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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
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第238話「きょうねぇ~つよぉい子にあったのぉ」

ごゆっくりどうぞ。

『人間号』――日本電脳情報庁の二十人からなる電脳組織最高峰。


『ぼかぁ人間十一号ですけどなぁ』


 病院から出て近くにある公園のベンチで。

 決して顔を出さない通話向こうの声はどこか飄々としていてこちらを舐めているフシがあった。が、正体を明かさない彼らの特徴を考えるとこの性格が地とはとてもではないが思えない。だから、怒る、厳禁。


切縁(キリエ)・ヴェールの事は少なからず知っとるんですわ』

「え?」


 素直に驚いた。切縁・ヴェールについては探っているものの情報は殆ど出てこない。それは情報を持っている人たちが口を開かないからで(例:『ダートマス』の関係者)、それは切縁・ヴェールを敵に回したくないからだと判断していたのだけど随分すんなりと言ってくれたものだ。


『いやぁ怖いですよぉ。仕返し考えると身も震える思いですわ』


 全っ然震えている様子が想像できない。


『ただ同時に安心もしとるんですなぁ』

「安心?」

『切縁・ヴェール、いちいちやり返す性格じゃないと思うんですなぁ。だってそう言う性格ならジャンヌ・カーラに閉じ込められた時点でなんかしとるでしょ? あんさんのお話によると“メル”に現れたようですしなぁ』


 それは、確かにそうだ。どうやっているのかわからないけれど彼女はジャンヌ・カーラの外にいるオレたちに打撃を加えられるのだ。であるなら報復はいつでもできたはずである。

 ん? 人間号がそう言う考えを持っているなら『ダートマス』の関係者――綺羅星(キラボシ)とエレクトロン――は? そこに思い至らなかったのか? それともこちらに情報を渡さないのは他に考えが?


『せ~からぼかぁこう思うんですわ。

 切縁・ヴェールは何か自分が動くに足る理由を持って行動している――て。

 となると彼女の邪魔はしない方が良いと思うんですわ』

「ちょっと待ってください。

 切縁・ヴェールのやっている事が正しいと?」

『結果はですなぁ。まぁ経過はともかく』


 後半、小声で。しかしオレの耳にはきちんと届いている。


「その経過が問題なのですが。

 人を殺すのに――」

『理由があれば良いとするわけにはいかない、と言いたいのでしょお?』

「はい」

『世の中には結果さえ良ければ万事良しとする輩もいるんですがねぇ。ぼかぁそれじゃいけないと思いますがねぇ。

 ただ、そんなぼかぁの理解など遥かに超えているのが切縁・ヴェールなのです。

 ちょっと彼女についてお話しましょか』


 そう言って始められたのは切縁・ヴェールの出生の話だった。

 彼女は炎に産まれた。

 母を焼き、父を焼き、家を焼き、村を焼き。紫炎に包まれた彼女は生まれながらの発火能力者だったと言う。

 魂に炎を与える事で現世に留まらせ、相手からはその行為を呪いだと言われた。

 呪った相手に何度も殺されかけてそれでも彼女は生き抜いた。

 村の呪われた人々を全てあの世に送った頃には彼女の姿はもう人ではなく鬼だった。


『あれはねぇ、あの姿はねぇ、人の理解を超えたものになったって事ですよぉ』

「理解」


 正直戸惑っていた。

 発火能力者? 鬼?

 オレはてっきりあの姿はパペットと同化しているからだと思っていた。だが人間号はあれが今の彼女自身の姿だと言う。そんな人物が実際に誕生し得るのだろうか?


『彼女は人間以上の力を手に入れ人間から弾き出されたんですわぁ。あんた方のパペットとの同化だって広義ではそうですよぉ? パペットと同化すると人間から一時的に階級が昇げられるのですなぁ』

「切縁・ヴェールは……呪った人たちを救って人から鬼に?」

『殺しすぎたのかも知れませんなぁ。

 ぼかぁその時産まれてなかったし人間号と言う組織もなかったので人伝と調査結果でしか言えませんけどねぇ』

「産まれてない? 失礼ですが貴方はお幾つですか?」

『今年で三十六歳になりますよぉ。秋なので誕生日プレゼント期待しますねぇ』


 顔も知らなければどこにいるかもわからない相手をどうやって祝えと?


『まあ何にせよ人間号は切縁・ヴェールとの関係を悪化させる気はありませんゆえ。申しわけないですぅ』

「……わかりました。じゃあ最後に一つ。

 貴方の考える切縁・ヴェールの目的とは?」

『難しいの聞きますなぁ。

 そうですねぇ、誰かを殺したいけれどその誰かがわかっていない、ってとこかとぉ』






「――て言われたんだよね、お父さん」

「う~ん、そりゃ大変だな」


 大して大変じゃなさそうに、我が父。すぃっと箸が伸びてじゃがバターに刺さった。大きなじゃがいもを口に運んで父は美味しそうに咀嚼する。

 じゃがバター――ただじゃがいもにバターをつけただけの代物だがこれが絶品で。初めてお母さんが作った時はバターの味が弱かったけれど何度も作っている内にベストな味を出せるようになった母自慢の逸品である。


「生憎俺から出せる情報はないぞ。人間号としても独断専行はできない」

「……うん」


 ふぅ、と息を吐き出す。まあ予想通りの応えだ。幾らお父さんが人間号とは言え仕事内容は秘匿。これは絶対だ。


「ただ、そうだな。父親として家庭内の相談には乗ってやるよ。弱ったらいつでも来い」

「うん」

「おわった~?」


 話の雰囲気を察してくれてお口チャックしていた妹がオレの膝の上に乗っかって来た。まだ胃が小さいからか多くを食べない妹は最近家に帰ってくるとすぐにお昼寝に入り『ナイト・プール』へと旅立っていく。


「きょうねぇ~つよぉい子にあったのぉ」


 友達と一緒に遊んでいるらしいのだけど心配事が一つ。体の年齢を十三まで上げていると言うのだ。『ナイト・プール』では肉体年齢を自在に変化させられる。思考もそれに合わせて変化するのだけど如何せん経験則は変わらない。だから変な男に引っかからないかとオレと父はハラハラしていたりする。


「強い子?」

「うん。体じゅうにいっぱいキカイがついててねぇ、じぶんを兵器だっていう子ぉ。わらわないんだよねぇ」


 兵器……それは何と言うか――危ない子だろうか? 『プール』は星冠(ホシカムリ)含むガーディアンがいるから危険人物はすぐにin禁止になるはずだが。


「でもねぇ、キレイな子だからわらうとキレイだとおもうんだよねぇ。みんなとはなしたんだけどぉ、どうにかしてわらわせようって。

 んでぇ、きーちゃんがまず兵器としてのぷらいど? をくだこうってはなしになってぇ、みんなでバトルしてるのぉ」


 中々ハードなゲーム人生を送っていらっしゃる。


「おともだちになったらしょうかいするねぇ」

「うん。楽しみにしてるよ」


 そうだ。切縁・ヴェールにどんな事情があっても日常を壊されるわけにはいかない。

 この生活を護る為にオレは、戦う。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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