第231話「奴は見つけたか?」
ごゆっくりどうぞ。
マスコットの手が巨大な包丁に代わった。
「『ウォーリアネーム【手にした夢は純白の輝き】』」
危険を感じてパペットと同化。ここでこのマスコットと一戦交えるとして――いや距離を取ってみるか? ビキニ環礁の時はそれで逃れられた。それはビキニ環礁と言う空間に脳波想像物創造機能が付随されていたからだけど、この場合どこにそれはあるのだろう? 一番可能性が高いのは――オレはマスコットを警戒しながら手元に目を向ける。【パナシーア・ネイル】、その中にあるアプリ『デス・ペナルティ』これに仕込まれているのではないだろうか? ただ削除はできないわけで。
それならば。
オレは紙剣を【パナシーア・ネイル】に軽くあてて、削った。アプリを削除できないのなら入れ物であるこれを壊せば。そう思ったからだ。
【パナシーア・ネイル】自体は頑丈にできているものの紙剣の斬力の方が上だった。前述通り問題なく削れた。起動中を示す光が消えて、自然と爪から剝がれて床に落ちる。
マスコットは――
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
超無事。ダメか。
『アプリはぽくを呼び出すきっかけに過ぎないよ』
「……そうみたいだね」
『天嬢 宵。君に死因をあげるよ。せーの』
「の」、と同時にマスコットが消えた。
咄嗟にオレは苦無を飛ばして全身を囲む。苦無に衝撃。マスコットが狙ったのはオレの首だった。本気で殺す気っぽい。丸わかりの殺意。こっちもその気でやらなければ間違いなくやられる。
『反応が早いね。流石にパペットウォーリア現覇者だね』
「知っているんだ――ね!」
苦無を操りマスコットの四方八方から攻撃する。それはあっさりとマスコットを切り裂いて――復元した。
そうだ。マスコットに攻撃はヒットする。問題は全く効かないと言う点。
そう考えている間にもオレとマスコットは攻防を繰り返し、
『いっくよー』
――――――――――――――――――――――――――――ず
「――⁉」
オレの周りにあらゆる銃器が顕現した。
これは――!
『ふぁいあ』
撃ち出される数百数千の銃弾。オレはエナジーシールドを展開してそれを防ぐ。が、衝撃で右に揺らされ左に揺らされ姿勢が乱れる。
『よいしょー』
銃器が消えて今度は刃。古今東西の刃がオレを刻まんと銀の輝きを放って迫る。
「この!」
苦無を繰り出し刃を砕いていく。刃はそれでも何度も何度も繰り返し現れて、影が差した。
「――⁉」
刃を捌きながら上を見ると巨大な手がそこに。ロボットだ。日本男児の憧れ巨大ロボット。昔アニメで観た巨大ロボットがそこにいた。
その巨大な手に掴まれて締め付けられる。
――ぐ……う!
絞め殺す気か? と思ったのだがそんな優しいものではなく、もう一方の手がオレの頭を握った。そのまま素早く腕を横に動かすロボット。
「あっ!」
絞め殺すんじゃない。首を飛ばす気だ。
オレはキリエのジョーカー命の灯で何とかその命を保護する。
「くっあああああああああああああああああああああああああああああ!」
更に星章全開。ロボットの手の中で体を開いて巨指を押し返す。ゆっくり開いていく手。
「――!」
そこに撃ち込まれるミサイル群。ついでと言わんばかりにロボットはオレを床に向けてぶん投げ叩きつけた。クレーター状に壊れる床板。星章とエナジーシールドを貫いて伝わってくる痛み。即座に【覇―はたがしら―】が反応して治療に入る。
しかし攻撃はそこで終わらずに、気づけば空を埋め尽くす程の天使がそこに。全天使が弓矢を構えていて――射る。同時にオレは苦無を放つ。飛んでくる矢を砕いて天使を殺し、それでも矢はまだまだ飛んでくる。
「っつぅ!」
苦無を突破した矢が飛来し紙剣に斬られ、星章に弾かれ、エナジーシールドを突破してオレの体に刺さっていく。
この能力は……これは! 【魂―むすび―】!
