第224話『衛星軌道兵器の開発を完了したとの事です』
ごゆっくりどうぞ。
で、アプリの九利とはまず自分の満足。それに無粋だけれどお金だ。オレの配信したアプリは日本よりも海外の人たちに受け中の上と言うダウンロード数と課金具合で。
けれど本当にお金目的で旧アプリ配信機能を受け継ぐだろうか?
「けどさ、一つのアプリだけで成功しちゃう企業もいるんだぜい?」
と『スターリー・フェス』の中で一人の子供が発言した。涙月が扮しているキャラでカラフルな髪色の少年だ。
この『スターリー・フェス』、中の上と言う成績を受けて【覇―はたがしら―】でも使えるソフトとして流してみたのだ。
「よー君は拝金主義者じゃないからピンと来ないかもだけど一攫千金を狙っている人なんてごまんといるのさ」
それはまぁ、そうなのだろう。二十一世紀の初め頃にはSNSアプリが幾つか流行ったのも事実だし。その人たちがこぞってお金に走ったわけではないが金銭的な成功を喜ばなかった人はきっと少ない。
「んじゃ涙月はやっぱり金銭目的で旧アプリ配信機能を使っていると思う?」
ゴーストキャラで、オレ。
「んにゃ全く」
「あ、違うんだ」
「例えばロシアさんの【アルターリ】、これって宝石を造れるって話でしょ? それならもうお金いらないっしょ?」
人工の宝石にどれだけ高値が付くのかは不明だけれど子供の一人二人なら育てられそうなイメージはある。
「だから旧アプリ配信機能を受け継ぐ必要はないと?」
「うん」
となると。
オレはゲーム画面から顔を外して――『スターリー・フェス』はアプリと差をつけないようにゲーム世界に飛び込むのではなく外からの操作タイプにしてある――天井を見る。蛍光の星型オーナメントが三つ程ぶら下がっているのが見えた。
「残る可能性は……取引」
「だぁね」
最高管理の予想通りジャンヌ・カーラの何者かとアメリカ・ロシアの思惑の合致。
「……涙月、両国の星冠に動いてくれそうな知り合いいる?」
星冠の権限を以て両国両企業に接触し話を聞く。それができれば。けど生憎オレにはそこまで仲の良い星冠はいない。
「いるよ。て言うかよー君にもいるよ」
「え?」
前述通りにいないと思う、のだが。
「ベーゼだよ。あの子今はローマ暮らしだけどアメリカ出身」
「え? そうなの?」
「うん」
それはラッキー。
「私が頼んでみるよ。男の子より女の方が話しやすいだろうし」
「懐かれているしね」
「人徳って奴ですな」
ハハン、と胸を張る涙月が想像できた。オレはそれに苦笑しつつゲームからログアウトする。
さて、お風呂入って今日は寝ますか。
今日は冬休みラストデイ。明日からまた学校だ。早く寝よう。とオレはこの件の重さを感じつつも寝床に着いた。
次の日の朝。朝食を摂りながらTVを観ているとそのニュースが飛び込んできた。ああ、好きなコーナーだったのに中断された。
『――イラン・中国同盟からのニュースです』
美人で有名なアナウンサーのお姉さんが資料を左右に表示しながら前を向いて言葉を発する。いつ資料を見ているのか全くわからない。これはこれで凄い技術だと思う。
『両国の情報官の発表によると衛星軌道兵器の開発を完了したとの事です』
「――!」
衛星軌道兵器 ―― 一年より少し前、両同盟国が核レーザー兵器の開発を始めると言うニュースが流れた。しかし国際社会の反対・制裁を受けてその案は却下され、更に衛星軌道を監視する形で日本・イギリスによってオービタルリング【レコード・0】が開発された為に頓挫した。はずだ。それを完了した?
