第24話「「全力で!」」
いらっしゃいませ。
六人をそのままに中央に向かって駆けるオレ。
河が傍にあって、そこでは優雅に一匹の海蛇が泳いでいた。河だけど。
通常のサイズの海蛇だ。だがパペットにしか灯らない光があった。
つまりこの海蛇はパペット。
マスターユーザーは対岸にいてオレを見ていた。
オレも脚を止めて彼を見る。
止めざるを得なかった。
だって彼はオレの通う学校で最強と言われる生徒会長だったのだから。
「初めましてだな、天嬢 宵くん」
良く通る低音ボイス。既に声変わりを終えた声だ。
黒い短髪に、柔和な目元。
自由な服装が認められているのに学生服をきっちりと着込んだ生徒会長。
「はい。生徒会長――士珠 樹理先輩」
オレに名を呼ばれ、生徒会長は一度頷く。
「もうこの土地を往く生徒は少ない。
フィールド自体幅を大きく狭めている。
俺と宵くんが手を組み勝ち残る道もあるが、どうしたい?」
「当然、貴方を倒して進みますよ、オレは」
ふと、生徒会長の口元が笑んだ。
オレの応えに満足いったのだ。
「そうだな。そうこなくてはな。
一水!」
「!」
河を泳いでいた海蛇が跳ねた。跳ねて、宙を泳いで生徒会長の傍に。
白と黒の鮮やかな海蛇だ。
けれど大きさは先に言った通り通常の海蛇と変わらない。
「アエル!」
オレのパペット、顕現。
山をいくつも跨ぐ巨体だ。しかし生徒会長も彼のパペット一水も一切怯まずに。
「大きいな」
アエルを見ても、態度を崩さずに。
余裕を見せているのではなく絶対の自信に満ち満ちている。
あの一水に一体どんな力が備わっているのだろうか。
「ここまで体格差があるときついな。
一水、あっさりやられるのは嫌だろう。
俺たちもやるぞ」
「!」
一水から雷が出てきた。竜巻のように天へ上る雷だ。
アイテム……でもジョーカーでもないな。
この雰囲気はアエルが大きくなる時に似ている。つまり巨大化現象だ。
ここで攻撃も可能だが、それは野暮か。
一水が竜巻の中央を昇る。
昇って、昇って、昇って天に達し、光となって輝いた。
「……ですよね」
と、呟いたのはオレ。
白と黒。鮮やかな体の色こそ変わりないのだが、一水の体は小さな海蛇から巨大な龍へと変貌していて。
Lv.は99。
天を泳ぐ姿は壮大で。
これが一水の本来の姿か……。
喉が鳴った。オレの喉がだ。
怯んではいない。恐れもない。
ただ心が弾む。
湧き立つ思いが全身を駆け巡る。
「やるぞ、宵くん」
オレはアイテムである八つの人魂を顕現する。
「ええ、生徒会長」
生徒会長もアイテムである九つの宝玉を顕現する。
「「全力で!」」
声は同時に。
仕掛けたのもほぼ同時に。
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッア!』
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッオ!』
アエルが炎のブレスを放ち、一水が雷のブレスを放ったのだ。
八対一のブレス勝負。けれど双方のブレスはぶつかり合い、拮抗し、破壊の衝撃を周囲にまき散らす。
互角。
『ならばこれはどうする!』
一水の言葉。
楽しんでいる雰囲気が込められた言葉だった。
一水は再び喉を光らせる。雷のブレスを放つ前兆だ。
同じ事を繰り返す気か?
しかしてそれは違った。
ブレスではあったのだが――
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッオ!』
雷が、広範囲に放射された。
『ぬぅ!』
威力は先程のブレスより弱いようだが範囲が大きい。
避けきれなかったアエルが苦悶の声を漏らしている。
でもアエルだって!
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッア!』
炎のブレスを。
『む?』
けれど放たれたブレスは八つとも明後日の方向へ。
と思ったら、途中で向きを変えて八方から一水に襲いかかった。
『なんと!』
驚きながら、雷のブレスを維持しながら体をくねらせる一水。
一つ二つ避けられ、三つ四つ掠めて、五つ六つ体に受けて、七つ八つ龍の角から放たれた雷撃で撃ち落とされた。
角から雷撃!
『だが! 雷のブレスは止まったようだ!』
恐らくブレスと角の雷撃は同時に使用できないのだろう。と思ったら、角と喉、双方が光を灯した。
同時に使用できるのか。
これまで以上の雷撃を警戒するアエル。
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッオ!』
が、雷のブレスは空高くに放たれて。
どこに向かって撃って?
勿論アエルを狙ってだった。
ブレスを角から放たれた雷撃が追撃し、破壊、雷の雨として降り注がせたのだ。
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
アエルには黒い鱗と言う防御がある。にも拘わらず雷の刺激を受けている。鱗がなかったら危うかったか?
『だが!』
アエルの首一つが炎のブレスを撃った。
それを迎え撃つべく一水の喉に光が灯り――撃たれた。
ところがアエルの放った炎のブレスを別の首が放った炎のブレスが砕いて。
『グあああああああああ!』
一水と同じだ。
同じ攻撃をアエルが行ったのだ。
『よもや一度見ただけで己の技とされるとは!
なかなかどうして賢く戦闘の性能に優れているではないか!』
『褒められたと思って素直に言葉を受けよう!
そちらも器用ではないか!』
『しかしアエルよ!
ヌシはまだ我の攻撃の全ては見ていないぞ!』
『む?』
『これは! 真似できまい!』
そう言って雷を放つ前兆現象が灯ったのは。なんと一水の背に生えた赤い毛で。
『はっ!』
裂帛の気合一つ。
一水の毛から雷が出鱈目に放たれた。
その中には当然、
『宵!』
オレへと落ちる雷もあって。
防御が間に合わなかったオレをアエルの尻尾が守ってくれる。盾となって雷撃を受けたのだ。
『くっ!』
痺れ、ダメージを受けるアエル。おかげで首の方も止まってしまって多くの雷撃を受けてしまう。
『一歩の遅れは二歩の遅れ!』
龍の角が輝く。
次いで喉も。
『まずは首一つ!』
『――――――――――――――――――!』
一水から放たれた雷撃とブレスがアエルの首一つを撃ち貫いた。
だけれどその間に外の七つの首はブレスの準備を整えていて、
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッア!』
撃ち放つ。
『ぐ!』
炎のブレスは避けられた。だが完璧ではなく龍の角の一つ、右の角を焼き折った。
『やりおるやりおる!
だが我はすでに次撃の準備を終えており!』
『!』
何度目になるのかまたも驚愕させられる。
無理もない。だって尻尾から雷撃が放たれたのだから。
『これで!』
二つ目の首を撃ち抜かれる、アエル。
『残り六つ!』
まだだ。アエルをなめてもらっては困る。
アエルは、ヤマタノオロチは日本最大の魔獣にして攻撃力の塊。
その凶暴性は神の住まう土地とて焼き尽くす!
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッア!』
『む!』
残った六つの首で放たれた炎のブレスは、大地を狙って放たれて。
ブレスを受けた大地が赤く染まる。染まって溶けて、爆発。
『ぬぉ!』
噴火の如く噴き上がった赤い土が一水に襲いかかる。
それを一水は後退する事でかわし、
『退いたな!』
赤い土を貫く形で炎のブレスが現れた。
一直線に迫りくる炎のブレスを一水は、
『退いたからなんだ!』
龍の鱗から放った雷撃で撃墜した。
『退くなれば次の準備を! 退くは敗北ではないからな!』
『そうか!』
『!』
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