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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
234/334

第234話「『場所を移したいんだが』、だって」

ごゆっくりどうぞ。

「私フランちゃんに様子聞くね」

「あ、うんそうだね」


 ララ・ゾーイ・アマリリスと共にオービタルリング【レコード・0(ゼロ)】に戻って来たオレたち。涙月(ルツキ)は一人その輪から離れフランに通話をかけ始めた。オレたちは少しの間涙月の方を見ていたが彼女がこちらに向けて親指を立てた事でホッと胸を撫で下ろした。どうやらちゃんと削除できたらしい。


「オ~イ」

「あ」


 こちらに駆けてくる人影が三つ。一人はフードを被った(カンナギ)。彼女は歌手でもあるからバレない為に最低限姿を隠しているのだろう。他の二人は初見の女性だ。二人共普通の格好だが神巫(カンナギ)の護衛だと思う。


「アマリリスを迎えに来ました!」

「ちょっ(カンナギ)声大きいっ。何のためにフード被ってんのっ」

「え? お洒落だけど?」


 姿隠しじゃなかった。


「ま、まあどっちにしてもアマリリス寝てるから静かに」

「おやほんと」


 ララに抱っこされているアマリリスはすぅすぅと寝息を立てて穏やかに眠っている。

 (カンナギ)はアマリリスを譲り受けると、


「若くして子供を持った気分だわ」


とアマリリスに頬ずりしながらそう言った。


「父親は幽化(ユウカ)さまか?」

「ちょっ何言ってんのこの子はっ」


 言いながらも満更でもないご様子。そうか、(カンナギ)の好きな人は幽化さんだ。お似合い……か? と思いながらもオレはサングイスさんの姿を思い出していた。ひょっとして恋敵と言う奴になるんだろうか?


「そうそうララにゾーイ」


 頬に少し赤みを残したまま、(カンナギ)


「ん?」

「さっき二人の護衛の姿見たわよ」

「え? アトミックたち来てんの?」


 アトミック・エナジー。戦艦『ドレッドノート』をパペットに持つオレより年上の男。彼は今EUの抱える軍の一人で各王家に配備されている護衛の一人である。


「ワタシらここに寄る事伝えてないんだけど……ゾーイ連絡した?」

「いや。けれど追跡されていてもおかしくないだろう。護衛対象に逃げられたらただの阿呆だ」


 そう言えば。オレはララと初めて逢った時の事を思い出す。逃げていたな、このレースの神さまは。


「ん~、でも貴女たちを追って来たならすぐこっち来ない?

 別の要件で来ているんじゃないの?」

「別? 護衛って基本暇なんだけど……」


 顔を振ってアトミックの姿を探すララ。彼の代わりに通話を終えた涙月が駆け足で戻って来た。

 ……駆け足?


「皆あっち!」

「あっち?」


 涙月の指さす先に目を向けてみると――オービタルリングの外に何者かが立っていた。


「……っ⁉」


 外――つまり宇宙空間に立っているのに不思議はない。【覇―はたがしら―】のエナジーシールドは優秀も優秀。それを証明する為、或いは穴を探す為にテレビ番組で様々な環境対応テストが行われた過去があるが、海中・マグマ・砂漠、そして宇宙空間あらゆる場所でその防御力を発揮した。

 ただ残念ながら切縁(キリエ)・ヴェールの攻撃には無効だったのをオレは知っているが。

 で、だ。ならばオレはオービタルリングに立つ何者かの何に驚いたのか?

 それはそいつの姿格好だ。

 黒。真っ黒なマントで頭から足元まで隠した姿。その右手に握られる巨大な鎌。刃が向けられるは隣に立つ白い拘束衣を着た男の首。誰がどう見ても一般市民ではない。


「あ」


 オレが二人に注目していると同じくそちらを向いていたはずのララから一言が漏れた。


「ララ?」

「あっち」


 オレの肩を叩きながらララは二人とは別の方向を指さした。


「あ」


 目を向けてみると距離を取って二人に向かい合う形で四人の男が佇んでいた。その一人の顔には覚えがある。


「アトミック?」


 たった今話題にあがった男アトミック・エナジーその人だ。


「な、何やってんのあの子?」

「護衛行動ではないな。EUから別命を受けたか?」


 その時アトミックの目がこちらを見た。しかしすぐに目はそらされる。それは間違いなく目の前の二人組を警戒する為の行動だ。

 アトミックの口がパクパクと開閉を繰り返す。


「『場所を移したいんだが』、だって」

(カンナギ)、今のわかったの?」

「読唇は得意よ、(ヨイ)。耳も良いし」


 指でVサインを作る(カンナギ)神巫(カンナギ)として声を聞く際には役立ちそうな能力だ。ひそひそ話をする時は口元を隠そう。


「場所を移すって……バトルするから?」

「少なくともアトミック君たちの方はそうっぽいわね。ただあの二人――」


 涙月に応えながら(カンナギ)は二人組の方を向く。


「場所の変更に応じる気はなし、ね」


 黒マントの手が動く。攻撃ではない、白い拘束衣の男の首から鎌を外したのだ。そして男の耳元に顔を寄せる。

 ? 何か囁いているのだろうか?

