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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
203/334

第203話「人に会いに行ってくるから」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


「――はぁ~」


 冬のこの日、暖かいぬっくぬくのお湯がはられた浴槽に浸かってオレは思いっきり息を吐いた。白く彩られたオレの息は湯気と混ざって消えて行く。


「…………」


 うん。……うん。女の子が入った後に入るのは緊張する。我が家なのに。オレがどスケベじゃなくて良かったね涙月(ルツキ)


「よーくーん、お湯飲んじゃだめだぞ~」

「飲みません!」


 考えてもいません(嘘)。


「――て、脱衣所になんか用?」

「脱衣所にって言うかよー君に。TVつけてみ」

「TV?」


 言われてTV機能をオン。予想通りクリスマス特番が映って、少々モニターサイズが大きかったから指で摘まんで小さくする。


「なんチャン?」

「国営」


 国営……と。チャンネルを切り替えて観てみると、臨時ニュースが始まっていた。

 お風呂の気持ち良さから暫く何とはなしに眺めていたのだけど、ゆっくり事態が呑み込めてきた。

 スマートフォンアプリ『デス・ペナルティ ~びっくりぽっくり~』に関するニュースだった。

 しかも、つい先程までやっていたクリスマスソング特番のライブ放送中に死亡したとの話。


『事情が事情ですので映像の肝心な部分にはモザイクがかかりますが――』


 そう前置きがあって録画映像に切り替わった。


『何? これ誰かのドッキリですか?』


 出演者の一人、三十くらいのお歳の女性歌手が笑いながら左手側を見ている。しかし他の出演者は困り顔で。


『ちょっとちょっと●●さん、なんも仕掛けられていませんよぉ』


 司会をしている芸人さんがおどけながら対応する。


『ええ? 観えているんでしょう? やめて下さいよもう』

『いやいやマジで』


 この時点で出演者の一人、クリスマスに誕生日を迎える女性シンガー(カンナギ)が指を忙しなく動かしている。きっと誰かに連絡を入れているのだ。


『ねぇ……ほんとに観えないんですか? 【覇―はたがしら―】壊れたかな?』

『え~状況が呑み込めないんですが、一旦【覇―はたがしら―】オフにしちゃいましょうよ』

『そうですねぇ。えいやっと』


 ここで恐らく【覇―はたがしら―】は本当にオフになったのだろう。しかしそこからその女性歌手の表情は変わっていく。

 苦笑から目を瞠って、ソファから立ち上がる。


『●●さん?』

『……ねぇ……誰か立体映像流してないの?』


 スタジオが本格的に騒めき始める。


『何言ってんの……? 私が――死ぬ?』

『●●さん、ちょっとこちらに』


 マネージャーか番組スタッフかが女性歌手を一時退散させようとカメラの中にフレームインして、一緒に出ていく。

 その後司会のフォローが入って、


『うわああああああああああああああああああああああぁ⁉』


カメラの外側から悲鳴が上がった。

 カメラがそちらに向いて映し出されたのは――倒れている女性歌手。アップになって顔にモザイクがかかり、その女性の体が先程までよりずっと老いているのが見えた。

 そこでカメラはセットの方に向き直り、中継は途切れる。

 老けた? 老衰――か?

【覇―はたがしら―】の影響で人の寿命は五十年伸びたと言われているくらいなのに。病気は即座に治ると言われているくらいなのに。

 人を老化させる病気があるのは知っている。【覇―はたがしら―】をオフにしたせいで発症したのか? いやそれにしてもそんな簡単に死ぬ病気だっただろうか?


「どう思うよー君?」

「……涙月は、例のアプリに関係あると思っているんだね?」

「うん。あの歌手が前に別の番組でスマートフォン持ってまーすって言っていたの覚えててさ」

「成程……」


 女性歌手は何かを観ていた。スマートフォンにはカメラを通してホログラムを観る機能がある。しかしそれはあくまでカメラを通しての話である。【覇―はたがしら―】と違って目のみで観るものではない。

 けれども観えていた。

【覇―はたがしら―】をオフにしても。

 オレの知らないガジェットを使っている……あり得るだろうか?


「涙月、(カンナギ)に話聞ける?」

「実は今やっとります。ん~でも出ないなぁ、ずっと通話中になってる」

「そう……」


 何かが『観える』。観えたとしてそれが原因で死ぬ? サイバー映像が人を殺すなんて――無差別であるなら仮想災厄ヴァーチャル・カラミティより危険ではないだろうか。

 ……聞いてみようか、その仮想災厄ヴァーチャル・カラミティの長に。


「涙月~、上がるから脱衣所空けてくれる?」

「遠慮しないで飛び込んで来給え」

「……本当に行くよ?」

「ごめん嘘です出ていきますゆえ」


 やれやれである。






「入るよ」


 自分の部屋だけど万が一を考え一応ノック。こんこん。

 引き戸を開けて部屋の中を見やると――トナカイがいた。


「…………」


 心、ときめく。


「涙月、お臍を出すコスプレは禁止です」

「え~? 今魅とれたくせに~」


 魅とれたけどね。いや確かに魅とれたけどね。


「仕事するから!」

「ふ、解析作業に服装は関係あらぬ!」


 予想以上に多かったプログラム。未だ半分以上の解析が終わっていない。


「あ、ごめんそっちちょっと任せて良い?」


 と、オレ。


「ふへ?」

「人に会いに行ってくるから」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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