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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
225/334

第225話「膝枕と交換で差し上げます!」

ごゆっくりどうぞ。

 なった、のだが。


「多いねぇ」

「そだねぇ」


 予想以上に多い女子高生の姿。確かに日本の女子はネイルアートに敏感だけど世界規模だったとは驚いた。


「これはオレ、入りにくいから涙月(ルツキ)行って来てくれる?」

「良いの? どさくさ紛れにおっぱいにぎゅ~って挟まれるかもしんないよ?」


 おや、魅惑的なお誘いであ――いやないない。


「それ彼氏に言う?」

「る・つ・き~!」

「「え?」」


 にししと歯を見せて涙月が笑っているとショップ前の女子たちの山の中からコリスが飛び出て来たではないか。


「コ、コリス?」

「はいで~す」


 涙月の首に腕を回して抱き着くコリス。オレたちとは違う学生服を着ていてちょっと珍しい。


「何でここに?」

「勿論【パナシーア・ネイル】を買う為ですあ、【覇―はたがしら―】が嫌ってわけじゃないですよ寧ろ大好きですラヴァーズですでも新しいものも試したいのです」

「「相変わらずの勢いですね」」


 喜色一面の表情。スリスリと涙月の首筋に顔を擦りつけるサマは子猫にも見える。


「コリス、地上の中学だったよね? 何でわざわざ月にまで?」

「見学です(ヨイ)

「見学?」

「わたしも天の川銀河コロニーの高校に行こうと思ってまだ一年ありますがその為に宇宙の中の学校に慣れとかないとと思いましてそしたら【パナシーア・ネイル】売ってるではないですか在庫にも余裕があるそうなので手に入れようと思いまして手に入れました!」


 それだけ一気にまくし立てるとコリスはぷへぇと息を吐いて吸った。

 良く噛みもしないで喋れるものだ……。


「在庫に余裕あるんだね?」

「はいです」


 顔をブン! と鳴るほどに大きく縦に振る。首痛めそうだ。


「んじゃちょっくら行って来るからよー君お願い」

「わはぁ⁉」

「うわ⁉」


 コリスの小さな体をぽいっとオレの方に放り投げる涙月。オレは慌ててその体をキャッチし、その時にはもう涙月は女子の塊に突っ込んで行っていた。


「涙月も【パナシーア・ネイル】をご所望で?」

「うん。実はだね――」


 フランと言う名前は出さず友人Aとしてここまでの流れを話して聞かせた。するとコリスの顔色が蒼白に染まってしまう。


「や……やばい物なのですかこれ……?」


 大きく震えながらなぜかオレに箱に収められている【パナシーア・ネイル】を差し出すコリス。ちょっと、やばいと判断したものをオレにくれるのやめて頂けます?


「わかりました!」


 突然拳を握るとコリスはオレの手を引いて近くにある噴水まで引っ張っていった。芸術性溢れる古代の男性像が中央にある噴水でその周りは人が座れるようになっている。そこにコリスは座ってぽんぽんと自分の腿を叩く。


「膝枕と交換で差し上げます!」

「要りません!」


 膝枕は魅力的だけどね! とか思ってないからね!


「起動しなきゃ大丈夫だよ。……………………多分」

「多分って言った! 小声で多分って言った! 宵はわたしが死んでも良いと言うのですか⁉」

「ちょっと声が大きい!」


 おまけに涙目になっているものだから周囲の女子たちの目がすごく冷たい。オレ何もやってないと思うのだけど。


「たっだいまー」


 そんな時に陽気に戻ってくる涙月。更に女子たちの目が厳しくなった。何で?


「ん? コリスをよー君が泣かせている?」

「涙月まで言うか」


 一部始終を話すと涙月は「はは~ん」と笑った。


「よー君、君はもう逃げられない」

「はい?」


 なにから?


