第218話『よーそろー』
ごゆっくりどうぞ。
☆――☆
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
ぎゅう、っと旭日に乗り込んだこのパフパフは目を瞑ってみます。このコロニー、この世界が幻覚に似たものであるなら目を開けた途端消えていないかと思ったのです。
ぱかっ、と瞼を持ち上げてみると――何一つ変わらないコロニーでした。
やっぱダメですね。
わたくしは隠れる為に入った小部屋――廃棄物保管庫――から外の様子をスキャンします。うむ、アンドロイドがごろごろといますね。人間さまとの争いも未だ続いているご様子。こう言った争いがこれまで何度もあったのでしょう。地下は予想以上に再建箇所が多くボロボロの状態でした。それでも地上の暮らしが守られているのを見るに人間さまの方が一歩上手と言うところでしょうか。
それでは、わたくしはどうしましょう? ここをほったらかしにして国際雲上緑地都市にいる自然環境操作装置キング・ロサの元へと空間転移しましょうか? ……いいえいいえ。
わたくしは頭を振ります。
争っている両者を放って行くなんてできかねます。ここを止めて、すっきりしてロサの元へと参りましょう。
「それでは気持ちも決まったところでやりましょうか」
わたくしはアンドロイドのクィーン。クィーン・パフパフ。その最大の能力は全アンドロイドの強制把握と強制掌握。
再び目を閉じて、クラック発動。テレポネット通信を以てアンドロイド搭載AIにアクセス。範囲はこのコロニー全域。
イメージ想起。
水の中に飛び込むわたくし。左右に壁。六角形のブロックが、AIユニットが積み重なってできている壁です。手近な一つに触れてそこを起点に全ユニットを連結。
第一防壁クリア。
第二防壁クリア。
前百八防壁をクリアしブロックが消えます。いよいよ彼らの魂とも言うべき枢機とご対面。
皆が皆その枢機の形をわたくしに見せます。白い体に黒い仮面、その中心に宿る蒼い光。宵星冠卿のパペット・キリエさまのジョーカーもこんな感じだとデータにあります。人間さまと同じなんてとっっっっっても光栄です。今すぐ宵星冠卿を抱きしめたい。と、失礼。にやけた顔を戻さねば。
「皆さん、今ロサのプログラムを解除しますね」
蒼い命の灯にアクセスしようとしたまさにその時、彼らの白い体が凶悪な形状に変化しました。ロサによる防壁プログラムです。ロサには自然環境操作機能はありますがわたくしのような強制掌握機能はありません。
ですのでこれは造られる過程で既に組み込まれていたのでしょう。
「旭日!」
『よーそろー』
旭日のミサイルにウィルスを添付。ロサの防御プログラムを侵食し破壊するものです。空間のあちらこちらから砲が伸びてきて――ファイア。向かって来る白いアンドロイドたちを次から次へと撃破し元に戻していきます。
「ちょっとびっくりするかもですけど勘弁してくださいな」
撃破し、撃破し、撃破。
同時にアクセスして人間さまを駆除しようとするプログラムを除去。除去。除去。蒼い光から煙が上がって消えて行きます。
うし、勝利っ。
強制掌握を解きます。
隠れた小部屋の中で目を開けて部屋の外をスキャン。アンドロイドたちの凶暴性が薄れている――消えているのがわかります。彼らはこの小部屋の前まで集まって来て二列に並んでいるご様子。わたくしはスライドドアを開け、外に出ます。二列に並んだ皆さまの真ん中を通ってです。
さて、人間さまのアンドロイドに対する恐怖とペットとなっている子たちも何とかして差し上げたいのですけど、争っていた相手が消えた事で恐怖はなくなると信じましょう。とても難しいでしょうが。
ペットの方は……目を覚ますプログラムを流しましょうか? いいえ。それはわたくしの仕事ではなく人間さまの意思の問題。変化を訴え、願っていましょう。
ただ。
「T-レックスさん」
近くにいた恐竜型の子を呼び寄せます。
「これを」
その子に渡したのは白い箱。指輪を入れるにぴったりな小箱。
「ここに人型アンドロイドのプログラムを書き換えるプログラムが入っています。今後十年間にペットとしての立場が変わらなかった場合彼らに流してください」
これくらいはしても赦されますよね?
「では行きますよ旭日。ロサの元へ」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




