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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
229/334

第229話「あの……どっちが素の貴女なのでしょう?」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


 まず言っておくと糸未(イトミ)さんは一命を取り留めた。【覇―はたがしら―】による治療に加えてオレの命の灯が彼女を何とか引き留めてくれたのだ。ただ彼女の隊士たちは人として生存不可能な域にまで達していた為に家族の了承があればロシア製【アルターリ】に魂を移植する事になった。ロシアは緊急を要する人間を優先的に扱っているから二・三日で対応可能と言う話だ。


切縁(キリエ)・ヴェールとの力量差を見抜けなかった私の責任だ」


 糸未さんはそう自分を責めた。けれどあの場にはオレも星冠(ホシカムリ)としていたのだ。これはオレの責任でもある。

 だから。


「王室ネットワークからの勅令にはオレが応じま――危ない!」


 足元に銃弾を撃たれ、オレは慌ててジャンプする。


「……何すんですか幽化(ユウカ)さん」

「ガキが一人前に自己犠牲に走るな。確かにお前は第零等級星冠、責任はある。だがお前が必要以上に責を感じて自殺したところで好転しない」


 ……これは、心配されているのだろうか?


「……自殺するつもりは――」

「では聞くが『デス・ペナルティ』に対する有効打を持っているか?」

「いえ……。でもオレがやらなかったら幽化さんですよ?」

「何言っている? やるのはお前だ」

「「「…………」」」


 スローンズに集っている星冠各位が汗を流して沈黙した。

 結局オレがやるならなぜオレは怒られているんだろう……?


「そこに行くまでの動機の問題だ。生き急いで自暴自棄になったお前にやらせる気はない。生き残るのを前提に覚悟を決めてやれ」


 生き残る――覚悟。


「安心しろ。オレがお前を死なせない」

「……貴方本物の幽化さんですか? 危ない!」


 目があった場所を通り過ぎて行く銃弾一つ。

 意外な優しさを向けられたから面喰らっただけなのだが、その面に穴が開くところだった。


<幽化星冠卿(ホシカムリキョウ)天嬢(テンジョウ)星冠卿、よろしいですか?>


 オレと幽化さんの(不本意な)コントの隙間を縫って最高管理の電子音声が。


<王室ネットワークの勅令、これを受諾するかはお二人の判断に従います。お受けしてもよろしいでしょうか?>

「はい」

「まあな」

<わかりました。

 ではこの方をご紹介いたします>


 一瞬、スローンズがざわついた。中央前方に開いた【門―ゲート―】から登場した女性を見てだ。


<EU統合王室第二王女 ラヴィサン・レーヴさま。『デス・ペナルティ』を起動させた件のプリンセスです>


 ざわめきがピタリと収まった。代わりにプリンセスに向けられるのは同情・冷淡・舌打ち。それも一瞬の事で皆すぐに平静状態に心を戻す。

 プリンセス ラヴィサンは白いドレスのスカートを軽く摘まむと柔らかく腰を折って挨拶を一つ。


「ラヴィサン・レーヴと申します。この度はワタクシの軽率に巻き込んでしまい申しわけありません」


 そう言った声は震えていた。良く見てみるとスカートを摘まんだ手も小刻みに静かに震えている。


「特に幽化星冠卿と(ヨイ)星冠卿には何を言って良いか……」


 う~ん……。

 オレはちょっと弱ってしまった。ただ「良いですから顔をお上げ下さい」と言うのは簡単だが命がかかっている上に王室ネットワークの為に星冠に犠牲になれと言っているのと同じだ。であるならばオレよりも周りの星冠たちの方が怒っているかも。だから「良い」とは言い辛いのだ。


「顔を上げろ、ラヴィサン」


 ――と思ったのに幽化さんが言ってしまった。この人ハート強いなぁ。


「お前がした事は確かに軽率だ。だが星冠の上にいるなら決して付け入る隙を見せるな」


 言いながらプリンセス ラヴィサンを目の端で睨む。


「……はい」


 弱々しく返事をしながらプリンセス ラヴィサンは腰を伸ばして顔を上げ、目元を一度腕で拭った。

 ん?

 しっかり彼女の顔を見てみると左頬が少し赤くなっているのに気が付いた。あれは……多分誰かに叩かれたのだろう。お叱りを既に受けているのならここでオレが責める必要も他の星冠が責める必要もない。

 そんな事を思っているとプリンセス ラヴィサンと目が合った。


「お久しぶりです、宵星冠卿」


 彼女は優しく微笑み、こう言うのだが。


「……えっと」


 覚えがない。プリンセス ラヴィサンとは初対面のはず。


「お逢いしていますよ、『デイ・プール』のゲームで」

「ゲーム……」


 反芻して記憶を探ってみる。が、やはり覚えがない。いや待てよ、声には覚えが――


「あ!」


 記憶のフィルムをぐるぐると回しているところに椅子に座っていた涙月(ルツキ)が声を上げた。


「涙月?」

「ひょっとして……ゲームでもプリンセスやっていました?」

「やっていました」


 そう言われても『デイ・プール』に無数にあるゲームにはやはり無数にプリンセス役が存在する。殆どがノンプレイヤーキャラであるが中にはプレイヤーが演じているキャラも――


「あ」


 そこまで考えてようやく思い至った。


『きゃははははぴょんって跳んだぴょんって!』


「少女――でしたか? アバターは」

「はい」


 何と言う事でしょう。バトルしてますわこの人と。となると確認しなければならない。


「あの……どっちが素の貴女なのでしょう?」

「どちらがお好みですか?」


 表情には悪戯っ子の色が滲んでいて。あ、この人典型的な悪いプリンセスだ。


<天嬢星冠卿、その話は後程>

「あ、はい」

<プリンセス ラヴィサン。幽化星冠卿と天嬢星冠卿が王室ネットワークの勅令に応じます。ただ応じたとして解決策が見つかるかはわかりません。

 それでよろしいですか?>

「はい」


 いざと言う時の覚悟はできている、そんな決意のにじむ表情。


<では、『デス・ペナルティ』、ここで起動させますか?>

「広い場所が良い。人が多くても邪魔だ。付いてくる星冠は精々二・三に絞ってくれ」

「はい! 私行きます!」


 一番に手を挙げる涙月。


「ワタシも」


 続くララ。そして当然のように――


「では私も」


 ゾーイも続いた。


「これで打ち切りだ。他は来るな」


 手を挙げかけていた他の星冠が幽化さんに睨まれてすごすごと手を降ろす。


「最高管理。専用のゲームワールドを構成するのにかかる時間は?」

<既存のものではいけませんか?>

「パスを知っている奴が邪魔に入る可能性がある」


 やるべき事に専念する為には頑強なセキュリティがいる。


<わかりました。では一時間後に連絡を致します。天嬢星冠卿もよろしいですか?>

「はい」

<では、この場にて中継を行いますが集合は絶対ではありません。各々で行動してください。

 それでは最後にユメ・シュテアネと切縁・ヴェールについて。

 切縁・ヴェールはジャンヌ・カーラにいる者で間違いないでしょう。問題はそこからどうやって出て今現在もそこにいるのか、そして彼女の目的は何なのか。

 現状歯痒い事だらけですが、ジャンヌ・カーラの場所については一つ光明が見えました>


 光明?

 その言葉にざわめく星冠。


<幽化星冠卿の報告によりジャンヌ・カーラの看守が見つかりました>

「「「――!」」」


 皆の視線が幽化さんに注がれる。


<現在その方との交渉中です。上々に運ぶようお祈りください。

 それでは、失礼致します>

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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