「なぜなら二人分買ってきたから!」

「なんと!」


 いやまあ涙月に着けさせるくらいならオレが着けるよ? うんほんとにそう思っていた。


「あ、お金の半分よー君持ちね」

「……ですよね」


 いやまあ払うつもりだったよ? うんほんとにそう思っていた。


「コリス、不気味に嗤わない」


 涙月は早速オレに【パナシーア・ネイル】の一つを渡してくる。

 卵型の箱を見てみると【パナシーア・ネイル】を着けてにっこり微笑んでいるお姉さんが印刷されていて裏側にちょっとした注意事項が書かれているだけだった。

 開けてみると説明書の類がない。アッ〇ルの製品もそうだったけれど初めて手にしたら結構戸惑うと思うのだが。


「ま、普通に着けるだけだしねぇ」


 そう言いながら涙月は箱から中身を取り出す。

 デフォの【パナシーア・ネイル】は無色透明。臭いもなし。ただ磨かれ過ぎていて着けた指だけが綺麗に見えるだろう。


「購入者層のメインは女の子だろうね」

「それ狙ってる感はありますね。ブームは女の子からです」


 確かに二人の言うようにファッションのブームを作るのはいつの時代も女の子だ。


「さてでは、着ける? よー君」

「うん……うん、着ける前にどんなもんか中身を確認したいけどできそうにないし、まずオレが着けるよ」

「あ、それダメ」


 左右の人差し指をクロスさせる涙月。仕草が可愛い。


「私はパートナーとして隣にいたいのですよよー君」


 可愛いし、心強い。


「……そうだね、じゃ一緒に。コリスは?」

「はい! 見学しています!」


 ……や、良いんだけどね?

 オレは半ば呆れつつ、卵型の箱から取り出した二つの【パナシーア・ネイル】へと目を向けた。


「せーので」

「うん」


【パナシーア・ネイル】の一方を摘まんで持ち上げ、


「「せーの」」


まずは左手人差し指の爪の上にピタッと着けた。特に専用の接着剤を使うでもない、テープ類を使うでもない、それでも爪と【パナシーア・ネイル】は重なって離れない。では続いて右手にも。

 それと同時にホログラムが表示された。取り外す時の所作を記したものだ。確認の為にその方法を行ってみたのだが……取れなかった。オイこら。思わず言葉遣いが悪くなる。


「涙月取れる?」

「……うんにゃ」


 これは苦情ものだろう。早速お先真っ暗――と思ったら続いてホログラムがアップデートされた。取り外し方の訂正文だ。その通りにやってみると今度は取れた。


「……本気で間違ったのかわざとかどっちかいな?」

「間違った、にしとこう……」


 はぁ、と息を吐いて改めて起動させる。説明書がないからカンで指を振ってみるとホログラムディスプレイが幾つか表示された。

 その真ん中に封筒があった。オレはそれを掴んで封を切る、と音楽と一緒に公式マスコットが現れた。日本のマスコットとは風味が違い少し珍しく面白い。マスコットは喋らず表示されているディスプレイの周りを飛び回りタップするべき箇所を幾つか教えてくれた。

 まず時計、天気、インターネット、電話、メール、カメラ、各種アプリ。

 次いで爪から全身の神経をスキャンする光が体に走った。


「よー君、【覇―はたがしら―】の機能をスリープさせてちょっと待ってて」

「うん?」


 涙月はそれだけ言うと少しオレから距離を取り――まさか――石を拾いぶん投げてきた。


「うぉっ」


 拳程もあるそれをオレは慌てて避ける。予想外に速い一投で、避けるスピードも【覇―はたがしら―】をスリープさせている割には速かった。

 涙月が駆けて戻ってくる。


「ふむ、『神経電流を操作し反応速度の飛躍的上昇、神経の驚異的保護を行う』って言葉には偽りなしだね」

「せめて一言言ってから投げようよ」


 顔面にヒットしたらどうするのか。


「ごめんごめんよー君なら察してくれると思って」

「……『まさか』とは思ったけどね」

「以心伝心ですか相思相愛ですか?」

「両方でーす」

「きゃああああああああ」


 ちょっとお二人さん、恥ずかしいからやめてください。

 とオレは一人周囲の目を気にして小さくなる。


「それではわたしも着けますよ!」


 コリスの手が卵型の蓋に伸びる。


「え? あ、ちょい待ち! まだアプリの確認ができてないから!」

「あ、例の死因さんですか。お早く!」


 きっと新しいものをイの一番に試したいタイプなのだろう。脚をバタつかせ始めた。

 オレはその脚に手を当てて沈めつつ(でなければスカートから下着が見えそうだったから)アプリ欄を開く。


「――あった」


 そこには『デス・ペナルティ ~びっくりぽっくり~』が既にインストールされていて。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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