第200話「この光景とどっちがときめく?」
ごゆっくりどうぞ。
ああ、卵かけごはん最高。因みに納豆は食べられません。臭いが……あの臭いがどうしても……。
掘りゴタツの中心にTVが浮かんだ。お父さんがつけて全員共有にしたらしい。
『血液にナノマシンを通す、これが従来考えられてきた手法ですね。
ですがこの【覇―はたがしら―】、これは血管は勿論、骨・神経・細胞核にまで浸透しまさに“宿る”と表現した方が良いでしょう』
何度目かになる【覇―はたがしら―】についての情報がモニターから流れてくる。
『我々には明かされていない数式によって解放された医療用ナノマシンもかくやの治癒速度、宇宙空間ですら通用する宿った個体を護るエナジーシールド、肉体の老化遅延とそれによる寿命の延び。
仮想物体の実体化。
ジャンクDNAの人体CPU化。
綺羅星とエレクトロンの共同開発になった【覇―はたがしら―】は人を拡張進化させたと言っても良いでしょう』
「ごちそうさま」
最後のリンゴを食べ終えて、オレは一番手で席を立った。
歯を磨いてカバンを持って玄関に行って靴を履き、
「それじゃ行ってきまーす」
「「「行ってらっしゃーい」」」
【覇―はたがしら―】によって【門―ゲート―】起動。円形の光が浮き上がってそこに飛び込むと――
「やっほ~」
目の前に涙月が現れた。
空間転移――所謂ワープを実現させた【覇―はたがしら―】。航空・交通業が打撃を受けると思われたが【覇―はたがしら―】を宗教上取り入れない人も多くまだまだ現役で頑張っている。オレは問題なく利用しているので学校の昇降口にワープしたのだが涙月もちょうど来たところだったよう。
「ニュース観たかい?」
体を斜めにしてオレを下から覗き込む涙月。胸の位置まで伸びた髪が吹いてくる風にそよぐ姿がとても愛らしく。
「ニュース? なんかあったの?」
靴をしまいながらオレは聞く。
「タイムポーテーションのメドが立ったって」
「本当に⁉」
ワープ、それは二つの地点の空間座標を同一の値にする事で可能となる。綺羅星とエレクトロンの発表によればそれに時間座標を加えれば時間移動、つまりタイムポーテーションも可能だと言う話だった。ただ時間座標の計算が暁の数式を使用してもとっっっっっても難しいらしくまだまだ先の話だと思われていた。
それのメドが立ったとは……恐竜、見たいなぁ。一部では恐竜に毛があって皮膚は派手派手だったと言われているけれど本当だろうか?
胸、ときめきが止まらない。
「この光景とどっちがときめく?」
決してエロい光景ではありません。
涙月が指差すはオレの後ろ。振り返ってみると、そこには地球が。
ユメとのバトルから一年と少し。オレたちは中学三年になり高校受験を控えているわけだがその前に転校があった。
ここは月面。
月に築かれた都市の唯一の国際中学校である。
黄色い人、白い人、黒い人入り乱れるここに入学する条件は一定以上の学力と運動能力があり、パペット及びパペットとの同化で得られる能力を研究されても構わない者である事。あと抽選。
非常に貴重な経験である。
ただもうじき予定されている受験に合格すればオレたちは月面を離れる。次の行き先は――天の川銀河を望むコロニー国際高校だ。姉さんやララたちの通う高校でもある。コロニーや都市はワープ可能な場所に幾つも建造されていて――地球で造って転移させれば良いだけだから建築ラッシュが続いている――現在の最奥が天の川コロニーとなる。因みに銀河の中心へはワープ禁止となっている。ブラックホールがあると言うのが通説だがそれはまだ確かめられていない。
受験に失敗したら……いやいやそれは考えないでおこう。
往くのだ。最奥へ。
☆――☆
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
「何だよ……お前――」
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
「なんか言えよ……」
『ケルソ・ルベンニー。君の死因は確認したよ』
「死因? 俺の? あのアプリ⁉ あれただの遊びだって説明が――!」
『ケルソ・ルベンニー。君は六十三歳に孫を轢いて自殺するよ』
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
「だから――誰――なんなんだよお前⁉」
『ケルソ・ルベンニー。君の死因はここにて達成するよ』
「ウォーリアネーム!」
キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル
「う……ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
☆――☆
さて、本日はクリスマスイヴ。そして輝かしき二学期終業式である。つまり明日クリスマスからは嬉し楽し冬休みだ。いえっふー。
昨日――もとい日を跨いでいたから今日か。夢の世界『ナイト・プール』でパレードを見たが今日は夢・ネット・リアル全世界でパーティーが催される。オレはクリスチャンではないが日本人とは制限のない八百万の神を崇めているからか他所の神も救世主もどんとこいとばかりに門戸を開放している人種である。ご存知の通りクリスマスもすっかり根付いている。
なので。
「なぜだ!」
「それオレのセリフだよ」
終業式中立ったまま爆睡こいてた涙月は放課後教室の掃除を命令され、なぜかオレまで手伝わされる羽目に。
「天嬢、高良と仲良いだろ? っつか付き合ってんだろ? 彼女ほっといて帰って良いのか? っつか一人にやらせると○○ハラとか差別とか言われんだよ。だからお前もね」
とは担任教師・男・独身・彼女なしの弁。……自己保身教師め。
まあ、どちらにしろ待つからただ罰を見学しているよりは良いんだけど。
「良し終わったぁ! よー君箒パス! 片づけてくる! んでまずお弁当だ!」
「一緒に――」
【お報せします】
「「――!」」
学校の放送ではない脳に直接響く声。この声には聞き覚えがある。前野 繭と言う少女の声だ。
【第零~第二等級【星冠】は枢機エリア『スローンズ』へお越し下さい。これは緊急招集です。今行われている事を置いてでもお越し下さいますようお願いします】
オレと涙月は顔を見合わせ一度頷きあう。
「クラウンジュエル」
『あいあいさー』
涙月が自身のパペット・ナイト『クラウンジュエル』をSDモードで顕現し、
「キリエ」
『はいな』
オレが自身のパペット・紙の神剣『キリエ』を顕現した。
「「ラムダゲートを」」
『『お任せ』』
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。