第210話「貴様、『デス・ペナルティ』で遊んでみないか?」
ごゆっくりどうぞ。
☆――☆
ジャンヌ・カーラ その最奥。
私めはそっと目を覚ます。
「睡眠時間……八時間と少しか」
ただ一人特別警戒牢に入れられている私め。生活に必要な最低限のものは用意されているが入れられているのは曲線を描く分厚い装甲ガラス。要するに球状の牢だ。金の鎖でぐるぐる巻きにされている牢は上と下に固定されていて動かない。
浴室とトイレしか人の目を遮るプライベート空間がない。少しでもそんな部屋があるのは統一政府の最低限の配慮か憐みか。
「ねえヴェール」
「貴様に呼び棄てられる覚えはないが?」
「もう十年の付き合いになるのに?」
「看守としているだけの女と投獄されている私め。間柄が縮まった感触はないな」
「つ~め~た~い」
「牢の上で足をばたつかせるな。埃が舞う」
ぴたっと足を止めて上品に畳む看守。
手に持っている死刑執行・囚人鎮圧用の大鎌を横に置いて座り込んだ下を見やると、投獄されている私めが顔を洗っているところで。
「ヴェール、どうやってアプリなんて作ったの?」
「ふふ、どうやってだろう? 外に仲間がいるのか? ここに機械が隠されているのか? 看守が裏切っているのか?」
顎に手を当てて私めはくつくつと笑う。
「サングイス。サングイス・レーギーナ」
「なあにヴェール」
大鎌を持つ看守は淑やかに応じる。
「貴様、『デス・ペナルティ』で遊んでみないか?」
「なぜ妾が?」
唐突なとんでもないお誘いに、失笑するサングイス。
「私めが何をしているのか知りたいだろう?」
「それはもう」
「どうせ誰かが犠牲にならなければ『デス・ペナルティ』の仕組みには気づかないさ。死の実現には個体よって時間差がある上、貴様なら実力的に生き残れるやもしれぬぞ?」
ふぅむ、とサングイスは頬に手を当てる。ウェーブのかかった髪がさらりと揺れて清潔さを振舞っている。
「やめとく。死刑執行人でもある妾が囚人に殺されるとか恥ずかしいわ」
「そうか。では外の連中はまだ暫く踊るな」
「踊りは必要よ。良い気分転換になるもの」
座ったまま体を回転させる。
「私めはダンスが苦手だな」
「あらそうなの?」
「昔、興味本位で通った小学の頃ダンスが必修でな、余計なものをと思ったくらいだ」
そう言って私めは上を向く。……ふむ。
「サングイス」
「なあに」
「下着が見えているぞ。座る時はスカートを下に敷け」
「あらごめんなさい」
あくまで上品にスカートを直すサングイス。私めが女だからか特に恥ずかしがる様子はない。
「――で、頼んでおいた人探しの方は?」
「ん~成果ゼロよ」
「完全燃焼する程に探したのか?」
「まさか。だって見返りがないもの」
悪びれる事なく両手を上にあげる。
「貴様、善行の立場だろう」
「職業上はね。
けどヴェールのお願いを聞くのは妾個人でしょう? 職は関係ないわ」
「そうか。見返り……」
暫し目を閉じて黙考。
「『デス・ペナルティ』についての情報が欲しいわ」
瞼を持ち上げる私め。
「貴様、幽化と接触したな?」
「おやわかる?」
サングイスと幽化は昔馴染みだ。幽化がまだ裏皇太子だった頃死刑執行に立ち会った事があったと聞く。その時の執行人がサングイス。サングイスは斬首から目をそらす見学者に呆れながら返り血を浴びた顔を拭いていたのだがその時に顔どころか目さえ閉じない幽化を見つけ単純な好奇心を刺激されたらしい。
しかしサングイスが声をかけても素っ気ない態度で。寧ろぶっきら棒にすら映った。
けれど彼の横顔は清廉。思わずサングイスは見惚れてしまったとの話だ。
それ以来サングイスは一つ決め事をしている。
幽化の首は自分が落とす。
誰でもない自分の手で。
その幽化に珍しく頼み事をされたと言う。
『ジェンヌ・カーラにいるヴェールからアプリの情報を聞き出してくれ』。
「あの男、相も変わらず喰えんな」
面白がってもいない、悔しがってもいない、呆れてもいない、怒ってもいない。
