第207話「彼ならアンチウィルスプログラムに入るって出て行っちゃった」
ごゆっくりどうぞ。
が、一日経って二日経っても犯人は特定できず防犯・監視カメラにもその姿は確認できずに目撃者すら出せなかった。
それに対してマスコミは批判を上げたが現場を見ていた大勢の人の証言でこの件の困難さがネットを通して広まり逆にマスコミを批判する声が広がり事件は年が明ける頃には扱われなくなっていた。
その少し前。
「「「3 2 1 あけましておめでとう!」」」
近くで除夜の鐘が響く音がする。
オレはその音を耳の片隅で捕らえながら地元で一番大きい神社の賽銭箱に五円を投げ入れた。隣では涙月も同じく。
鐘を鳴らして、手を合わせ願う。内容は秘密。
「さってと、行きますかい?」
綺麗に赤の振袖で着飾った涙月。
「あ、その前におみくじおみくじ」
そう言って早速引きに行った。オレは慌てて後を追いかけ同じくおみくじを引いた。折角だから家へのお土産にと破魔矢も一つ購入。
「あ、大吉だ。ラッキー」
「……吉」
微妙なものを引いてしまったな、オレ。
「善くもなく悪くもなくだね。あれだ、自分の行動次第ってわけだね」
人任せな神さまである。
オレたちはおみくじを決められた場所に結んで、
「さ、今度こそ行こっか」
次の目的地へと歩を進めた。
向かうは魔法処女会ローマ本部だ。
「いらっしゃーい」
【門―ゲート―】とは便利なものであっさり到着。旅行は道中も楽しむタイプだったけれど今日は仕方あるまい。のんびりしていたら年明けのパーティーに間に合わない。
「明けました新年です新しい朝が来た日の出ですあまだでした」
「コリス~元気だね」
「涙月も~」
ヒッシと抱き合う二人。
この二人昨日会ったばかりなんですけど何このテンション。
「ようこそ、入って」
「卵姫さん、お久しぶりです」
「そうですね宵。お元気そうで何より。
さ、奥に。神巫がお待ちです」
中世の城をイメージして造られた真っ白な教会。その奥の広間に通されてオレたちは神巫にアマリリスと再会した。
「よ~い~」
とオレの胸に飛び込んでくるアマリリス。頭には変わらずアマリリスの花が咲いている。けれど成長した様子はない。ひょっとしてアマリリスは成長しないのだろうか?
「いいえ、情報を吸収すれば変わるわよ。証拠にほら」
そう言って神巫が指で摘まむのはアマリリスの髪の毛。
「ちょっと伸びているでしょ」
……そうだろうか?
「もう、宵、女の子の髪の変化に気づけなかったら涙月にフラれるわよ」
「フっちゃうぞ」
「え、マジで?」
死活問題になってしまった。
「そ、それより神巫、シスターの仕事は良いの?」
「そっちはね。けどぉ」
ジト目で彼女の後ろに控えている二人のシスターを見て、
「巫としてカウントダウンライブの話があったのにおじゃんよ」
と愚痴った。
「ああ、二刀流はそう言う問題もあるんだ」
他のシスターに連れ戻されたのだろう。仕事がぶつかるのは、しようがない。
「ライブがあったら行ったのになぁ」
「ありがとう涙月。君は?」
オレだ。
「勿論行ったよ?」
「こら、目をこっちに向けなさい」
たんに女の子と目を合わせるのが恥ずかしいだけです。うん。
「あれ? でも『カウス・コザー』はライブやっていたわよね?」
『カウス・コザー』――オレが大好きなヴィジュアル系バンドだ。確かに彼らは今現在ライブ真っ最中。
けどですね……。
「チケット争奪戦に……負けました」
「あらまぁ」
口に手を当てて笑う神巫。くっそ男ファンにこの姿を見せてやりたい。……オレが巫ファンに嫉妬されるだけだろうか?
「言ってくれたらチケットあげたのに」
「いえ、ファンたるものコネではなく正面玄関を叩くものです」
転売なんかも絶対に買わないぞ。
「真面目ねぇ。好きよそう言うの」
「「え」」
「あ、ライクだから」
ですよねー。
そう言えば巫のロマンスはまだ一度も報じられていないな。現在好きな人いないんだろうか? 今度聞いてみよう。
「さて、まず新年を祝いましょうか」
と言ってもここは教会。日本や他の繁華街のようにド派手に祝うのではなく厳かに、綺麗に、けれどもどこかうきうきとしながら祝いは行われる。
時間は一時間、二時間と過ぎて行き気づけばアマリリスが涙月の膝の上で寝入っていて。
「――では、そろそろ良いかしらね。
件のアプリについて話しましょうか」
神巫のその一言で広間が静まって幾人かが椅子に腰かけ、また幾人かが退室して行く。
「ベーゼ、いらっしゃい」
「はっ、はい」
呼ばれてオレたちのいるところに楚々に現れたるは、
「お、お久しぶりですお二方」
「うん」
ベーゼ・ブル 十三歳 魔法処女会シスター。同時に教会から派遣されている第四等級星冠卿でもある。客人であるから今回のような危険な仕事からは外されるはずだが。
「ベーゼちゃん関わっても良いの?」
「はいお姉さま! もとい涙月さま!」
頬に朱が差した。彼女は第一等級星冠である涙月を尊敬している。と言うか……惚れている。多分あくまで同姓としてだとは思う。多分。
「実は、わたしの友達が『デス・ペナルティ』をダウンロードしまして、起動させちゃったらしいんです」
「「――!」」
それは、緊急事態に相当する。
「だから急ぎ情報が必要なんです」
「では私も混ぜていただけるかな?」
「ん?」
そこに現れたのは、
「糸未さん」
ユメの監視隊の長であった。
「こちらもできる限り情報を共有したい。神巫さま」
「ええ、よろしいですよ。お座りください」
「感謝する」
……考えてみたら……世話役の男性はいるけれど話に参加している男はオレ一人だ……。嬉しく感じる前に恐縮してしまう。
あ、そう言えば。
「あの、氷柱さんは?」
魔法処女会に護衛として雇われているはずだが。
「彼ならアンチウィルスプログラムに入るって出て行っちゃった」
「アンチウィルスプログラムに? 統一政府との人脈を作っているとは聞いていたけど……待って、関わってないよね?」
この時点で関わっているとしたら、ちょっと危ない。
「関わっているのよねぇこれが。宵たちの逆探知で派遣されたメンバーはアンチウィルスプログラム正規メンバー五名。準メンバー五名。その中に彼もいたりして」
「言ってくれれば良いのに」
「心配されたくなかったんでしょうね。貴方をライバルだと思っているみたいだから」
聖剣にライバルだと思われているのは光栄だ。
ちゃんと戻ってきてくれると良いな。
「それじゃ、ここまでわかっている範囲で情報を纏めましょうか。
宵、涙月、それにベーゼ。それを上に報告してね」
「はい」
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