話「皆生きてる」

ごゆっくりどうぞ。

 パペット・キリエとの同化。手にはアイテムの紙剣(シケン)


「――や!」


 全身から苦無(クナイ)を放ってAIロボットを攻める、も、やはり斬れない。同化で強化されているはずなのに。

 ただそれなら。

 オレは続けざまに苦無を撃って体を掴むAIロボットの手を内側から外しにかかる。こっちが傷つくのも覚悟の上だったがオレ自身のエナジーシールドを切り裂けなかった。ちょっと複雑な気持ち。だがAIロボットの手は一つ離れて、二つ離れて、上半身が自由になったところで。


「――⁉」


 夜空色の炎が大火となって辺り一面を包み込んだ。

 それは不傷不死(フショウフシ)を纏うAIロボットすら容易に焼き尽くし、オレの体の表面をなぞっていく。オレは焼かれる前にジョーカーの力を収斂して命を繋ぐ。そこで炎を裂いて出て来た手がオレの首を掴んだ。赤いラインで骨のタトゥーが刻まれた手。


「ユメ!」


 ユメはオレを乱暴に持ち上げ、近くの氷山に投げ叩きつける。生身で受ければきついだろうが、


「効かないよ!」


今のオレは何よりも強い命を持っていると自負できる。


「そうみたいだね」


 オレは紙剣を携え天つ空(アマツソラ)に向かう。まずは不傷不死を消し去る。


「ウォーリアネーム」

「――!」

「【夢見る僕の心の大きさは】」


 ユメによるパペットとの同化。金に輝く髪。頭を囲む王冠に似た白い角。感じる圧は神の威圧。

 天つ空が消えた事でオレは宙を蹴って一直線にユメに迫る。けれどユメは一歩も動かずにオレの紙剣を左肩に受けて――斬れなかった。


「なっ――?」


 以前は斬れたはずなのに。


「君が強くなったように僕もそうなっただけさ」


 ユメの手がオレのお腹にピタリと張り付き――


「――世界消滅の火・夜――」


 光が放たれた。

 0距離で撃たれてその光はあっさりとオレの防御を貫いた。


星章(セイショウ)!」


 エナジーシールドが消え去る前に星章で身を包み、光は皮膚の直前で横に流れて行く。しかし圧力に押されてオレは簡単に飛ばされた。

 この!

 キリエのジョーカーから鷹の翼を呼び起こし飛翔する。そのままユメの四方八方を飛び回り途中までオレを追っていたユメの目が追い付かなくなったところで攻撃に転じる。ユメの背後に回り込んで一息に彼の首を狙い突く、が。不傷不死に阻まれる。やはり斬れない。

 オレは紙剣に苦無と、生命の光と、星章を重ね、今度は首を斬りつける。


威閃(イセン)!」


 輝く紙剣。その一筋をユメはまともに受けて、


「――嘘」


それでも尚――――――――――ユメは無傷で。

 そんなバカな……これじゃユメを倒すなんてもう……。


「ごめんね、(ヨイ)


 そう言って振り返ったユメの口元に微笑はなく。掌がこちらに向――


「――世界消滅の火・夜――」

「リゾーマタ・火!」

「「⁉」」


 オレとユメの掌の間に飛び込んできた同化状態の涙月(ルツキ)が盾から赤い光を発して何とユメの攻撃を受け切った。


「……涙月」

「よー君! 行くよ!」


 涙月は紙剣を握る手に自分の手を添える。


(ピリア)!」


 強く叫ばれた言葉。紙剣に走る黄金の光。それはオレやユメと同じ神の力で。

 これが涙月の得た聖騎士の力。


「れっつごー!」

「うわ⁉」


 オレの手を握った涙月は力任せにオレを振り回し、ユメへとぶつける勢いで放り出す。


「――世界消滅の火・夜――」

「――――この!」


 どうなっても良いやとオレは黄金を宿した紙剣を振り抜いて――その剣閃があっさりとユメの光を切り裂いた。


「――!」


 目を(ミハ)るユメ。オレに向けられ、たった今光を放った手の指の先に傷が一つ。

 不傷不死を破った⁉

 迷いと驚愕はひと時。オレはそのままユメの胸を狙って刺突。ユメは不傷不死に頼らず体を捻って紙剣をかわし、腕と胴体で紙剣を挟んで固定する。


「――真域滅火(シンイキメッカ)の光――」


 夜空色の炎が太陽の如く輝く。ここでこれか。

 オレは紙剣を消して後ろに跳んで距離を取り、代わりに涙月が前に出て行った。


「涙月!」

「リゾーマタ・水!」


 涙月の西洋剣にもランスにも見えるアイテムが水色の輝きに包まれ、


「一刺し必中!」


突き出されたランスがユメの光に穴を開けた。何て威力。

 ユメは動じず宇宙カレンダーを丸めて棒にし、涙月のランスに向けてそれを突いた。二つの武器は先端をぶつけ合い、拮抗し、双方共に発生した衝突エネルギーによって後方へと弾かれる。


