第240話「……悪い……SOSだ」
ごゆっくりどうぞ。
オレは自身のアイテムである海水を顕現した。
一階ロビーが海水に浸り、しかしビルは密閉されているから外には出て行かない。流されて行く古式【アルターリ】。水圧に負けて潰れて行く古式【アルターリ】。その中で三体だけが鉱石を生み出しそれを床に柱に突き刺し耐えていた。彼らは古式ではない。
「ロイ! ちょっと辛抱しろよ!」
「……海水が……傷に沁みるんだが……」
「殆どごぼごぼして聞こえないけど喋れるならOK! 行くぞ!」
ロイを担ぎ上げ、彼のパペットであるゲザルグが顕現を解いたのを認めると海水に流れを作り出した。
次いで自分を海水で球体上に包み二階へと昇る。その途上でオレに三種の鉱石が伸びてきた。ミサイルを撃って迎撃。だが鉱石の成長は止まらない。それどころか、
「うぉ⁉」
海水から鉱石が生えてくる。至る所から生えてくるそれをかわしながらある点に気づいた。
鉱石は人体内部には発生させられない――
そうでないならとっくにやっているはずだからだ。
……実は奥の手として持っている? とも考えたがやはりそれを隠す必要はないと思う。だってオレたちを殺せば奥の手があるのを誰にも悟られないのだから。
「ん?」
三体の【アルターリ】が海流に逆らって迫って来る。その背中が解放されていて推進力を放っている様子が伺えた。
「さっすがロボット!」
オレは指先からレーザーを放って【アルターリ】の視界を奪うように炸裂させる。しかし彼らはダメージ0で向かって来る。
「カメラも特殊か⁉ それとも別の方法でオレを捉えている⁉」
機雷をばらまき【アルターリ】の往く手を塞ぐ。だが彼らは手の甲から鉱石のナイフを生やすと機雷に突き刺し爆発する前に分析、分解する。
二階に着くと古式【アルターリ】の数がまた増えた。彼らはオレの体にしがみつくと――
「――!」
自爆する。溜め込んでいた空気が肺から吐き出されて、自分だけならまだしもロイも同じ状況になった。
「おっと済まない!」
海水から空気の泡を作り出してそれで二人の顔を覆う。
「最初からすれば良かったかな」
「まったく……だ……」
「喋んなくて良いから治療に専念しろ!」
その時、二階から合流して来た【アルターリ】に横顔を掴まれた。オレの体が鉱石に変わっていく。更にその部分から棘状の鉱石が飛び出してオレの顔を貫いて――いや、こちらのエナジーシールドが棘を砕いた。オレは海水を凍らせて手刀の上に氷の剣を作り【アルターリ】の心臓部目掛けて突く。だが。
「堅い!」
砕けたのは氷の剣の方。
「なら!」
【アルターリ】に当たっている部分の海水を凍らせる。【アルターリ】の動きが止まって凍った海水から棘が伸びて【アルターリ】の全身を貫いた。
「うし!」
オレは拳を握ると海水を消して床に着地する。
「ロイ、おわ――⁉」
天井を破って光の雨が降り注ぐ。
「くっそ!」
エナジーシールドを全開にしてやり過ごそうとするも一つまた一つと体を傷付けて行く。光の雨は滝の如く降って来てその先が見えない。【覇―はたがしら―】の索敵機能も光の雨に邪魔されて奥の様子を映してくれない。だがいるはずだ。
「オ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
再びの海水の顕現。下から上へと激流――いや、爆流が昇っていく。光の雨を流し、恐らく先にいる古式【アルターリ】も流しただろう。
「はっ……止んだ……な。あ、今のフラグじゃないから」
「……アトミック……もう立てる」
「お? そうか」
ロイの体を立たせてオレは彼の喉を確認する。傷跡は残っているが穴は塞がっている。ただ脚はまだふらついていた。
「平気じゃなさそうだけど平気か?」
「歩くだけならな。まだ戦――⁉」
「⁉」
静かに、ただ静かにそいつは上から降りて来た。
見た事もない戦闘機。黒塗りで光沢があって、辛うじて戦闘機の形を取っているもの。それらは分解されて一つの人型に収まった。上半身はだ。下半身は馬のようになっていて一見すると黒いケンタウロスと言ったところか。体は背の高いオレたちから見ても自分の三倍はあった。
「こいつも――」
「【アルターリ】かよ……」
ケンタウロスが巨大で重厚な奇剣を持つ右腕を後ろに引いて、爆音を発しながらオレたちに向けて投げつけた。
「「――マジか!」」
二人声を揃えて驚いたところで左右に分かれて飛び退いた。その中心を通って巨奇剣は壁をぶち抜きガラスをぶち抜き外まで飛んで行く。
「アトミック!」
「へ?」
飛んで行った巨奇剣を見てみるとそれとケンタウロスの腕が鎖で繋がっている。ケンタウロスが鎖に振動を加えた。
「クッ!」
波打つ鎖がオレの体を弾き、
「ぐぅ!」
更に波打つ鎖がロイを弾く。
そこに。
「「――がぁ!」」
勢い良く戻って来た巨奇剣が二人を斬りつけケンタウロスの手に納まった。
「ロイ! パペットと同化しろ!」
「【誰も立つ事無き戦場に独り残ろうとも】!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ケンタウロスが吠えた。同時に四つの脚を床が砕ける程に踏み込んで――駆ける。
「疾っ!」
一瞬でオレの前に現れたケンタウロスは前脚でオレを踏みつけ、
「アトミック!」
駆けつけるロイを巨奇剣で縦に割った。
肋骨を折られるオレ。顔から胴体から血を拭き出すロイ。エナジーシールドがなければ致命の一撃となるレベルのそれを浴びて二人は床に伏した。
「……く…そ……」
毒づくオレに超重量を持つ巨奇剣が振り降ろされて腹に突き刺さる。
「アトミック……!」
倒れながらもロイはオレの名を呼び、しかしケンタウロスの後ろ脚に蹴られて後方へと飛ばされる。更にケンタウロスは馬の胴体に輝きを宿して――光弾を撃った。総数凡そ百。拳大の大きさ。それらは二人の体表に当たると爆発して二人を壁に叩きつける。
「(……駄目だ……二人じゃ勝てない……)」
こう言う手は使いたくなかったんだけどな……、そうオレは自身の情けなさに苦笑し右腕で壁を叩く。するとそこに【門―ゲート―】が開いて、オレはその中に手を突っ込んだ。
「……悪い……SOSだ」
「うわぁ⁉」
引き抜かれた手に掴まれて出てきた人物は――
「え?」
宵だった。
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