第02話「可愛いですね、その子」
いらっしゃいませ。
☆――☆
ドキドキワクワク。
学校への道すがら、昨日姉と行った模擬戦の影響を受けてオレの心はいつも以上に弾んでいた。
うわぁ……うわぁ……。
オレは肩に乗っている小さな蛇に指を当てる。
今は元の姿に戻っているけれど確かに見た。オレのアエルがあんな……あんな……。
「おっすちびっこ!」
言いながらバン! と背中を叩いていくクラスメイト。
「おーす!」
言いながらバンバン! と背中を叩いていく他のクラスメイト。
くすくすと笑う他の生徒たち。
……。
「オース――」
言いながらバン! と背中を叩こうとした手を、オレはかわした。
「なによけてんだよオイ」
「あのさ三条」
「なんだよ?」
「…………」
言え、言ってしまえ。
「今日、学校行ったらパペットバトルやろうよ」
「あ? 俺が? お前と? 何言ってくれてるわけ?」
変な汗が出てきた。
言ってしまった……言っちゃったよ……。
「ここでやってやんよ」
「え?」
景色が一変した。
三条がMR複合現実を起動したのだ。
街の風景はおどろおどろしい肉に変わり、どう考えても趣味が良いとは言えない。
「始めんぞ天嬢!」
三条のパペット――岩石巨人が右腕を振り上げる。
因みに天嬢とはオレの苗字だ。
アエル!
オレのパペット――アエルが振り下ろされる拳の前に出た。
アエルは拳のエネルギーを吸い――始める前にあっさり全てのライフを消失した。
ゲームとして割り振られているライフだから殺されてはいない(考えてみたら姉とのバトルでもそうだったのだ)。だけど。
「あははははお前なにやってんの⁉ 瞬殺されに来たのかよ⁉ バーカバーカ!」
オレは壁に寄りかかり、ズルズルと座り込んだ。意気揚々と去っていく三条には目をやらずに。
バカだオレ……姉は――お姉ちゃんはオレを何とかしてくれようとしたんだから、本気を出したかどうかもわからないじゃないか。
そんな風に暗くなっているオレに声をかけてくれた人がいた。
「見・た・ぞ少年!」
「え?」
顔を上げると、高校生くらいのお兄さんが。
爽やかで、イケメン。
「暗い幕開け辛いだろ! でもすごいポテンシャルを感じた! ちょっとオレと来いよ!」
「え? え?」
「人の弟誘拐しようとしないでよ!」
「――痛い!」
お姉ちゃんにカバンでドつかれて、お兄さんは地面に突っ伏した。
あ、男と女で違うけど同じタイプの制服だ。
「何だ天嬢か。え? 弟?」
「そうよ誘拐犯」
「その呼び方やめてくれよオレには前野 誠司って名前があんだから」
「前の政治はもう終わったのよ」
遠い空を見上げながら。
「今わざと漢字間違えたろ? オイ、遠い目しないでくれよ悲しいじゃないか」
「兄さん」
「ん?」
新しく加わった声に目を向けてみると、オレと同じくらいの女の子がいた。
無表情で。
「朝からバカはやめて。
行きますよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ妹よ。この少年には救いの手が必要なのだ」
「どこの宗教家ですか。
それにその子が救いを求めているようには見えませんが?
お元気のようですし」
「あっと……」
オレは急いで立ち上がり、どこも痛めていないとアピールする。
「いやいや身体的な話じゃないんだ繭。
この少年は派手に負けて――」
う……。
「今ダメージが加わりましたが」
「ええ⁉ 大丈夫か少年!」
「だ、大丈夫です」
だから肩を持ってがくんがくん揺らすのやめてほしい。
「や・め・な・さ・い」
「いたひいたひ頬をツネないでくれ天嬢」
「兄さん、遅刻しますよ」
「そ、そうだな。今回はこの辺にしよう。
少年!」
「はっはい」
しまった、声裏返った。
「強くなりたかったらいつでもオレを頼ってくれ!
その方法を教えよう!
じゃあな!」
「じゃあねよーちゃん。よーちゃんも遅刻しないようにね」
「うん」
あとは繭――さんが去って……と思ったら首だけを振り向かせて――
「可愛いですね、その子」
と言った。
可愛い……あ、いや、アエルの話だとわかってるよ?
そう言う風に言ってくれる女子もいたし。
でも多分その女子たちはからかう意味合いで言ったのであって、でもこの子からはそんな空気を感じなくて、なんか、嬉しかった。
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