第214話「高良 涙月、お前は千二百三十四人だ」
ごゆっくりどうぞ。
よー君はオービタルリング【レコード・0】の上に乗っかっていて、コリスに巫、見知った人の顔がいっぱいあった。皆泣いたり暗い顔をしたり俯いたりしている。
その中にお母さんとお父さんもいる。弟も。
お父さんは遺影を胸の前に持っていて――――――――――――写真私なんですけど⁉
お母さんが白い布に覆われた箱の蓋を開ける。そこには白い粉が入っていて……まさか……私の遺灰?
お母さんはそいつを一掴みすると宇宙空間に向けてサッと撒いた。
う~ん……宇宙葬を望んでいたのはよー君だったと思うのだけど私も同じ葬式を望んだんだろうか?
………………そうじゃない! 死んでないよ! 死んでないよ私!
必死に訴える私。
そんな私を置いてけぼりにして世界は真っ白に染まって――雪の世界に出た。
雪? それとも雲かな?
いろんな時代のいろんな国のいろんな建物が瓦礫になって浮いていて、その周りに雪――或いは雲――が積もっている。
お?
私の意識が瓦礫の一つに落ちていく。ぶつかる潰れるトマトになっちゃう!
本当に死を覚悟したけれど私の意識は瓦礫一歩手前でピタッと止まる。ついでにくるんと回転して足を着いた。あ、体があるや。
瓦礫――神社の成れの果てに足を着く私。屋根の上だ。瓦をカラカラと鳴らしながら端っこまで行って下を覗くと、真っ黒な着物――喪服――を着込んだお姉さんと目が合った。
「いらっしゃい高良 涙月さん。
私は死神。閻魔さまのところまでご案内しますね」
逃げた。そらもう一目散に。
「だーめ」
「ぐぇ」
あっさり追いついた死神姉さんに襟首を取っ捕まえられた。喉が痛いんですけど。
「いるんですよねぇ現実を受け入れられない人って。でも諦めましょう。もう貴女は死んじゃったのです」
「ええ? 私まだまだしたい事いっぱいぱいあるのに!」
て言うかここは幻覚だと信じたい。
「さ、行きますよ」
死んだ。死んだ? 私が。私が? マジで?
ほろほろと涙が出てきた。
いやだ……やだよぉ……。
私が泣いているのなんてお構いなしに死神姉さんは私の首根っこを掴んだまま瓦礫をひょいひょいと軽く飛び移りどこかを目指している。彼女が言うには閻魔さまの所か。
……閻魔さま、ぶっ飛ばしたら逃げられるかな?
「さ、着きましたよ」
弾んだ声に目を向けてみると一際大きなまあるい障子戸が。
「高良 涙月お連れしましたー!」
障子戸が開いて死神姉さんは中へ。とぼとぼと付いて行く私。まだ涙は止まってくれない。そんな目をちょっと上に向けると人の列が幾つもあった。
「えっと、貴女は六十九番霊界門ね」
「……閻魔さまって一人じゃないの?」
「一人じゃ死者に対応しきれませんからね。一日に人間だけで何万と死んでいますから」
オオ、そりゃ多い。
「さ、列に並んで」
最後尾に着く私。死神姉さんはそこで「次があるから」と言って去ってしまった。逃げようかとも思ったけれど障子戸はもう閉じているし見張りの鬼さんもいっぱいいたから無理だと思った。
暫く並んでいると私は最前列に来ていた。
「高良 涙月、お前は千二百三十四人だ」
「……何ですかそのキリが良いのか悪いのか良くわからない人数は?」
閻魔さま――鬼の青年だった――の読み上げた巻物。そこにその数字が書かれているらしい。
「お前の葬式に来た奴の数だ。同時にお前の生の価値。お前の徳の数になる。十五歳の割に結構な人数じゃないか。
だから、転生まで六年とする。それまで達者で暮らせよ」
ぱか
と足元に穴が開いた。
えええええええええええええええ?
「痛ぁ!」
どこかに落ちた。思いっきり尻餅ついたんですけど⁉ 痣が残ったらどうすんのさ!
