第243話「実況のお姉さん?」
ごゆっくりどうぞ。
アーミースワローが徐行に入る。目的地であるワシントンの駅にもうすぐ着くからだ。オレたちはアナウンスでその事実を確認し、くつろいでいた体を立たせて出入り口へと向かいだした。そんなところで涙月が右手を握って来て。
「人多いし」
「うん」
「ほいパフパフも」
「わぁい」
喜んで涙月の手を握り返すパフパフ。なぜか頬に当ててスリスリしている。嬉しそうで何より。
と同時にアーミースワローが――着いた。
扉が左右にスライドして開放される。オレたちを含む外に出る乗客は左側通路、入る乗客が右側通路を通って交代。
「さて」
駅構内に出てオレは首を左右に回す。約束通りならここに迎えの人がいるはずだ。
「こっちでーす宵君涙月ちゃん――ん? どなた?」
大声で名前を呼ばれてちょっと恥ずかしく感じた。迎えの女性はこちらに手を大きく振りながら近づきつつ、パフパフを見て首を傾け――ん?
「実況のお姉さん?」
以前行われたパペットウォーリアで日本の実況を担当していたお姉さんだった。
「お久しぶりですお二方っ。私を覚えています?」
実況のお姉さんは爽やかな笑顔を向けながらオレたちの前で足を止めて順繰りにこちらの顔を見ていく。
「はい。お久しぶりです」
「お姉さんアメリカ政府の人だったんですかい?」
「いいえ日本の電脳課の一人です。実況は私自慢の声で選ばれたのですが、この度は貴方ガタとアメリカ政府の仲介役に選ばれました」
そう言いながら、ちらほら、とパフパフを見る。特にパフパフのぱふぱふを。見ては自分のを見てちょっぴり哀愁を漂わせたりもしていた。
「あ、彼女は――」
紹介してほしそうだったのでオレはパフパフについて説明する。すると実況のお姉さんは目をぱちくりと開いて止まった。
「お姉さん?」
「―――――――――――――――――――――――――――はっ。
あ、すみませんあまりの大物にちょっとフリーズを」
「そんなわたくしは人間さまにお仕えする身ですので大物だ等と」
「いえ、おっぱいが」
「おっぱ……」
や、立場も大物だと思うよ、うん。
「そう言やパフパフの体は一体誰がデザインしたん?」
「どうでしょう? その辺秘匿されているので」
「何で?」
本人は知っていると思っていた。
「結構な影響力のある方だったそうなのですが隠遁生活をなさっているそうです。ですので今後仕事の依頼が行かないようにとの事です」
「「「へぇ」」」
巨乳に憧れでもあったのだろうか。
「あ、申し遅れました。私、高嶺 凛と申します。凛って呼んでくださいね。宜しくお願いしま――」
実況のお姉さん改め凛さんは腰まで伸ばされている赤に近い髪を揺らしながらにっこりと微笑み、オレたちの手元に目を配った。あ、繋いだままだ。
「あらまぁ仲の宜しい。ま・ぜ・て」
そう言ってオレとパフパフの手を握って来る。……それだと円になるのですが。
「このまま回転しながら行きましょー」
「いやかなり恥ずかしいです!」
「大丈夫ここはアメリカ! 旅の恥は掻き捨てですよ!」
「そうかも知れませんが!」
既に周りの人に笑われていますが⁉
「あ~元気な人が増えたぁ」
「涙月が言う⁉」
波乱のアメリカ旅行が、始まる。何てかっこつけてももう遅いが。
「まず御三方には『リリィ』に向かってもらいますね」
車の中で向かい合う凛さんとオレたち。凛さんの横にパフパフ、その前にオレと涙月だ。運転は無人なので他に人はいない。
「リリィって【パナシーア・ネイル】を開発した?」
「そうです宵君。そこで正式な謝罪があるはずです」
謝罪。『デス・ペナルティ』についてだろうとは誰もが予想できるだろう。が。後から謝るなら最初からしないで欲しいものである。
「まあそれについては同感ですね。
ただ庇うわけではありませんがアメリカからしてみたらコンピュータ関連企業が綺羅星とエレクトロンに負けている状況ですので藁にもすがりたい思いだったのでしょう。ここだけの話白人至上主義は未だ残っていますから」
白人としてのプライドか。オレの持つ男としてのプライドとはまた別物かな。
「だけど此度人間さまは謝罪なさるのですよね? 何か方向転換されるきっかけでもあったのですか?」
「切縁・ヴェールの方が手を切ったそうですよ」
スパッと手刀のモーションを一つ。
「え? 捨てられたん?」
「いいえ。切縁・ヴェールは必要な時に手を差し出すし必要ない時には連絡を一切取らないタイプなんですよ。彼女とアメリカ含む世界の国々はそうやって彼女に利用され続けたんです」
「ちょ~と待ってください」
割り込む、オレ。
「凛さんはどこまで知っているんでしょう?」
「大方全部。電脳課での私の地位はそこそこ高いのです」
えっへん。胸を張る凛さん。若いのに――二十代前半に見える――全ての事情を知れる地位にいるとは凄い。
「いえいえ御二人こそですよ。星冠は簡単にはなれませんし」
「まあバトルでの戦果ですけどね」
「よー君は基本、コンピュータに強いと思うけど」
「ん~」
確かに、自分で言うのもなんだが学校の成績は良い。えっへん。
『デス・ペナルティ』の時は死にかけたけど。しょんぼり。
「でですね、切縁・ヴェールは『デス・ペナルティ』が削除された事で今アメリカとの手を切っています。そこでアメリカが彼女対策に打って出ているんですね」
「何か対抗策があると?」
「恐らく。内容までは把握していませんがそれについてのお話となるでしょう。
あ、着きましたよ」
車外に目を向ける凛さんに倣ってオレたちも窓の向こうを見る。気づけば車は停まっていてリリィの正面玄関が見えた。
「行きますか」
ドアに触れると自動で開いて、オレたち四人は外に出た。じろりとリリィ正面にいる警備のおじさん二人に睨まれるがこちらの格好を見てすぐ襟元を正した。オレと涙月は既に車内で星冠の制服にチェンジしている。星冠の影響って凄い。
「はろ~」
警備員にフレンドリーに話しかける凛さん。それに警備員も気さくに応じる。二人への挨拶もそこそこに凛さん先導でオレたちはリリィ本社の中へと入っていった。すぐにボディチェックの装置があって一行はそこを通る。
「少々お待ちください」
そう言うと凛さんは受付へと歩いて行き手続きを簡単に済ませて戻って来た。
「さ、行きましょ。CEOがお待ちです」
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