ただ感心した。
「まあ良いか。では一つ教えよう」
サングイスは少しばかり驚いたようだ。本当に情報を貰えるとはつゆほどにも思っていなかったからだろう。それだけこちらの探し人が重要なのだ。
「私めが言うてやるはこれだけだ。
『そこには誰もいない』」
☆――☆
「氷柱さんたちが向かった場所へ行きたいと思います」
「うむ、私も行こうぞ」
オレに続く、涙月の言葉。
「ダメ」
「いや」
まあこうなるだろうとは思っていたけどね。
氷柱さん含むアンチウィルスプログラムを送ったのはオレも同然だ。であるならば彼らの死傷の責はオレにある。オレが何があったのか解明しなければ。
現在地はネットワールド『デイ・プール』――体ごと電子変換させ入れるゲームワールド。その一つであるアドベンチャーソフト。
「せーの!」
懐かしいドットキャラに身を変じて涙月はアイテムである巨大ハンマーを振るう。敵キャラである狸がぺたんこになって消えていく。
その間にオレは次の浮き岩に飛び移り飛んでくる不良ペンギンを巨大ボクシンググローブで叩いて倒し不良ペンギンの持っていた飛行用の風船をゲット。涙月の手を取ってプカリと浮かんで風任せに飛んでいく。
うおおおおおおおおおお?
上から落ちてきた隕石群に風船をやられてしまった。オレたちは真っ逆さまに湖に落下しデス。死んじゃった。
「なんの! まだ二機ありんす!」
あ、オレ一機しかないや。どこかで1UPしなければ。欲を言えば2UP!
「――で、一緒に行くのは良いけどさ、危なくなったら即逃げで。オレもそうするから約束して」
「同じ条件ならそれでOKだけどさ、二人で行くん?」
「大人数で行ってもダメなのはアンチウィルスプログラムが証明したし、わけのわからない敵がいる場所に下手に仲間を連れて行けないよ」
連れて行った挙句に星冠も全滅しました、と言う展開は避けなければならない。
「ふむ。一理あるか。それに第零等級星冠卿の指示なら従わなきゃね」
「……さっき思いっきり反抗したよね?」
「あれは彼女としてです」
都合の良い事である。
湖から上がったオレたちは順調に進み、遂にボスである少女の元へと辿り着いた。そう、少女である。大きな城の中にいた少女は小さな王冠を頭にちょこんと乗せてぶす~と玉座に座している。
『なぁに? 何しに来たの?』
「勿論君を倒しにさ!」
『……後悔しちゃえ』
「「――⁉」」
少女が――プリンセスが気だるげに挙げた手・その指の先から自身の三倍はあろうかと言うエネルギー弾が放たれた。
「あぶな!」
「うへぃ!」
オレと涙月は左右に飛んで慌てて回避。エネルギー弾は背後に背後にと飛んでいき、山一つを消しさった。
ちょっと部下と力の差があり過ぎでない⁉
『きゃははははぴょんって跳んだぴょんって!』
お腹を抱えて笑うプリンセス。
むっか~。頭にくる笑い方をしやがりますな。
オレはプリンセス捕獲用の檻を出して、同時に涙月はおっきな銃を出した。
『もういっぱーつ』
エネルギー弾発砲。
「負けませぬ!」
涙月も負けじと銃から砲丸の如き銃弾を撃つ。二つの弾はぶつかってせめぎ合って両者とも滑ってあらぬ方向に飛んで行った。
「え? うそ⁉」
エネルギー弾がまさかの展開。オレの方に飛んできた。
「え? うそ⁉」
砲丸弾がまさかの展開。オレの上にある城の天井にぶち当たった。
オレはエネルギー弾を檻でガードし、檻が弾かれ上に飛んでいき、天井から瓦礫が落ちてきて檻を殴打、檻は強制的に軌跡を曲げられプリンセスの方へと飛んでいく。
『え? うそ⁉』
がしゃーん。プリンセスが檻の底を通って中に封じられた。
クリアである。
『ひ~ん』
プリンセス涙。打ち上がる花火。
まあなんだ、経過はあれだったが勝てたと言うわけで、バンザーイ。
お読みいただきありがとうございます。
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