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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
237/334

第237話「――で、私たちは除け者かい?」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


 右足を上げて床に降ろし、左足を上げて床に降ろす。


「調子は?」

「見ての通りだよ、(ヨイ)


 氷柱(ツララ)さんの見舞いに来たオレは足を動かす彼を見てどう言って良いのかわからない感情になった。氷柱さんの両脚にサポーターとなる機械が付けられていたからだ。白くて美しい曲線美を持ったものだがそれを付けていると言う事は両脚が普通には動かないと言う事だ。

 氷柱さんはアンチウィルスプログラムとしてビキニ環礁に向かい、願い叶わず脳に回復不可能な損傷を被った。その為に両脚を動かせなくなったのだ。


「こいつは脳じゃなくて感情を受けて動くものらしいよ。今のところ問題はなし」


 ベッドに腰を下ろしてサポーターを摩る。


「お風呂はちょっと不便だけどね」

「……この後は?」


 オレは自分の動揺を見せないように笑顔を作って尋ねた。この後とは退院後だ。


「うん……アンチウィルスプログラムに戻るよ」

「良いんですか?」


 精神的に、身体的に。


「宵、ぼくもウォーリアなんだよ。ゲームじゃなくなったけど戦える間は戦うよ。

 それにジャンヌ・カーラにいる切縁(キリエ)・ヴェールって言う人には貸しがあるからね」


 脚を摩りながら。


「せめてこいつの仇くらいは討たないと」

「……わかりました。でですね、見舞いに来た身で言いにくいんですけど」

「うん」

「アンチウィルスプログラムと星冠(ホシカムリ)で手を組まないかと言う話になっていまして」


 既に最高管理からアンチウィルスプログラムの組織長には話が及んでいるはずである。今氷柱さんがピクッと眉根を上げたところを見るに組織内にはまだ話していないと。


「因みに王室ネットワークと魔法処女会(ハリストス・ハイマ)にも話は行っていて両者からOKが返ってきました。

 後はアンチウィルスプログラムと人間号です」

「そうか……知らない間に随分広くなったね」

「実はですね、『デス・ペナルティ』のマスコットと戦ってわかった事が一つ。

 敵さん【魂―むすび―】を持っているみたいなんです」

「――っ!」


 目を(ミハ)る氷柱さん。


「懸念はまだ他にも。

 ビキニ環礁で戦った時史実演算機の気配も感じました。ただ今考えるとあの時の『敵』はオレの脳が作り出したものだったのでオレの動きがわかって当然かも知れなくて、でも最高管理は用心するようにと。

 もう一つ。

 切縁・ヴェールは数式を操ります。アマリリスのそれと非常に良く似たもので通称紫炎の数式。こいつの前にオレと『パトリオット』は敗戦しユメを奪われました」

「…………」


 唾を飲む音。氷柱さんの喉からだ。


「切縁・ヴェール……そんなに強いの?」

「強いと言うか……いや強いんですけどそれ以上に賢いんだと思います」

「『ダートマス』の開発者――だったね」

「はい」


 その『ダートマス』はと言うと沈黙を守っている。幽化(ユウカ)さんと対峙した時破壊されたと言われているが真相は幽化さんしか知らぬまま。綺羅星(キラボシ)とエレクトロンもまた同じ。沈黙って一番怖いんだけど。


「……待って。その切縁・ヴェールはどうやって“メル”に現れたんだい? ジャンヌ・カーラにいるはずだろう?」

「そうそこも問題なんです」


 指を一本立てるオレ。


「当初あの子も脳が生み出した想像の創造かと思ったんですけどそんなわけないんですよね。だってオレ、切縁・ヴェールの存在なんて知らなかったわけですから」

「……ふむ」


 脚を摩っていた手を止めて顎に置く氷柱さん。


「向こうが望むものを想像させられるってパターンは?」

「それも考えられました。ただそれなら脳にアクセスした何らかの証拠は残るだろうと言われました。

 が、それは見つかっていません。ひょっとしたら何の痕跡も残さずやってのけたのかもですが。

 どっちにしても、わけがわからないと言うのが正直なところですね」

「そうか……」


 思わず二人して沈んでしまう。部屋に重苦しい空気が顔を出し始めたところで――


「――で、私たちは除け者かい?」


 部屋の外から声が届いた。

 この病院に限らず全ての病室は防音になっていて普通は通路からの声は聞こえない。ただ看護師に面会の許可を貰えば専用のカードが貰え、ドアにかざす事で一時的に防音機能を止められる。入室の際に声をかけるからだ。

 と言うかこの声は?


糸未(イトミ)さん――ですか?」


『パトリオット』の隊長である糸未さんの声だった。


「開けて貰えるかい?」


 オレは氷柱さんを見て「オレは大丈夫です」と伝えた。氷柱さんが頷いたのでオレはドアまで行き開閉ボタンを押した。音もなく静かにスライドするドア。


「こんにちは宵君。それに初めまして氷柱君」

「こんにちは」

「初めまして」


 ドアの向こうにいた糸未さんは浮遊する車椅子に乗っていた。


「糸未さんここの病院だったんですね」


 彼女を部屋に通して、ドアを閉める。


「ああ、済まないね、教えようかと思ったんだけど襲撃の可能性を考えてストップがかかっているんだ」

「そうですか。…………ん? かかっているんだ? 今も?」

「そうだね」


 ではこの状況もまずいのでは?


「星冠の動きは聞いていたし、宵君の姿を見かけたもんでね。看護師に無理を言ってカードを借りたんだ」

「それで外から聞いていたと?」


 苦笑する氷柱さん。


「盗み聞きは素直に謝るよ。済まない。でも聞いていて良かったよ。

 宵君、同盟の輪に『パトリオット』も加えて欲しい」

「しかし……」


 糸未さんの状態を見る。車椅子に座っているのはまだ体のダメージが回復していないからだ。腹部に空いた穴は塞がっているようだけど四肢をまともに動かせないのだろう。

 だからオレの返事は――


「無理です」


 だった。


「幾ら何でも怪我人を巻き込めません」

「その答えだと怪我人じゃなければ良いと言う事になるね?」

「それは――そうですけど」


 思わず口を噤む。よくよく考えれば噤む必要などないのだ。実際怪我人なのだから。


「宵」

「え?」


 氷柱さんに呼ばれて振り向くと――彼は大剣を顕現してそれを糸未さんに向けて放った。

 ちょっ⁉

 オレの焦りとは正反対に糸未さんは極めて冷静で、大斧を顕現すると大剣を弾きその柄を掴んで氷柱さんの首筋にピタリと止めた。ちゃんと両脚で立ってだ。

 見事な動きだった。けれど良く見てみると糸未さんの体は小刻みに震えている。

 でも。

 オレは息を吐いた。


「わかりました」


 一瞬とは言えあれだけの動きと気迫を見せられたらダメとは言えない。それはプライドを砕く行為だと思う。


「最高管理にはオレから話しておきます。糸未さんは『パトリオット』のスポンサーである財団に話してくれますか?」

「ああ、勿論だ」


『パトリオット』は民間企業を束ねる財団によって運営されている。そこの許可が下りなければ参戦はできないがユメを逃したと言うミスをカバーしたい気持ちもあるだろうから多分大丈夫だろう。

 後は人間号か。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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