第247話「この――ユメの奴からかっているな!」
ごゆっくりどうぞ。
ユメは一旦棒を引くと今度はオレのお腹を突いてくる。お腹を中心に全身にエネルギーが流れ込んで来て痺れさせられた。
重い……のは確かだがこの棒自体が人智を超えたエネルギーの塊なのだ。良く体が裂けなかったな。
ユメは尚も棒を振るい続けてオレは何とか捌き切る。
まだ、まだキリエを出すのは早い。とりあえずこの制服モードだと衝撃に弱い。オレは服をバトルモードに変えて防御力を上げる。これで良い。
【覇―はたがしら―】の機能を全力にして一歩強く踏み込む。流氷にヒビが入って、紙剣を持った右手を振り降ろす。吹き出る水のように光が走って流氷から海水まで数ミリの幅を切り裂いた。しかしその距離と深さは五十メートルを超えていて。
だがそこは流石のユメ。始めて見たはずの斬閃に咄嗟に体を横に滑らせてかわしていた。
「威力は凄いけど、横幅がないのが欠点だね」
当たりである。けどそれは速度でカバーする。
ユメの一撃は重い。速さ勝負ならこっちに分が――
「え」
ユメがオレたちの立っている流氷を突いた。盛り上がって砕ける白い流氷。大きくバランスを崩されてオレは腰まで海水に浸る。そこに電流が襲って来て体が硬直。ユメを見れば棒が海水に浸かっている。ユメのアイテムは宇宙カレンダー。そこから雷だけを取り出したのか。
「まだ行くよ」
棒を解いて宇宙カレンダーの元の姿を景色に浮かび上がらせる。世界は夜空色に染まり、幻想的な程の魅力に包まれた。
その世界を貫く一条の光。
「くっ⁉」
オレは紙剣を八つの人魂に戻して中心にエネルギーの盾を造る。光はそこに当たると四散して近くの氷塊を砕いていく。
今度は全身を凍らされて、人魂の炎によってそれを溶かす。しかしその時には巨大な彗星が猛スピードで迫っていた。オレは人魂を紙剣に戻し、斬閃で彗星を切り裂く。
景色が変わった。どこかの原始惑星。火山が噴火し、マグマが滾る。その中に脚が捕われるが【覇―はたがしら―】のエナジーシールドで難を逃れる。
景色の年代が巡り、火山岩・恐竜・鰐・全球凍結に襲われて、終いにはどこかの部族に襲われた。
「この――ユメの奴からかっているな!」
部族から逃げ惑いながらオレはどこにいるかもわからないユメに毒を吐く。
――待て。こんな程度ユメの全力ではないはずだ。手を抜かれている? それとも全力を出せない理由がある? どっちにしても今がチャンス――
「って、思うよね?」
「――⁉」
響くユメの声に走り回りながら顔を向けてみるとそこには。
「アトラス!」
ユメのパペット天空神アトラス『天つ空』。が天球を担いだ姿で聳え立っていた。
「キリエ!」
向こうがパペットを出したのならこちらもキリエを使うのに迷いはない。
天球にヒビが入った。虹色の粉を含んだ白い光が溢れ出る。
「――世界消滅の火――」
光が襲い掛かって来た。
オレはキリエを振るって苦無を飛ばし盾を何重にも造る。一つ破られ、二つ破られ、三つ破られた所でユメの光が弱まった。ここだ。
オレは人魂の紙剣を振るう。斬閃が光を切り裂いて天つ空に到達し、しかし斬閃は天つ空を傷つけられなかった。天つ空のジョーカー『不傷不死』。なら直接斬るのみ。跳躍し、天つ空の首をキリエと人魂紙剣で同時に斬りつける。
「――!」
二つの斬撃は一ミリたりとも神の首を斬る事叶わず。不傷不死が以前よりも強固になっている。それを認めたオレはバックに跳んで即座に場を離れた。
「――世界誕生の火――」
げ。
天球に入るヒビ。溢れる神々しき光。世界を照らす光は一瞬真っ白に視界を染めて消える。後に残されたのは数百・数千に及ぶAIロボットの群れ。前も後ろも右も左も埋め尽くされていてオレは宙に留まった。留まった瞬間にAIロボットたちが襲い掛かって来て、急ぎ苦無と斬閃で彼らを壊そうとする。が、壊れない。一体たりとも。不傷不死がAIロボット全てを包んでいるのだ。
「だっ!」
AIロボットに頭を首を腕を胴体を脚を掴まれて引っ張られる。それはもう引き千切る勢いで。これはまずい。
「キリエ! ウォーリアネ――」
を唱えようとしたところでAIロボットに口を塞がれた。
『宵!』
「ほご!(この!)」
ウォーリアネームはマスターユーザーが唱えなければならない。当然心で思うだけでもダメだ。
「(キリエ! ジョーカーを!)」
『(同化していないと威力が落ちる!)』
「(構わない!)」
どうせこのままだと確実にやられる。何とかこの包囲を脱出しなければ。
キリエのジョーカー、生命の輪が広がる。おや? あらゆる生命を象るそれに押されてAIロボットたち大半がばらけた。幸運。
「(来い!)」
生命の輪が高速で回転し、溶け合ってキリエの中へと収斂する。更に人魂も炎に変化させてキリエに灯す。
「ごーぜん!(光閃!)」
閃光一筋。煌めく剣閃が風を巻き起こしてAIロボットを吹き飛ばす。
良し、進路はできた。次は体に憑りついている連中を――
『宵、ちょっと我慢』
「ふぇ? (え?)」
言葉の意味がわからず一瞬ぼけっとするとその間にキリエの鋒がオレの顔に向いた。オレが動かしたのではなくキリエの自主的な行動だ。
って、ちょっと待って。
「ふぁあ⁉」
予想通りキリエはオレの口に向かって来てそこを塞いでいたAIロボットの手を弾いて飛ばす。
危なっ。自分でこうしなかったのは自分を傷つけると思ったからで、今もオレの唇一ミリまで迫っていたと思う。
『これで良し』
「き、きわどい……」
『さあ宵』
「あ、うん……『ウォーリアネーム! 【手にした夢は純白の輝き】!』」
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