第233話「インフィ。インフィデレス」
ごゆっくりどうぞ。
「えと、これで削除……」
【パナシーア・ネイル】にて表示されるアプリ欄。その一つ一つについてあるバッテンマークをタップするプリンセス ラヴィサン。タップに反応してバッテンマークが大きくなり、アプリ『デス・ペナルティ』と共に消去された。
おお~と小さな反応が返ってくるスローンズ。それに応えて手を振るインフィ。どや顔だ。いや、確かにインフィのおかげなんだけど。
「はぁ」
気が抜けたのかプリンセス ラヴィサンの足腰がふらついて、瞬時に彼女の背後に丸っこい椅子が出現した。その椅子に腰を落とすプリンセス ラヴィサン。
次いでオレの方を向くと、
「貴方にはご迷惑をおかけしました、宵」
「えっと……」
とんでもないです、と言うのは簡単だったが少し戸惑った。流石に命を持っていかれそうになった事が重い。どんな言葉を返そうかと思いあぐねているとララが口を開いた。
「今回の件は公表されません。が、どんな理由があったとしても軽率な行動であったのは確かです。ご反省を」
ララの――いやレアの姫の一人としての言葉。プリンセス ラヴィサンはレアを見ると顔を俯け、しかしすぐに居住まいを正してオレに頭を下げた。オレはそれを見て微笑みと頷きを一つ返すに留めておいた。
<では、王室ネットワークからの勅令は果たされました。皆さまに最大の礼と感謝を。
そしてアマリリス、インフィデレス>
「ん~?」
涙月に抱っこされているアマリリス。ウトウトとし始めていた意識が名を呼ばれて覚醒したのかぱっちりと目を開いた。
一方でインフィは面倒くさそうに頭の後ろで手を組んでいる。
<まずアマリリス。ありがとうございます。貴女のおかげで天嬢星冠卿は救われました>
「ん~、それはもう宵から聞いたからぁ」
当然礼は済ませてある。
<そうですか。ではインフィデレス>
「はいはい」
<貴方にもまず礼を。ご協力感謝します。ありがとうございました>
「幽化から脅迫があった件について――いえ何でもありません」
その幽化さんに睨まれて目を顔ごとそらすインフィ。
<しかし>
「うん?」
<仮想災厄『人類銀貨プログラム インフィデレス』、貴方には手配書が出ています>
スローンズに集う星冠に緊張が走った。誰もが臨戦態勢を取ったからだ。
「う~ん」
その敵意を一身に浴びながらもインフィは頬を指でかく仕草。
<私たちは貴方を見逃せません。申しわけありませんがここで拘束を――>
「インフィ。インフィデレス」
最高管理の言葉途中で混ざる別の女性の声。この声は。
空間に走るヒビ。それを中心にグルンと世界が渦を巻き――
「母さま」
仮想災厄の母、ユメの妻であるピュアが現れた。
長く伸ばされた星空の流れる黒な髪。黒紫色をベースにした服は軍服にもドレスにも見える。
その左手に銃があった。
星冠たちの標的が瞬時に変化した。ピュアへと向く敵意。だがその頃にはもうピュアが銃を撃ち放っていた。
「「「……!」」」
星冠たちの足元に刺さる鋭い光の十字。ピュアの銃弾だ。僅かな間だけ止まる星冠たちの動き。その隙をついてインフィはピュアの元にまで移動する。
「ぐっばい宵」
その言葉と同時に空間に空いた穴が閉じられた。
<……幽化星冠卿、動きませんでしたね>
「何を言っている? 幾らピュアとは言えスローンズに無傷で辿り着けるか」
つまり、わざと侵入路を作っていたと。他の星冠にしてもそうだ。ピュアが相手とは言っても銃弾一つで動きを止められるはずもなく。
<普通に侵入され、普通に逃げられただけですよ>
そう言う最高管理の声はどこか柔らかく感じた。
インフィを仮想災厄として捕えようとした。が、逃げられた。そう言う結果が王室ネットワークには報告される。今回はそれで良い。
<インフィデレスの能力によって『デス・ペナルティ』の脅威は去りました。まず一つ――いえ勅令の解決を加えると二つですか。二つの解決を喜びましょう。
幽化星冠卿、サングイス氏について進展がありました。この後残って頂けますか?>
「ああ」
ジャンヌ・カーラの看守サングイス・レーギーナ。
進展……とうとう場所を聞き出せたのかな?
<皆さまへの報告はまた後日。
では一先ずこれにて解散です。お疲れさまでした>
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




