第208話『良かったね、戦いの中で死ねるよ』
ごゆっくりどうぞ。
まずは糸未さんが口を開く。
「『デス・ペナルティ』の試作品とみられるものが復元された。何度か起動させてみたが害はない。
これだ」
そう言って彼女は一台のスマートフォンを取り出した。ホームボタンを押して起動させて、ディスプレイを皆に見せる。デザインが完成品と違っているが確かに『デス・ペナルティ』と描かれている。
「起動させよう」
クリックして、映像が流れた。
『こんにちは。
ぽくは名無し。
君の未来を占うよ』
例のマスコットが話し出す。にこにこと笑っていて害意も敵意も殺意もない。
『君の顔をカメラに映して。君の未来を占うよ』
「私がやる」
カメラに自分を映す糸未さん。
『ありがとう。ではでは君の未来を占うよ』
ディスプレイを大小様々な蝶が舞う。バタフライ効果作動中。
『確認。
二十一歳、君の死因は戦死だね。良かったね、戦いの中で死ねるよ』
二十一……もうすぐだ。
だが糸未さんはそれには触れずに話を続ける。
「バタフライ効果で未来を探り死因を発表する、それがこのアプリだ」
「それだけなら害はないわよね」
「そうだ。問題はこれを現実にしている何者かがいるところ」
それがオレたちにコンタクトを取ってきたジャンヌ・カーラにいる何者か。或いは。
「ジャンヌ・カーラにいる奴は仲間がいないとは言ってなかった」
「つまり実行犯は別にいるかもと?」
オレたちにあっさりと接触して来たのだ。外部に協力者がいてもおかしくはない。
「あと、上から貰った情報だと提出した未知の数式からわかったのはそれが脳に何らかの新しい機能を付属させるものだって事」
「んで遺体からわかったのは目と脳に同一個体のマスコットが映っているって事」
オレの言葉を引き継ぐ涙月。
「マスコット?」
「今観た『デス・ペナルティ』のマスコットです。白くて小さくて紫炎のラインが走っている子。
そいつを犠牲者全員が観ている」
瞼をつつきながら、オレ。
「そいつに殺されたのね?」
「そう。正確には弟って言ってたけど。
ただそいつは本人以外には観えないしスマートフォンを切っても【覇―はたがしら―】を切っても観えてしまう。
神巫も体験しているよね?」
例の特番の時だ。
「ええ。少なくとも【覇―はたがしら―】を通しては観えなかったわ」
「サイバーコンタクトもだよ」
目の横を指で叩きながら、涙月。
「犠牲者の中にサイバーコンタクトを着けている人がいたの。でも殺害時に起動していなかったのが確認されているから」
スマートフォンでもない。サイバーコンタクトでもない。【覇―はたがしら―】でもない。となるとそれ以外のガジェットだ。
『未来遺産』かナノマシンかチップか他か。
チップと他となると手広く捜査しなければならない。チップの場合手に埋め込む企業あれば脳に付属させる企業もあった。スマートフォン時代の後期、次の道を様々な企業が模索したのだ。それはチップだけに留まらず時計型・ブレスレット型・指輪型・イヤホン型・ヘッドマウントディスプレイ型等があった。最終的にサイバーコンタクトに落ち着くまでに十年を要した。
「今のところ犠牲者が使用していたのはスマートフォン・サイバーコンタクト・未来遺産・チップの四種類。だけど持ち去られた可能性もあるしどのガジェットでもOKと言う可能性もある。
要するに、ガジェットは不明。
そこで上から聞いた話だけどアンチウィルスプログラムがとある検証を試みようとしているみたい」
「検証?」
オレの言葉に眉を潜める神巫。
「うん。
どうせ誰かが犠牲になる必要があるならスマートフォン以外のガジェットを使わずにやってしまおうと」
「「「――!」」」
乱暴な検証方法だ。けどアンチウィルスプログラムの皆は決してバカではないし無知無力粗暴でもない。必ず仲間が何とかしてくれると信じているからこその行動予定なのだ。
「良し、ユメを使ってやろう」
「待って待って糸未さん私怨入れちゃダメ」
ぶっちゃけた話そう言った案もあるにはあった。ユメではないが死刑予定の囚人を使おうと言うのだ。
「死刑囚かぁ。魔法処女会としては死刑止めるべきって言っているからなぁ。その案はなしだよ。
解析が済むまでアプリの拡散を防ぐ方向に持っていけないかな?」
「スマートフォンの殆どはGPSで位置を追えるから回収は80%済んだってさ。ただ中にはGPSを切っているのもあるから完全には無理だろうって話。よー君には持たせたままにするらしいけど。
けど懸念もあるんだよね。
スマートフォンがダメになったら他に行っちゃうんじゃないかって」
「追っては逃げられ追っては逃げられ、ね」
イタチごっこである。犯罪とは常にそう言うものかもだが。
「あ、そう言えば神巫」
「なあに宵?」
「特番の時誰かに連絡とっていたよね?」
「う」
おや? 黙ってしまった。
「んふ」
「え? なに涙月、知ってんの?」
「神巫は幽化さまに連絡とってましたー!」
「ちょっ、コリス!」
「一番に頼りたい人なんだよよー君」
……そうだった。
「幽化さんって恋の気配全くないけど」
「朴念仁っぽいよねぇ」
「違うわよあの人優しいわよ!」
慌ててフォローに入る神巫。実に女の子らしい反応だ。
「「「ふぅん」」」
「にやけるなぁ!」
話が脱線した。まあ、下手にどんよりするよりは良いのかも。
「ところで」
と話を元に戻すオレ。どうしても聞かなければならない事があったから仕方がないのだ。
「その幽化さんは今回の件に関してなんて応えてくれたの?」
「さっさと誰か起動させろ」
「他力本願!」
その時だった。オレと涙月、それにベーゼの元に繭から緊急連絡が入ってきたのは。
【王室ネットワークより星冠卿各位へ。
探索ポイントに向かったアンチウィルスプログラム壊滅の報せです】
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