 次に黒マントは拘束衣の胸元にある緑色の宝石を強く叩いてそれを割った。解かれる拘束衣。その下から現れたのは――


「【アルターリ】!」


 ロシアの作り出した魂の器。光沢を放つ緑の人型機械。テレビで見たものよりも一回り大きくデザインが異なるが間違いない。

 アトミックたちが構え、パペットと同化する。それを合図に緑の【アルターリ】が腕を大きく振り上げ――オービタルリングを殴打した。


「――⁉」


 殴打された所を起点に緑色の鉱石が伸びてアトミックたちに迫る。そうか、【アルターリ】には宝石精製の力があると言っていた。

 アトミックたちはバラバラになってそれをかわすが緑の【アルターリ】は既に一人飛んでいて、狙いはアトミック。まだ距離が五十メートルは離れている彼に向けて右腕を振る。鉱石がどこからか生えてアトミックを串刺しにせんと迫る。アトミックは魚雷を撃って鉱石を砕きその上を滑るように移動して【アルターリ】に近づきレーザーを撃つ。しかし【アルターリ】は鉱石で壁を作って半ば砕かれながらもレーザーをやり過ごす。

 そこにアトミック側の仲間三人が【アルターリ】の左右背後からそれぞれの武器で攻撃を繰り出す。

 杭と鞭と円刃。

 しかしまたも鉱石が壁となって立ち塞がり、一人が【アルターリ】に脚を掴まれる。するとどうだろう、その脚が鉱石へと変わっていくではないか。やられた男は即座に脚を吹き飛ばし血が漂う。見入っていたオービタルリング内の人たちから小さな悲鳴が上がった。

 オービタルリングにも警護はいてこの区画を担当する人たちがバトルの様子を遠巻きに見ている。手を出さないのはそうしろとアトミックたちに言われたからだろうかそれとも気を使った自己判断だろうか。

 片脚を失った男性は邪魔にならないようすぐに離脱して代わりにアトミック含む三人が【アルターリ】と抗戦を続ける。

【アルターリ】は自分の周囲全てに鉱石を発生させるとそれを全方位に向けて撃ち出した。それらは三人の前方まで来ると、


「「「――⁉」」」


華が開くように弾けて三人を拘束する。だがアトミックは鉱石に包まれた掌からレーザーを撃ってそれを砕いて、続けて二人に向けてミサイルを撃った。鉱石が砕けて二人は自由になるも三人の周囲に漂う欠片が棘となって執拗なまでに彼らを襲う。

 鎌を持った黒マントはその行方をじっと見ていて視線をそらさない。

【アルターリ】の首を掴むアトミック。ゼロ距離でレーザーを撃ち放ち――しかしその首を砕けはしなかった。

 ならばと他の二人が杭と円刃で首を挟撃。だが砕けたのは二人の武器の方で。

【アルターリ】の両手が二人の首を掴んだ。鉱石へと変わっていく二人の体。【アルターリ】は首を掴んだまま二人の体を自らの前でぶつけて、二人の鉱石に変わった体にヒビが入った。

 叫ぶアトミック。水を顕現して【アルターリ】を囲み、水圧で潰しにかかる。しかし水が鉱石へと変化させられて砕けて消える。

【アルターリ】は掴んでいた二人を離すとアトミックに向けて両腕を振るった。すると鉱石の糸が津波となってアトミックの体を打ち、彼の体がオービタルリングに激突した。

 これは……まずいな。「オレたちも行こう」と言おうとしたところで、【アルターリ】の動きが止まった。


「あっちあっち」


 涙月の言葉に彼女の方を向くとバトルとは違う方向を指さしていた。そちらに目を向けると片脚を失った一人が黒マントの首に鞭を巻き付けていて。【アルターリ】は暫くじっとしていたがやがてストップを外し、宇宙空間を悠然と歩いて黒マントを捕まえている男性の元へと向かっていく。それを認めた男性は鞭を持った腕を引いて黒マントの首を刈り取った。

 ――が。


「――⁉」


 黒マントは中に何もなかったかのようにハラリと垂れて漂った。戸惑う男性の元へと駆ける【アルターリ】。男性は鞭を振るって【アルターリ】の左腕に巻き付け刈ろうとするも鞭は鉱石に変わってしまって砕け散った。

【アルターリ】の放った拳打が男性の腹にめり込んで男性は吐血。意識を失ってしまった。そこで動きを止める【アルターリ】だが背後からアトミックの放ったレーザーを受けて、手傷こそ受けなかったが飛ばされてしまい地球への落下コースに乗ってしまう。

【アルターリ】は体を反転させてアトミックに目を向けると自らの人差し指で首に一つ線を引いた。「殺す」と言う意味だ。アトミックはそれに同じ仕草を返して、ようやく一息ついた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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