『涙月』
「ねえちょっとクラウンお尻見て――およ?」
よくよく周りを見てみると元の階段の世界だ。
「良かった生きてたー」
今度は違う意味で涙が出てきた。
【試験第二段終了。
第三段へ】
「ちょちょちょちょい待ち!」
ホッとする私の都合なんてお構いなし。二段目が上がって三段目と同じ高さになった。
「一体何がしたいのさ!」
【試験スタート。
第三段、力】
三度目の場面転換。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
「……うん?」
今度の舞台は――どこかの闘技場。
歓声を上げる観客。フィールドに散らばる色んな武器。剣に槍に斧に戦馬車。
私の手にはいつものランス。
「クラウン」
は、やっぱりいなかった。
「そろそろ始めても良いかい?」
声に振り向くと一人の男性闘士が。細い体に軽い緑の甲冑を身に纏っている白人さん。
……話せるのかな?
「あのお兄さん」
「ん?」
「聖騎士って何ですか?」
こりゃ意外、って表情をされた。
「魔法の宿った武器を使う騎士だよ」
「魔法……魔法……魔法ですとー⁉」
「うわ⁉」
きらきら輝く私の双眸。
魔法! クラウンと私じゃ使えないだろうと思っていたスキルですよ皆さん! 使いたいって思うよね!
「どうすれば良いの⁉」
「こ、この試験全てを突破するとOKなんだけど」
「良っし戦おう闘士さん!」
「わっわかりました!」
私の勢いに押されて仕方なくと言った感じで地面に刺していた剣を取る闘士さん。
誰が何の為に私を聖騎士にしようとしているのかはわからないけれどこんなチャンスは逃すべからず!
「行きます!」
景気良く私は駆け出して――砂を被った。
「うっぷ」
「ごめんな!」
闘士さんが砂を蹴って私にぶつけたのだ。
これはちょっと卑怯なのでは⁉
目に涙が溜まる。そこを狙われ――るのはわかっている。
「な⁉」
完全に私の隙をついたと思っていた闘士さん。私は目に向けて突き出された剣をしゃがんでかわして、更に剣を盾で上に弾いた。
見えてはいないけれどこちとら騎士のパペットとアイテムを持つ身。加えてよー君の剣の練習相手を一年以上続けているのだ。どんだけ練習してきたと思っているんだい。
打って変わって隙だらけになった闘士さんの足を払ってバランスを崩させて、闘士さんの腕を取って捻る。
「ぐぅ――!」
唸る闘士さん。同時に手から落ちる剣。その剣を私は握って倒れ込む闘士さんの首に軽く充てる。
「勝負ありですな」
「は? ここはどっちかが死ぬまで終わらないけど?」
「え」
そうなん? でもそんなの……。
「騎士なら殺せる時に殺せ。でないとこうなる!」
「――!」
背後から剣が伸びてきた。土の中から現れたのだ。
「く――!」
右に飛び退いてそれをかわして闘士さんを見た。闘士さんの地面に着いている手が剣になっていた。
「ほら!」
地面から自在に動く剣の腕を抜き出して大きく両腕を広げる。
「次だ!」
広げた両腕を前方で交差させる。剣が伸びてしなって左右から私を挟み込む。私はそれをしゃがんでかわして、
「甘い」
私の直上で剣が下に落ちた。
「――っ!」
両肩を切られた。傷は深さ二・三センチってとこ。痛い痛いかなり痛い。何なのあの体!
「闘士さん――聖騎士?」
「まさか。ここが現実だとでも思っているのか」
目を瞠る私。現実――じゃないのか? だとするとここは何?
「聖騎士を目指すなら! 異形の俺くらい倒せねば!」
剣が再び振られる。今度は右の剣が左腹狙い。左の剣が首狙い。
「そう――っすね!」
ジャンプ。二つの奇剣がぶつかり合って、
「なっ⁉」
私は奇剣の上に着地してそこを駆けた。
現実じゃないなら! や、それでも抵抗かなりあるけどね!
「ちょ――待て!」
闘士さんの胸をランスで突いた。
【試験第三段終了。
第四段へ】
「ちょっとは休ませておくれよ……」
そんな私の言葉を受け取らずまたもや得体の知れない空間へと飛ばされるのだった。
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