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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
221/334

第221話「一応聞くけど、二人共寝不足って――」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


<脳波領域の拡大と具現化、情報確かに頂きました。

 お疲れさまでした天嬢(テンジョウ)高良(タカラ)星冠卿(ホシカムリキョウ)。それにクィーン・パフパフ>


 星冠の集合地『スローンズ』にてオレたちはビキニ環礁で起こった件を報告し終えた。本来ここには星冠しか入れないのだけど今日パフパフは特別に招かれている。事件の当事者と言うのもあるだろうが王室ネットワークの一言が大きい。


<アプリ『デス・ペナルティ』もこれに該当すると予想します。

 であるならば外から『デス・ペナルティ』を阻止するは存外の難事となるでしょう。

 では私から星冠皆さまへの問です。お願いと取って頂いても差し障りありません。

『デス・ペナルティ』だけに反応するウィルスを造れますか?>

「造ったとして」


 即座に応えたのは、幽化(ユウカ)さん。


「『デス・ペナルティ』はダウンロードされたそれぞれでプログラムが異なる。脳波の具現化と言う現象は同じようだが。オレと(ヨイ)のスマートフォンに入れられている奴と『パトリオット』が復元した奴を比較した結果だ」


 ここに来て報告する前に幽化さんには事の顛末を話してある。その時に合わせてウィルスを流そうかと言う案も提示したのだけど幽化さんは既にそれを試した後だったのだ。

 こう、協調性とかいるよね?


<そうですか。では別の道を探りましょう。

 まず先日行われた『デス・ペナルティ』に対する注意喚起の報告を>

「はい」


 中央に進み出る第五等級星冠卿の二人。代わってオレと涙月(ルツキ)とパフパフに幽化さんが下がって中央を囲む階段状の椅子に腰かける。


「結論から報告いたしますと逆効果でした。『デス・ペナルティ』に対する報道は過熱し、面白がってダウンロードした市民は百万を超えています。内、既に起動し殺害された市民は五十九万」


 多い。いやどこか不自然ではないだろうか? 幾ら市民が好奇心に駆られたと言っても死亡すると言う報道がされているのだ。そんな危険なアプリに百万もの人間が手を出し半数以上が起動してしまうなんて。

 同様の指摘を他の星冠がすると第五等級星冠卿は。


「こちらもその疑問に達し、可能性として以下を考えました。

『デス・ペナルティ』をダウンロード及び起動したくなる何らかの信号が出ているのではないか?」

<検証はしましたね?>

「はい。大気中を飛ぶ形での信号はありませんでした。ですのでスマートフォンを入手して探りました。

 結果、個々の脳波にチャンネルを合わせる為に『声』が出ているのを観測しました」

<声? 内容は?>

「こちらが録音内容になります」


 手を前に出しボタンを押す仕草。


[キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル

 君を殺しに逢いに行くよ。

 君を眠らせヴェールをかけるよ。

 君を送って灰を撒くよ。

 君の死は未来の為に。

 君の死は人間の為に。

 君の死は世界の為に。

 百万の為に君は消えるよ。

 キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル]


「――以上です。これがエンドレスに流れていました。この声と脳波のチャンネルがあった時アプリを起動させられます」


 過去、オレが『デス・ペナルティ』と接触した際、オレの耳にはこの声は届いていなかった。チャンネル合わせに時間がかかった為だろう。ラッキーとは犠牲者の数を鑑みればとても言えないが。


<ご苦労さまでした。

 それでは多少強引な手段をとりましょう。

 全スマートフォンを破壊します>


 確かにそれが一番手っ取り早く事件を終了させる手だろう。苦情の処理に四苦八苦する未来を思い描くとゲソって表情になるけれど。


<今日中に私の権限を以て必要な部署に連絡を取り許可を得ます。ノーは言わせません。翌日のスローンズ標準時午前七時に大気中に電磁波を流しスマートフォンの破壊を実行します。

 皆さまにはその時間ここにいて頂きたく思います。暫くは星冠に対する不平不満が出るでしょうから避難と言う形ですね。

 宜しいでしょうか?>

「「「はい」」」

<では、良き時をお過ごし下さい>






 そしてやってくる翌午前六時五十分。

 オレと涙月は二人揃ってスローンズにやって来た。涙月は寝不足なのか目をしきりに擦っている。そう言えば少し前も学校行事で旅行する時眠れなかったと言っていたっけ。今回はイベントではないが大事だから緊張していたのだろう。かく言うオレも眠れたのは五時間にも満たなかったりするけれど。大人になる前に治したいものである。


「宵、涙月ーこっちこっち」


 中央に五つのディスプレイが浮かんでいる。その一つを観られる絶好の場所にララとゾーイがいた。

 オレたちはララに呼ばれてそちらに寄って椅子に腰かける。


「一応聞くけど、二人共寝不足って――」

「何考えているのかわかるけど違うから!」


 ジト目で問うて来るララにオレは慌てて否定。それに対して今度は涙月にジト目で見られた。いや二人普通に自分の家にいたでしょ。


「そっちこそここ半年くらいゾーイと一緒にいる時間増えたよね?」

「そりゃ婚約者ですもの」


 ララの言葉にうんうんと頷くゾーイ。ゾーイは男装の麗人で男として世間では通っている。

 スイスのプリンセス、ララことレア・キーピングタッチ。

 イギリスのプリンセス、ゾーイ。

 二人はいずれ結婚する。同性婚ではなく女と男として。同性婚も随分受け入れられる世の中になったものの王室となるとやはりそうはいかないのだろう。


「不躾な事聞くけど……」


 オレは小声にして、


「跡取りどうすんの?」


と聞いた。途端顔を紅潮させるララ。何を想像した?


「そ、それは――何とかするわよっ。養子とか」

「いや、恐らくそうはなるまい」

「え? 何か知ってんのゾーイ?」

「予想だけどね。きっと両国で得られる最高の卵子と最高の精子で産み出されるだろう」


 遺伝子改良と人工授精。同性婚と同じく珍しい話ではない。誰もが優秀な子供が欲しいし、障害を持って産まれて来て欲しくはないだろう。今では日本含め多くの国で受精卵のDNAチェックが行われている。


「試験管ベビーかぁ……まあ、しようがないかしら」


 長い銀の髪をかき上げながら、ララ。

 彼女は女としての恋愛よりプリンセスとしての立場を取った。と世間では思われているがオレたちは決してそれだけではないのを知っている。幸あれ。


「よー君、皆、七時になるよ」

「うん」


 視界に表示されている時刻を観ると後十秒を切っていた。


 7

 6


 3

 2

 1


 七時に時刻表示が切り替わり――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!


 ディスプレイに映されている世界に白い光が満ちた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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