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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
226/334

第226話「オレにもしもがあった場合――」

ごゆっくりどうぞ。

「一応確認」


 そう言ってオレはアプリ削除の手順を取った。


[キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル

 君は死因を消せないよ。

 誰にも死因は消せないよ。

 だって皆に死因はあるのだから。

 キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル]


 極めて冷静な音声。嗤うでもない嘲るでもないただ事実を告げるだけの声。

 ふむ……。例えばこの【パナシーア・ネイル】にクラッキングを仕掛けて『デス・ペナルティ』を削除できないだろうか? そしてそれを元に削除ウィルスを作成してネットに流す。


涙月(ルツキ)、コリス。場所を変えたい。できれば人のいないとこ」

「んじゃウチ来る?」

「え? 3Pですかそれはちょっと困ります」

「「そんな予定はありませんが!」」


 勿論コリスも本気ではなく「きゃっ」と言いながら顔を手で覆い隠していた。


「じゃ行きますか」


【門―ゲート―】を開く涙月。そこにまず涙月が入ってコリスが入ってオレが最後に――


「ドーン!」

「え? ええ?」


 入ろうとしたところで何かが背にぶつかって来た。

 倒れ込みながら【門―ゲート―】を通り、オレは涙月の部屋の床に鼻を打ち付けた。痛い……。


「い、今オレに何が起こって?」

「パフパフじゃん。どしたん?」


 鼻を摩りながら顔を上げると、アンドロイドのクィーン・パフパフが指でピースサインを作りながら仁王立ちしていた。


「ちょっと御用がありまして。あ、コリスは初めましてですねか~わゆい~」

「ふやぁ」


 コリスの頭をがっしと掴んでパフパフは自身のぱふぱふな胸に押し当てる。


「くっ、わたしだって大きくなったらこのくらい!」


 顔を埋めながらコリスはそんな事を言う。

 ……ごめんコリス、パフパフに敵うとは思えない。


(ヨイ)星冠卿(ホシカムリキョウ)、涙月星冠卿。王室ネットワークからの勅令です」


 ぷへっ、とコリスが胸から顔を離した。


「勅令? 最高管理を通さずに私らに? あ、ジュース用意するから待っていておくれ」


 そう言い残して一旦退室する涙月。勅令の方が気になるもののパフパフも大人しく待機モードに入ったのでオレも座りなおした。

 顔を動かしてみると、コタツに古いゲーム機が数機、マンガ本がぎっしり詰まった本棚と勉強机、それにベッドが目に入った。前に来た時と若干の違いがあるものの基本は変わらない涙月の部屋だ。

 部屋の壁には大きなデジタルフォトフレームがかけられていて、写真が消えては映ってを繰り返している。文字を写真ごとに記録できる仕様なので派手に装飾されているものが幾つか続き、その中で全く飾られていない素の写真が一枚あった。プレゼントしあった指輪を着けたオレと涙月のツーショット写真。


「うわぁお! お二人遂にご婚約を? 式には呼んでくれます? 呼んでくださいよ盛大に爆笑を誘って見せますから!」

「きゃあきゃあお二人は愛を誓い合ったのですね可愛い」


 その写真を見つけてはしゃぐコリスとパフパフ。似た者同士か……。


「ヘイお待ち! ん? よー君何ほっぺた朱くしとるん?」

「何でもないです……」


 頭にクエスチョンマークを浮かべつつ涙月は持って来たコーク入りコップをコタツの上に並べる。四人は乾いた口の中を潤す為にまず一口飲んで。因みにアンドロイドは普通に人間用の食事を摂れる。体内でエネルギーへの変換が可能なのだ。凄いな。


「で、勅令って?」

「はい宵星冠卿。正確には貴方にです。

幽化(ユウカ)星冠卿と揃った場にてどちらか一方が「デス・ペナルティ」を起動し試すように』」

「「「――!」」」


 すいません、嫌です。

 とは言えないだろう。王室ネットワークは確かに星冠の上役でありスポンサーでもある。しかしこうした命令を直接星冠に届けるのはこれが初めてだ。であるならば王室の方々はこちらよりも深刻に事を考え早急な解決を望んでいるものと思われる。

 ……ひょっとして。


「王室の誰かが『デス・ペナルティ』をやってしまった?」


 オレは顎に当てた手を少し離して誰かにともなく呟いた。


「ですね。EUの統合王室のプリンセスです」


 呟きに応えてくれたのは、パフパフ。

 EUは複数の国の集合体だが今から十四年前にそれを象徴する為の統合王室を選出したのだ。ララやゾーイの更に上の存在であり、昨今第一プリンスが王位を継ぐ準備に――つまり結婚の準備に――入っている。


「その妹君がやっちまったんですね」

「……そう」


 成程。ますます嫌ですとは言えなくなった。


「よー君……」


 涙月がコタツの中にあるオレの手を握って来た。オレはそれに応じて握り返して、親指で彼女の手の甲を摩った。


「……条件を出しても良いかな?」

「はい。わたくしがお伝えします」

「オレにもしもがあった場合、刑期を終えたユメが人と共存する道を選ぶなら彼を第零等級星冠に任命して欲しい」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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