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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
242/334

第242話【どうか、頼む】

ごゆっくりどうぞ。

「やれやれだ」


 元々はビルがあった場所に腰を落としてアトミックは腕を回しながらそう息を吐いた。


「それはオレの台詞なんだけどねアトミック?」

「悪い悪い」


 ジト目でオレに睨まれてアトミックは恐縮しながらも笑ったまま謝った。それにオレは苦笑を返し、槍の同僚さんを見た。


「大丈夫ですか?」

「ああ……なんとかな。助かったよ少年」

「いいえ」


 まあ、二人を失わずに済んだので急な召喚も良しとしよう。どうせなら異世界に召喚されたかった。


「で」


 アトミックに視線を戻す。


「どう言う状況?」

「ん~」


 頭を掻くアトミック。


「スラーヴァの本社に来たつもりだったんだけどさ、どうも偽物だったっぽい。出てきたのは【アルターリ】だけで重要なものはなかったよ」

「……それなんだがな」


 重い声で言葉を紡ぐのは。


「ん? なにロイ?」

「重要なものがあったから粉微塵に砕いた……って可能性はないか?」

「……ん」


 アトミックは顎に手をやってビル跡を見る。しかしそこはもうビルだった砂が残るのみだ。

 可能性としてはある、が最早遅く。


「どちらにせよ、出直しか」

「一応言っとくけど、その時は二人以上でね」

「ああ、もうヘマはしないよ」


 それにしてもだ。【アルターリ】とは随分と形を弄れるものだ。ケンタウロスから戦闘機。球体。木。人の形には拘る必要がないと言う事か。無茶苦茶巨大なロボもどきが出てきたら困るな。考えてたら出てきそうだけど。


「……あれ?」

「ん? どした(ヨイ)?」

「これだけ騒いだのに警察も野次馬も集まって来ないんだ?」

「「…………」」


 二人揃って口を開けた。「そう言えばそうだな」と言う表情だ。


「……まさか」

「この街の全員が――敵じゃねぇだろうな」


 早く帰ろ。

 嫌な予感に背中を押されてオレは月への【門―ゲート―】を開いた。学校のお昼休みはもう終わっているはずだ。涙月(ルツキ)も心配しているだろうしと急いで潜ると、とあるテレビ番組のアナウンスが聴こえて来た。


【――以上により、天嬢(テンジョウ) 宵星冠卿(ホシカムリキョウ)高良(タカラ) 涙月星冠卿、両名をアメリカに招くとの大統領発表がありました】


「……うん?」


☆――☆


「行った途端銃撃されたりしないかな?」

「あはははは。幾らあっちの人もこっちの人も銃持っているからって簡単には巻き込まれないよよー君」

「いや銃乱射事件じゃなくて」


 アメリカさんは【パナシーア・ネイル】を製造しそれに死因アプリ『デス・ペナルティ』を含む旧アプリ機能を継承させた。対してこちら星冠は『デス・ペナルティ』を無力化させる為に動き成功した。恨まれる覚えはあっても歓迎される覚えはないのだ。悲しいが。残念。

 だから――


「恨み込みで呼ばれているんだとしたら?」

「う~ん。招待状に書かれている内容がほんとならほんとに困っているんじゃない?」

「ほんとならね」


 星冠の外交筋ではなく学校に届いた招待状にはこう書かれていた。


【まずこのメッセージが正式ルートを通したものではない事を謝罪する。

 その上で『お願い』をする。

 天嬢星冠卿と高良星冠卿に我が国を訪問していただきたい。

 このメッセージ上では詳細は延べられないが一言で申すと少々困った事態になっている。正式ルートを通さなかったのもそれが理由である。お二人にはこの事態を鎮静化する為の助力を乞う事になる。

『デス・ペナルティ』での迷惑はお会いした時に謝罪しよう。赦されないかも知れないが謝罪の気持ちは確かにある。

 どうか、頼む】


「あちらさんの態度はともかくな~んか必死さを感じるんだよねぇ」

「必死さ」

「そ。だってアメリカだよ? 未だ白人至上主義が根付いているアメリカの大統領からの直筆メッセージだよ? 演技でも簡単に私らに頭下げると思う?」


 想像してみる。そこにはいつも怒っている大統領の姿があってとてもではないが頭を下げるどころか謝罪する性格にも見えない。


「……思いません」

「ね? その人が文とは言え謝ってる。これはきっとホントにやばいからだと思う。あ、嵐抜けた」


 オレたちは今真白い椅子に並んで座っている。その前には窓沿いに設置されているテーブルがあって、外は海。大陸間超速新幹線アーミースワローの中である。約束の時間まで余裕がありまくっていたから【門―ゲート―】ではなくこれでの旅路となった。


