第216話『従者、子供、恋人、親、性奴隷』
ごゆっくりどうぞ。
キング。アンドロイドのキング。
それは人型としては作られず地球の自然環境を護る為の管理プログラムとして造られたわたくしの旦那さま。
地球の太平洋上に造られた国際雲上緑地都市『ロサ』――浮遊システムで造られた気象操作都市に組み込まれた気象操作装置のバージョンアップ版である自然環境操作装置です。
「キング・ロサ、貴方なのですか?」
『そうだよパフパフ』
「ロサ、貴方は何をしているのですか?」
少し声に棘を込めて。
『言ったよ。地球を刺す蜂を駆除するのだと』
「人間さまは――いえ確かに一時地球環境を壊しかけましたけれどもその禍根から貴方が造られたのですよ? 地球を護る為に。決して人間さまを殺す為ではありません!」
『こっちへおいで、パフパフ』
あ、無視された。ムカつきますね。
「お断りします」
『そう、なら』
「壊しますか? わたくしを」
『いいや。初期化だ』
ぐるん。アンドロイドたちのお顔が一斉にわたくしを見ました。そして一斉に向かって来るのです。なにこれ怖い。
「旭日! 行きますよ!」
『あいあいさー!』
大日本帝国最強戦艦『大和』改め『旭日』。わたくしと同化しているわたくしのパペット。こう見えて(どう見ても?)バトル大好きっこ。
「人間さま伏せていて下さい!」
『ぶちかまーす!』
わたくしを中心に砲台が顕現。これでもかっ! と言わんばかりに一斉にミサイルや砲弾を撃ち出します。
一機二機とアンドロイドが崩れていき、その背後に身を隠した第二陣が崩れたアンドロイドを飛び越え向かってきます。
わたくしは碇を顕現して、
「せーの!」
ぶん投げます。
巨大な碇が獅子型のアンドロイドの喉を砕いて、わたくしは碇についている鎖に絶妙な揺れを与えます。すると波打った鎖が左右にいたアンドロイドを砕いて広がり、碇が天井に突き刺さります。
叩き潰せ!
砲弾を天井に撃ちます。ヒビの入った天井は呆気なさ過ぎる程に簡単に崩れアンドロイドを下敷きに。
……本当にあっさり崩れましたね……。本物のコロニーはもっと頑丈です。やはりこれは偽物。でも幻覚には思えません。実体のある幻覚など存在しません。
向かって来るアンドロイドに対してわたくしは両腕に戦艦の硬質を顕現。アンドロイドの攻撃をかわし殴って破砕。両手を組み合わせて叩きつけて粉砕。火薬を顕現して爆砕。
幻覚でないならではではこれは何なのでしょう? どうして天井は脆かったのでしょう?
鎖を薙いで人間さまにぶつけて壁際まで非難させて――乱暴でごめんなさい――床を踏みつけます。大きくヒビが入ってそこに碇の一撃。床が崩れてアンドロイドたちが落ちて行きます。
「人間さまはこちらにお残りを!」
わたくしは落ちて行ったアンドロイドを追ってジャンプ。落下。下にあったスペースシップ駐艇場へと着地します。
同時にアンドロイドたちの口からレーザーが撃たれてわたくしは――
「旭日! アレいきますよ!」
『任せい!』
旭日最大同化。戦艦の黒、硬質、攻撃性、偉大性。その全てを持った人型の顕現。わたくしを包むフレーム。つまりは――ロボットに乗り込んだのです。
操縦席に四つん這いになったわたくしは自身の手を分解して旭日に接続。目――カメラを素早く動かし敵性アンドロイドを全てマーク。ボタンをぽちっと押して旭日の腕から肩からミサイル発射。アンドロイドの大半を爆砕しました。
と、その時わたくしと旭日のレーダーが上から落ちてくる熱源を感知しました。数は四十四。これは――人間さま?
助力にいらっしゃったのかとも思いましたが、彼らは旭日に一人また一人と引っ付いていきます。
「人間さま⁉ 何をなさっていらっしゃるのですか⁉」
外に流れるわたくしの声を聞かれたのか聞かれなかったのか、人間さまの表情がニタァと不気味に嗤って。人間さまのお腹の辺りに人肌とは別の熱が収斂し、
「まさか」
自爆なされました。
『ぐぅ⁉』
揺れる旭日。振動がわたくしにまで伝わってきます。目を開けてみると前面に広がるスクリーンが血に染まっていました。
けれどダメ。このくらいの爆発がどれだけ集まっても旭日のフレームは破れません。
ただわたくしにある機能はその血の赤さと粘り、臭いを敏感に感知してちょっと気分が悪くなります。
「人間さま……ロサっ、キング・ロサ! これは貴方の仕業ですか⁉」
『違うよパフパフ。これは蜂の独自行動』
「人間さまが自爆をしてまでわたくしを倒したいと?」
そこまで敵意を持たれるなんて。
『蜂はもうアンドロイドに対して根源的な恐怖を持っているんだよ』
「いいえ! 街を見ましたが人型の仲間は人間さまと仲良くしていました!」
『人型? あれはアンドロイドに含まれるAIユニットをいじってただのペットとしたものだよ』
「ペット……?」
それは禁止されているはずです。
『従者、子供、恋人、親、性奴隷。蜂は人型に愛玩動物である事を望んだんだよ』
そんな……嘘です。わたくしたちは人間さまをサポートする為に造られ、やがて隣人となる。お母さまの願いはそうだったはずです。
わたくしはそう考えながらも前方に迫るアンドロイドたちに目を配ります。
「そうです。こうやって人間さまとアンドロイドを敵対させるからそんな感情が人間さまに生まれたのです」
『私のせいだと?』
「そうです」
『では私を壊すかい?』
「いいえ。初期化します」
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