第236話「略奪愛? 略奪愛なの?」
ごゆっくりどうぞ。
☆――☆
「と言うわけで、星冠と手を組んでも良いと思う人挙手!」
「「「めっちゃ嬉しそうなのは幽化さまと仕事ができるからでしょうか?」」」
満開の向日葵にも匹敵する神巫――わたしの微笑み。に、総員あげてツッコむ魔法処女会各支部長。によによと目が笑っている。
「そんな楽しそうにするなー!」
わたしの声が木霊するオービタルリング魔法処女会支部。
幾らシスターとは言えやはり女の子。恋バナは心底好きなのである。
「まあ良いではありませんか。一緒に仕事して距離を縮めるのも」
「そんな下心なんて持ってないからね卵姫!」
「あら? わたし、魔法処女会と星冠の距離の事を言ったのですが」
シレッと。
「~~~~~~~!」
「あの」
顔色を朱に染めてプルプルと震えるわたしに、手を挙げるのはベーゼ・ブル。魔法処女会から星冠に派遣されているシスターの一人ね。
「現時点でも協力関係にあるわけですがこれ以上のものとは?」
「え? あ、うん。一言で言うなら命を互いに預けるレベル」
ざわ、とほんの少し動揺が走った。
「『デス・ペナルティ』の件は解決されたのですよね?」
「いいえ。解決と言って良いのはそれを流した犯人を捕まえた時よ。現在その最重要人物はジャンヌ・カーラにいる切縁・ヴェールと言う人物。
わたしたちはまずジャンヌ・カーラの在処を探す事から始めるのだけどそっちは幽化さまが情報を持っていらっしゃるから光が見えている状態ね」
「「「ほう、幽化さまが」」」
「いちいちによによしない! で! だからわたしたちは現在の倍シスターを派遣してその情報を精査します!」
「わたくしたちが参りましょう」
「あ」
そう言いながら支部施設に入ってきたのは――
「いらっしゃいリル、ラコン、村子」
「こんにちは神巫、皆さん」
慇懃に頭を下げるリル・コットン。ラコン・クォーン。可愛 村子。魔法処女会【永久裏会】に所属する上位三人である。
永久裏会とは魔法処女会の分隊に当たる医療団体。魔法処女会本隊は祈りで精神を癒す。永久裏会は医術で体を癒す。多少やり方は乱暴であるが。同時に彼女たちは犯罪者を追う隊でもあるから、
「相手が殺傷を厭わない相手ならわたくしたちの方が良いでしょう」
この度の仕事に向いているとも言える。
「そうね。でもそれって貴女たちが心体ともに傷ついて良いって話じゃないからその辺誤解しないように」
「はい」
「何だかんだで暫く宵に逢えていないですからねぇ、どんな子に育ったのでしょう」
一人宵との交流がある村子はそんな事を言いながら頬に手を当てる。
「写真あるけど見る?」
「いいえ自分の目で確かめます」
画像フォルダから何枚か表示しようとしているわたしとそれを制す村子。周りのシスターの目が輝いた。
「え? 何? 村子って天嬢さま狙い?」
「略奪愛? 略奪愛なの?」
「ぶー。生憎わたしはシスターとしての生き方を喜んでいます」
「「「え~?」」」
またまたぁ、そんな感じで恋バナは尽きずに。
「ところで」
「なぁに村子?」
「コリスは?」
「ああ、あの子なら――」
「ぶっへぇ」
砂の山からぶば! と顔を出すコリス。
「も、もいっちょお願いしますアマリリス」
「だいじょーぶコリス?」
心配そうに小さな手を顎に当てるアマリリス。
ここは『デイ・プール』にて造られた魔法処女会訓練場の一つ、熱砂地帯。コリスはここにアマリリスと入っていた。
わたしが覗いてみた時にはもう汗だくで。
「だいっじょーぶ! わたしも涙月や宵の役に立ちたいのですそれにはもっと強くならなければいけないのです」
「無茶しちゃメー」
腕を交差させて、バッテンマーク。
「はい皆さんを心配させる程の大けがは負いません! だからもういっちょ!」
「……ん。コリスにぴったりのトレーニングしてあげる」
「はいです!」
☆――☆
「行きたいのです! お願いします!」
そう言いながら頭を下げるのは――
「頭をお上げ。クィーン・パフパフ」
わたくし――アンドロイドたちの女王、パフパフであります。
そのわたくしに率先して声をかけたのは王室ネットワークに所属するとある国の年老いた女王さま。
「貴女を無理に縛り付けない、それは貴女を造られた方との約束です」
とある国、と表現したのはぼかしたからではなくどこの誰かわからないように姿が砂嵐に覆われているから。
ずらっと並ぶ椅子に腰かけている各王室の面々。この場に座るには王室ネットワークへの所属と正式パスの継承が必要であり、更に専用のゲートを通過しなければならないので余所者が潜り込むは不可能と言われています。
「パフパフ。星冠最高管理から既に協力を申し込まれておる。元より其方を派遣する予定にあるゆえ改まって儂らに頭を下げるのは必要ないぞ」
「そうでしたか。急ぎ足申しわけありません」
言って頭を下げる。
「気にするな。しかし君一人行かすわけにはいかぬからして――」
「ワタクシも行きます」
手を挙げるのは砂嵐に覆われた一人。
「あなたは――」
姿を隠していた砂嵐が消える。正体を明かしたのだ。
「ラヴィサン」
「はい。ワタクシは個人的に彼ら星冠に恩があります。それを返す絶好の機会だと考えます」
「しかし……」
懸念の混じる声。それはプリンセス ラヴィサンがバトルタイプではないから。彼女の身を案じるのは勿論、手助けに行って足を引っ張ってしまえば元も子もない。
「ワタクシを情報を渡す梯子と思っていただければ。無茶はしません」
「ふむ。確かにこちらの意思を伝達する代表は必要か」
と、王室の一人。
「これまでは最高管理をこの場に招いてするものであったからね。逐一その方法を取っていては遅れてしまうね」
更にもう一人。
「ラヴィサン。貴女には王室ネットワークの代表としてその場その場で決断してもらう場面が来るだろう。その結果次第では王室ネットワークから脱退してもらう可能性もある。
それでも行くかい?」
「はい」
迷わずの、首肯。
「では――儂は異論ない」
「同じく」
「そうだね。ただ二人では不安だ。姫もパフパフも女。男が必要になる事もあろう。パフパフ、君の弟を連れて行きなさい」
「わかりました。彼にはわたくしから伝え了承を得ます」
「「「宜しく」」」
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