「シケってましたなぁ」

「……シケってた?」


 涙月の何気ない一言が引っかかる。


「どうしたん?」

「いや……気象操作できるのに何で海荒れていたんだろう?」

「……オウ」


 太平洋上に造られた国際雲上緑地都市『ロサ』――浮遊システムで造られた気象操作都市。同時にそれに組み込まれている気象操作装置のバージョンアップ版である自然環境操作装置をその名で呼ぶ。それがある限り人に都合の悪い気象現象は起こらない、はずなのだ。


「んっと」


 指を動かす涙月。どうやらTVを点けようとしているらしい。


「あ、やってるやってる」


 オレにも観えるようにパスを入力してディスプレイを大きくする。


「どうやらあっちこっちで異常気象みたいだよ」

「うん……」


 正真正銘『異常』な気象である。


「全くキング・ロサはなにやってんですかね人間さま」

「うん……え?」


 涙月ではない女性の声。母性を感じるやんわりとした声だ。この声は――


「パフパフ⁉」

「はいそうですお久しぶりです宵星冠卿、涙月星冠卿」

「「わう⁉」」


 パフパフはオレたちの首に腕を回すと勢い良く引っ張って……なんだ……パフパフのぱふぱふに二人の顔を埋めさせた。またかっ。


「再びお逢いできて光栄ですっ。ナマのお若い人間さまっ。はぁ良い匂いっ」

「ちょっ、とパフパフ恥ずかしいから!」

「私だって……私だっていつか必ず……!」

「なに対抗心燃やしてんの涙月⁉」


 因みに現在の涙月のサイズは××(秘密)である。


「はっ⁉ 申しわけありませんお二方!」


 トランス状態から復帰したパフパフはオレたちを離すと礼を一つし、こちらに注目していた他の乗客たちにも一つ頭を下げた。

 パフパフ――アンドロイドのクィーンであるこの女性はいつかとは違う学校の制服を着ていてオレの横に座った。何でいつも学校の制服何だろう?


「あ、これは王室ネットワークの趣味です」


 なに着せ替えごっこしてんの王室ネットワーク!


「パフパフはどしたん? 何でここに?」

「異常気象を調査するように言われてあっちへ飛びこっちへ飛びを繰り返していたのです。弟はオーストラリアに向かい、わたくしは次、海上を確認しつつのアメリカ大陸なのでこれに乗っていたのですがまさかお二人にお逢いできるとは!」


 バッと腕を広げるパフパフ。これはまた来る!


「ハグはもう良いからね⁉」

「え~?」


 あれはこっちが恥ずかしい。良く欧米人は平気にできるものである。……いや普通はぱふぱふに顔は埋めないけれど。


「お二人は報道通りにアメリカのSOSに御呼ばれで?」

「うん」


 実際のところは計りかねるが。


「思うんだけどね、ひょっとしてこの異常気象と関係あんのかな?」

「え? あ~……どうだろう?」

「ないと思います」


 曖昧なオレの代わりにスパッと応えたのはパフパフ。彼女はオレたちの前にグラスがあるのを見ると自分もテーブルに表示されているメニューからドリンクを一つ頼んだ。メニューをタップするだけで注文完了である。


「この異常気象はキング・ロサの不調が原因なのは明らかです。既にロサの方には調査・修復するプロの方々が行っていますし、その一行は多国籍チームです。アメリカが独断で行うものではありません」

「そうなん? んじゃSOSは別か。って、異常な状態が二つ重なっているわけだね」


 パフパフの前面のテーブルの一部が沈んでドリンクが現れた。


「アメリカの異常事態ですかぁ」


 ストローに口を付けて一口啜るパフパフ。ん? この匂いは……?


「あ、美味しい」

「ひょっとしてアルコール?」

「はい」


 朝八時からアルコールを嗜むアンドロイドの女王……いや良いんだけど何か凄いところを目撃している気がする。


「わたくしついて行っても構いませんか?」

「え? そっちの仕事は?」

「どうせあちらこちらに行きませんとダメですので問題ありません」


 オレは涙月を見て、


「アメリカは何とも言わないかな?」


と聞いた。


「う、む……私たちの護衛……にしたら向こうに失礼かな?」

「大丈夫だと思いますよ。アメリカは銃社会ですからどこに危険な人間さまがいるかわかりません。星冠に反感を持つ人間さまもいらっしゃいますし、SPをつけても問題ないと思われます」


 アンドロイドの予測。それは人間よりも正確でアメリカでも一定の評価を受けている。だからそのトップであるパフパフの予測も受け入れ、応じてもくれるだろう。


「そっか。んじゃよー君」

「うん。それじゃ、また宜しくパフパフ」

「はぁい」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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