第22話「行くよ、オレ」
いらっしゃいませ。
万以上あった労働者人形は半数になり、更に半数になり、おまけにも一つ半数になり、合計七体になるまで数を減らす。
どうして?
何て考えは数秒。答えをあちらが提示してくれた。
人形の姿が膨張したのだ。
巨人と呼ぶべき姿になるまで。
「合体!」
したのか。
「当然見た目だけじゃないさ!」
どう! 轟音と突風が吹き荒れる程強く大地を踏みつける巨人人形。飛んだ。全高五十メートルはある巨体で空高くまで。
クリストトコスを超えるまで。
飛んで何をしたかと言うと、
「マジかい」
火炎雷を殴って落雷の方向を捻じ曲げた。
乱雑に落ちる火炎雷。オレやアエルの傍にも落ちてきたが当たりはせずに。
落雷の行く先を決める精密さはないらしいが……あのジャンプ力にパンチ力、パワーの合算までしてくるとは。
厄介だけれど同時に素晴らしいじゃないか。
だけどこれで、アエルが火炎雷を作り続ける限り人形たちは防衛に回るしかない。
「来い!」
八つの人魂を呼び寄せて火炎の剣に。
それを以てして蒼夜に斬りつけ――ん?
気づいた。蒼夜の口元が笑んでいるのに。
彼はまだ! 手を残している!
しかし駆け出した足を急ブレーキかける事はできない。大きすぎる隙を生んでしまうからだ。
ならば、彼の奥の手ごと斬り裂くんだ。
「らっ!」
力強く、正面から蒼夜を縦に分断するように切り下し――その動きが途中で止まった。あまりにもな突然の停止に腕の方がしびれた。
どうして止まった?
剣の方に目を向ける。と見えたのは剣に巻きつく茶色い何か。
蛇か? とも思ったが違う。蛇の割には長い。何より頑丈かつしなやか。
茶色の何かは地から延びていて、ゆっくりと姿を土中から見せてくる。
オレの横を通って、何かの先は蒼夜の手に握られていて。
「鞭!」
「その通り! 労働者がいる! ならそれを統率する人間もいると言う事さ!」
「うわ!」
剣に巻きついた鞭が振られ、それを握っていたオレの体ごと横に飛ばされる。
人間一人を振り回す腕力。
とてもではないが蒼夜一人分の腕力とは思えない。これは巨人人形と同じだ。統率者側の人間の力が彼一人に合算されているのだ。
そして、鞭が燃えなかった事、斬れなかった事を考えるに鞭もいくつかの鞭の力が合算されていると考えた方が良いだろう。
ここまで考えたところで大地に転がるオレ。綺麗に受け身を取れれば良かったのだがちょっとカッコ悪い着地になってしまった。
一度剣を人魂に戻し、鞭を外し即座に駆ける。
バカ正直に正面から蒼夜に向かっていっても鞭の餌食になるだけだ。
でも背後からの攻撃は卑怯。それはやりたくない。だからオレが向かったのは鞭を握っていない彼の左方面。鞭である以上振らなければ攻撃できずこちらに届くまで間があると思った、のに。
「⁉」
振られる事なく鞭の先が動き始めた。
「こいつにはさ! 労働に従事しない奴隷を自動で打つ機能があるのさ!」
「オレ奴隷じゃないんだけど!」
人魂で盾を作って鞭を弾く。が、弾けはしたが人魂が砕かれた。炎の塊だからすぐに戻せるけれど強力な一撃だ。喰らいたくない。
「くっ!」
喰らいたくはないが、次々打たれる鞭を防ぐのに手一杯になってしまう。
アエル、は巨人人形を自由にできないから火炎雷を続行中。こちらの援護は無理か。
「この!」
一度大きく鞭を弾いた。
強力な鞭とは言え一本だけだ。鞭が戻ってくるまでに蒼夜を斬り裂ければ。
人魂を剣に変えて剣閃を飛ば――
「うぐ!」
飛ばそうと思ったところで途中で曲がった鞭に腹を打たれた。そんなめちゃくちゃな動きもできたんかい。
だけど。
「むぐ⁉」
蒼夜から苦悶の声が。
その口と鼻を火炎に塞がれて。
彼は気づいていただろうか。オレが今持っている剣、これに使用した人魂が七つしかなかった事に。
オレはひっそりと人魂一つ土中に潜らせていたのだ。潜らせて、蒼夜が鞭に集中している隙を狙って彼の口と鼻を覆った。
「降参して蒼夜!」
天の加護と言う防御があろうともこれで呼吸はできないはずだ。
「誰が!」
鞭が人魂を打ち壊す。が、すぐに別の人魂が纏わりついて。
攻撃する側と防御する側が代わったのだ。今度防戦一方になるのは蒼夜の方だ。
何度鞭が人魂を壊そうとも、何度も塞がれる。エンドレスだ。こちらの人魂に終わりはない。
けど、呼吸回数の減る蒼夜には限界がある。
『蒼夜!』
クリストトコスは大地に固定されているパペット。援護はない。巨人人形も火炎雷からクリストトコスを守るので手一杯。
かと言ってクリストトコスが顕現を解けば同時にジョーカーも消える。その瞬間オレとアエルは蒼夜に攻撃を仕掛ける。
もう彼に手は――ない。
『リザイン! リザインだ!』
手はない。そう理解したクリストトコスから降参の言葉が。
良し!
即座に蒼夜の顔から人魂を消すオレ。
限界近くまで来ていたのか膝をつく蒼夜。
「はっ……はあ……クリストトコス……お前」
『許せよ』
「はぁ……別に、怒ってはいないさ……。
ただ、そうだな……終わってしまったな……」
悔しそうに、大地を一度殴りつけて。
これで蒼夜はパペットウォーリアから離脱する。パペットウォーリアは二年に一度だから長い間彼は悔しさを持ち続けるだろう。
「宵」
「ん」
「おれに……気を遣うなよ。
勝者は常に堂々と、だ」
「うん」
わかっている。
申し訳ない何て思うのは敗北していった人たちに失礼だと。
だから。
「行くよ、オレ」
「ああ、勝ってくれよ」
「勿論」
そう言って、再びオレは駆けだした。
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