『次いで発表がありました。
本日午後0時、北朝鮮首都に向けて照射されます』
これに対し北朝鮮外交官は――と話は続く。
これは……まずいのではないだろうか? 北朝鮮にはまだ拉致された日本人が多くいる。いやそれを抜きにしてもきっと多くの人が死ぬだろう。更にそのまま戦争と言う流れに成りかねない。それくらい想像つくと思うのにそれでも撃つと言うのだろうか。
【門―ゲート―】を開いて学校に着くと生徒たちの話題は二つのコンピュータと核レーザーで持ちきりだった。
「困ったものですなぁ、イランさんと中国さんにも」
これってやっぱ国内情勢のせいかな? と涙月。
中国は経済成長が天井にあたり、共和制に反対する勢力が拡大していると聞く。その度に仮想敵として日本が矢面に立たされるのだが最近は反日感情を煽って一丸になるのも難しいらしい。
イランの方は海域警戒網の開発と成長で海賊商売特需を受けられなくなり経済破綻を救われた恩が世界にはある。にも拘らず裏切ってくれたのだ。
涙月の言う通り「困ったもの」だ。
「んで涙月、ベーゼの方は?」
「ああうん、他のアメリカ出身の星冠と一緒に話聞いてくれるって。難しいかも知れないから期待はしないでって」
「そっか」
まあそれは仕方ないだろう。過度な期待をして成果を得られなかったからと言って怒らないようにしよう。心は広く、ね。
その後休み明けの式が行われ、講堂からオレたちは再び教室へと戻った。今日は残すところ掃除だけなので早速掃除に行こうとしたところで、
「ね、ねぇ宵くん涙月ちゃん」
「うん?」
二人のクラスメイトから声をかけられた。女の子と男の子の二人組。付き合っていると噂されている二人だ。
「どしたんフランちゃん?」
「こ、これ見て欲しいんだけど」
オドオドとしながらフランが差しだしてきたのは、両手の人差し指。このオドオド感。覚醒したアエルと出逢う前のオレのようでちょっと他人事とは思えない。いやそれはともかく。
フランの震える人差し指の先にあったのは――【パナシーア・ネイル】。おや? フランは【覇―はたがしら―】のユーザーだったはずだが?
「りょ、両方使っちゃった」
……あ、そうか。どっちかに拘る必要はないんだった。
「綺麗な指だな。咥えて良い? ってよー君が」
「思ってないけど⁉」
焦ってツッコむオレの視線の先でフランの後ろにいた男の子が照れている。……まさか咥えた事があるのだろうか?
「そ、それで見て欲しいのはこれ」
右手人差し指を軽く振る。するとスロット風にホログラムが現れてその一つをタップ。アプリを収めた棚が表示された。
「え、えっとね」
指でホログラムを摘まんでこちらに向けるフラン。
「こ、これ」
アプリの一つを指差しながら。
死因アプリ『デス・ペナルティ ~びっくりぽっくり~』がそこにあった。
「ダウンロードしちゃったのフランちゃん?」
「う、ううん。最初から入ってたの」
「「入ってた?」」
確かに幾つかのアプリは最初から入っているものだけどそれはあくまでコンピュータ販売企業の公式アプリだ。どこかの企業・個人を優先してしまったら差別に繋がるからである。
しかもこのアプリは問題になっているものだ。とてもではないがラッキーとは喜べない。
「あ、アンインストールできなくて、で、でも残して置くと間違って押しちゃったりしそうで怖くて」
「ちょっと削除手順やって見せてくれるフランちゃん?」
「う、うん」
フランは別のアプリを長押しする。するとバッテンマークが全てのアプリの上に表示されて、『デス・ペナルティ』をワンタップ。通常はこれで消えるはず。しかし『デス・ペナルティ』は削除されずに。
[キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
君は死因を消せないよ。
誰にも死因は消せないよ。
だって皆に死因はあるのだから。
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル]
代わりにこんな音声が流れてきた。怖っ。
「成程」
と、応えたは良いもののさてどうすれば?
「フランちゃん、ネイルにもうプライベートな情報書き込んじゃった?」
涙月がそう言うとフランは後ろの男の子を見て、かぁっと二人揃って顔を紅潮させた。
ははん、あれな写真を撮りましたね?
なんて指摘できないのでオレと涙月は顔を見合わせてアハハと笑っておいた。
「えと、それじゃ借りるのはできないね。
んじゃあ私とよー君で【パナシーア・ネイル】を買ってちょっくら調べてみるから少し待っていてくれる? 待ってる間、間違いで起動しないよう注意してもらう事になるけど」
「う、うん。ありがとう」
と言うわけでオレたちは早速月面都市にある近くのショップまで出かける事とあいなった。
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