第235話「何言ってんのよ勝ったでしょ」
ごゆっくりどうぞ。
「いやぁドローに終わってしまった」
オレたちの元へとやって来たアトミックは軽快な笑顔を見せる。「人目があるしちょっとどこかの影にでも」と言うオレの提案に応じて一行は近くのショップに入った。かつての宇宙食が買えるお店で店内は昔を懐かしむ年頃の男性女性が数人ほどいる程度だ。
アトミックはまず仲間三人を駆け付けた警備に任せ病院に連れて行くよう指示を出した。どうも鉱石化した体は【覇―はたがしら―】による再生を受け付けないらしい。その後オレたちと合流したわけだ。
「で、護衛対象をほったらかしにしてどこの誰とバトッていたの?」
じろぉとアトミックを睨みつけるララ。ただし声は小さい。人がまばらとは言え店内で大声を出すのはNGである。
「いやぁあの二人がお姫さん方をつけていたから相手したんすよ」
「つけ――」
「私たち二人が狙いだったと?」
「と言うより」
オレたちに向けて視線を流すアトミック。誰に、ではない。全員にだ。
「『デス・ペナルティ』関連かと」
『デス・ペナルティ』は無効化された。確かにその現場に居合わせた人間がここにはいる。
「魔法処女会の方は何んともないっすか?」
「今のところはね」
宇宙食フルーツパックを手に取りながら応じる神巫。
「ただアマリリスを関わらせちゃったから対岸の火事とはいかないでしょうね」
アマリリスはと言えば先に購入した宇宙食チョコレートを店内に僅かに設営されている飲食エリアでパクついている。実にハッピーそうだ。
「奇襲に備えておいてくれると助かるっす」
「そうね。宵」
「うん?」
ここでこちらに話題が及ぶと言う事は。
「貴方の第零等級権限で星冠と魔法処女会でタッグ組めないかしら?」
「うちと?」
オレは涙月に目をやって、ララに目をやって、ゾーイに目をやった。「「「わかんない」」」と目が言っている。
オレは頬を指でひとかき。
「ん~、いっそ星冠と王室ネットワークと魔法処女会一丸に成れないかな?
できればアンチウィルスプログラムと人間号も加えたいけど」
「それは流石に無理じゃ?」
苦笑する涙月。
「ん、自覚はある」
でも可能性として一度は提案・チャレンジしてみるべきかと思ったのだ。
「神巫が口を利いてくれるなら魔法処女会が他組織と組むのは問題ないんじゃないかしら?」
と、神巫に目を配るララ。
それに対して神巫は頷き言葉を継ぐ。
「王室ネットワークの方はどうなの? ララにゾーイが動けばどうにか成らない?」
「上に進言しても良いが期待はできない。私とララは王位継承権を持っていても実際に継げる立場にはいない。兄と言う者がいるしね。ただプリンセス ラヴィサンなら或いは」
「貸しもあるからねぇ。特に命を落としかけたよー君には」
「え? 何それ?」
オレを見て来る神巫。
「負けかけ――負けたの、オレ」
「何言ってんのよ勝ったでしょ」
オレの言葉を訂正するのは、ララ。
「幽化さんがね」
「関係した皆が勝ったのよ。それで良いじゃない」
「……う~ん」
確かに団体としては勝ちを得たのだけど……すっきりしないんだよなぁ。
「まあ……今は良いや。
二人プリンセス ラヴィサンに連絡は取れるの?」
オレの気分で話を中断させるわけにいかないから言葉を続ける。
「連絡先なら知っているわよ。ただここで連絡取って決めるのは幾ら何でも無理だから正式な場でお願いする流れになると思うわ」
「直近でいつ?」
「明後日」
近い。問題はなさそうだ。
「それじゃその時に」
「OK」
次いでオレは神巫を見る。
「神巫は?」
「魔法処女会の上位を集めて話を通すわ。だからその後星冠最高管理と逢わせてもらいたいのだけど」
「わかった。最高管理に神巫と逢ってくれるように伝えておくよ」
「ん」
第零等級の頼みなら多分きいてくれると思う。それでなくとも星冠に対して優しい管理者だし。
「アトミック、軍の方であの二人の正体探れる?」
次いでアトミックに問いかける、オレ。
「映像提供は当然するよ。ただバトりながら二人のデータを過去の犯罪データと照会していたんだけど該当する奴はいなかった。だから期待は薄いな」
「そう、か。
『スラーヴァ』には問い合わせた?」
『スラーヴァ』――ロシア政府の協力の下【アルターリ】を開発完成させた企業だ。
「それは上層部がやってくれていると思う。今んとこ返事はなし」
「企業を口説くのに時間がいる、か。わかった。まずそれぞれの対象に話し通すとこから始めようか」
皆と別れてオレと涙月は再びスローンズへ。舞い戻った時にはまだ最高管理と幽化さんは話し続けていたので暫し通路にて待機。中央の声は中央だけにしか響かないので二人が何を話しているかは不明だ。愛でも語り合っていたら面白いのだけど。とか思ってないから。
十分弱待ったところで幽化さんが通路の方へと歩いてきた。話し合いは終わったようだ。
「幽化さん」
「話の内容は最高管理が後日話す」
「そ、そうですか」
それだけ言うと幽化さんは通路の端まで行ってラムダゲートを通って行ってしまった。オレたちの話には興味なしですか……。
<お待たせしました、天嬢星冠卿、高良星冠卿。
どうぞ中央へ>
「「はい」」
最高管理の声に導かれて、前へ。
<何か進展がありましたか?>
「進展――と言うか提案と言うか」
<聞きましょう>
「王室ネットワークと魔法処女会、これらと手を組めませんか?」
<……王室ネットワークは私たちの上役でありスポンサーです。こちらから指示は出せませんが、心情を組んでは頂けるでしょう>
王室ネットワークからは高慢さも傲慢さも感じない。今持っている印象通りなら最高管理の言葉通りになると思う。
<魔法処女会の神巫とは親交があると聞いています。これは彼女の提案でしょうか?>
「はい」
当たりだ。読みが良い。
「神巫も魔法処女会のメンバーに話しているところだと思います」
<成程。なら私に異存はありません。上々に話を進めましょう>
「お願いします」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