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
嗤うマスコット。楽しげだった表情が凄惨に歪んで見えるのはオレの見る目が変わったからか。
「お前――何で【魂―むすび―】を⁉」
『何で? ぽくを作ったお母さまは切縁・ヴェール。お母さまにも【魂―むすび―】はあるよ。君たちは気づかなかったけれど』
嘘――だろ? 流石に【魂―むすび―】を相手にするのは!
『難しいよねぇ。例えばほらほら』
そう言うマスコットの手にエフェクトと一緒に現れたのは巨大なハンマー。
『ゲームで使えるアイテムだって顕現できる――よ』
ハンマーを振りかぶって、投げる。
ちょっと今矢を弾くのに手いっぱいなんですけど!
だから防ぐ事叶わずに矢ごとオレは横からハンマーに叩かれて床を転がってしまい。
『あれ?』
しかし素っ頓狂な驚きの声を上げたのはマスコット。それはそうだろう。なぜならオレの体を覆う形で巨大な亀の甲羅が二つ展開していたから。
「オレのジョーカーは……命の灯を集めるだけじゃない」
獣に連なる能力の具現。それがこの一年と少しでできるようになった芸当である。できれば切縁・ヴェールと戦うまで見せたくなかった能力でもある。だけどもう四の五の言ってはいられない。
甲羅を解除し、猛牛の突進力を具現する。
『――⁉』
オレの突進からの殴打を受けて吹き飛ぶマスコット。集中が乱れたのか天使の軍勢が消えた。
次いで恐竜の牙を具現する。マスコットが喰い破られて無残にも死す。事はなく、バラバラになっても復元される。
「【魂―むすび―】を使う隙はあげないよ!」
撃って喰って切り裂いて。オレの攻撃は止まらない。
『ムダだよムダムダ。ぽくは殺せない』
そうかも知れない。けどマスコットに隙を作ればまた【魂―むすび―】による攻撃が再開される。そうしたら今度はもう反撃を許してくれないだろう。だから攻撃し続けるしか――ぞくりと、全身に悪寒が走った。
オレは跳びはねる勢いでマスコットから距離を取る。
何だ? 今の?
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
むくりと体を復元しながら起き上がるマスコット。
『き~め~た。天嬢 宵。君の死因は心臓消失だよ』
「なに……を」
言って? と言葉は続かなかった。胸、心臓のある位置に――穴が開いたから。
「――っ」
ぐらつく体。ダメだ……ジョーカーを維持できない……後ろにゆっくりと倒れて行き――その体が誰かに支えられた。
幽化さん……。
誰かが叫んでいるのが聞こえる。
涙月に……ララかな?
幽化さんの口が動いている。何か言っているようだ。けどもう視界が霞んで良く見えないし耳も聞こえ辛くなっている。
誰かの手がオレの胸に触れた。小さな手だ。この感触は前にもあったな……これは――アマリリス。
体の感覚が戻ってくる。視界を覆っていた霧が消えて耳に音が入ってくる。
「よー君!」
「……涙月」
ぽとんと落ちるように声が出た。いつの間にかオレは寝かされていて仁王立ちになっている幽化さんの影にいた。
「宵起きたー?」
オレの腹の上にどっかりと座り込むアマリリスが顔を近づけてくる。そうか。アマリリスの【魂―むすび―】で心臓を再生して貰ったのか。
「ううん、数式の方ね」
……違った。暁の数式での治療らしい。恥ずかしい。
「――って、何でここにアマリリス?」
心臓が再生されて血流も元に戻った事で活力も復活してきた。オレは上半身を起こしながらアマリリスの小さな体を支える。
「幽化に緊急の連絡を貰って」
「幽化さんに……」
オレの前に立つ幽化さんに視線を向ける。そう言えば幽化さんが動かない。これは、オレを庇ってくれているのだろうか? 背後にいるせいで顔は見えないがひょっとしたら少しくらい照れているのかも。
「アマリリス」
「あい」
こちらを向かないまま幽化さんがアマリリスを呼んだ。
「奴は見つけたか?」
「もー連絡入れたよ」
「そうか」
奴? 誰? この状況で加勢してくれる人材がいるのだろうか?
「実はもうここにいたり!」
「「「おわ⁉」」」
ドーンとオレの首にぶつかってくる何者か。そいつはオレの首に腕をクロスさせたチョップを放って来やがったのだ。
「こ――の声?」
「うん。久しぶり」
「インフィ⁉」
「うん」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