「涙月!」


 オレは涙月の体を受け止め、ユメの体は――切縁(キリエ)・ヴェールによって受け止められた。


「成程。聖騎士への道は貴様を殺すつもりだったのだが乗り越えただけはある」


 切縁・ヴェールは受け止めたユメの体を降ろすとオレと涙月に向けて右手人差し指を出し、紫炎の数式を一つ放った。


「「――っ⁉」」


 オレたち二人は得体の知れない力に体を拘束されて流氷へと落ちていく。

 体が……動かない。


「安心すると良い。貴様たちの力は確認した。私めの計画に組み込む為に殺しはしない」

「……計画」


 利用すると。オレたちを。


「そう。

 内容を聞きたいところだろうが我慢しろ。子供をあやす為に暴露する気はないからな。

 ユメ、戻るぞ」

「――はい」

「ま……待て」

「さようなら、我が器たち」


 必死に絞り出したオレの言葉なんて完全無視で、ユメと切縁・ヴェールは姿を霞ませ消えて行った。






「はぁ……」


 突然だった切縁・ヴェールの出現とバトル。ユメと複数の【アルターリ】を相手にして全員生き残ったのは不幸中の幸いと言うものか。

 オレは重い息を一つ吐いて流氷の上に敷かれた保温シートに腰を下ろす。氷、溶けないかな、これ。何て事を思いながら仲間に目を配る。誰も彼も【覇―はたがしら―】による治療を最大限生かす為に座り込んでいる。会話は少々。なぜなら切縁・ヴェールたちの襲撃を凌いだとは言え、ポレンを奪われてしまったから。後から聞いた話によると当初切縁・ヴェールはこの場でポレンと兄を分離させようとしていたらしいがそれには失敗していたとの話だ。二人はもう一時的な同化と言うより完全融合していると見た方が良いかも。


「だいじょぶ?」


 物思いに耽っていた顔を上げてみるとアマリリスが目の前にいた。オレの顔をしゃがんで覗き込んでいる。


「オレは平気だよ。皆の治療をお願い」

「……ん」


 そう言ってトテトテと駆けて行く。アマリリスは暁の数式を使用して皆の治療の手助けをしていた。当人はコリスとパフパフに護られていたらしく傷と言える程のものは負っていなかった。

 それにしても、だ。『我が器たち』――切縁・ヴェールはそうオレたちを呼んだ。その言葉が意味するところは何なのだろう?


「せーの!」


ぽふん


 …………………………………………………………………………何かが首筋に触れた。柔らかく、暖かく、双丘。いや何かって言うか……。


「パフパフ、ぱふぱふが当たっています」

「当ててんのよ」

「そんな言葉覚えちゃいけません!」


 パフパフはクスクスと笑いながら双丘を離すと前の方に回り込んでくる。


「笑いましょう! 生き残ったなら引き分けドローです!」

「……そ――」

「そのとーり!」


 ドーン! 今度は豊かな双丘ではなく年相応の双丘が背中に当たって来た。涙月である。


「皆生きてる。んなら次の為に行動しようぜい」

「ですです」

「……うん」


 助けられる。ポジティブな思考はネガティブを軽く吹き飛ばしてくれる。オレは立ち上がってとある人物を探して見つけ、そちらに駆けた。


「クシュCEO」

「あ……ああ、天嬢(テンジョウ)さん」


 彼の傷の治療は終わっている。それでもクシュCEOの顔色は蒼白だ。


「大丈夫ですか?」

「……いや、体は元気なんだけどね……戦闘に当てられてバカみたいにへたれ込んでいたよ……」


 無理もない。オレたちはパペットウォーリアで戦い慣れていたし、以前仮想災厄ヴァーチャル・カラミティと戦ったおかげで妙な度胸も付いていた。けれどクシュCEOはあくまで企業のトップ。人を纏めるのが仕事であってバトルは専門外。それも命を賭けた戦いに挑むなど人生に於いて皆無だったと思っても良いだろう。


「とにかく、ご無事で良かったです」

「君たちも」


 弱々しいながらも笑顔を作るクシュCEO。彼はそのままの姿でよろっと立ち上がり。


「さて、わたしは会社に戻るよ。ポレンを失ってしまったから色々と事後処理が必要だ。

 君たちはどうする?」

「まず星冠(ホシカムリ)最高管理にこの件を報告し必要な手を打ちます」


 星冠と王室ネットワークに魔法処女会(ハリストス・ハイマ)、アンチウィルスプログラムとパトリオット。人間号には断られてしまったからまずはこの勢力が一丸とならなければ。


「そうか。では、お先に失礼させてもらうね」


 開かれる【門―ゲート―】。クシュCEOはふらつきながらその中へと入っていった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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