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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
199/334

第199話「「「メリークリスマスイヴ。そんでもってハッピーバースディ・コリス」」」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


 ぽよんッ、と女性――二十代に見える――の足が雲に沈む。


「よ、ほ」


 雲の海を華麗に気軽にぽんぽんと飛び跳ねながら女性は進む。


「ほら、よー君虹の橋だぜい」


 女性は――即ち涙月(ルツキ)はオレ・(ヨイ)を抱きかかえながら虹に脚を降ろし、爪先でちょいちょいと虹橋をつついている。虹橋はつつかれた部位に光のエフェクトを放ち鮮やかな波紋を広げた。

 前を向いてみれば海面の上に広がる雲にも虹橋にも人が溢れていて、中には随分と高さのある小さな雲に渡って海に飛び込んでいる子供までいた。海の底も柔らかな雲であるから人体を損傷する事はないけれど勇気の必要な遊びだ。ひょっとしたら子供キャラの実年齢はもう大人のそれかも。


「涙月、急がないともう0時になるよ」

「おおもうそんな時間か。急ごう急ごう」

「オレやっぱり自分で走――」

「のん! 私はもっとぷちよー君を堪能したい!」


 そう言って抱きかかえているオレの頬に自分の頬を摺り寄せる。

 うう……恥ずかしい……。

 しかもオレの格好がトナカイのコスプレで涙月の格好がミニスカサンタである。いくら今日がクリスマスイヴとは言えちょっぴり生足出し過ぎではないだろうか。オレは独占欲強いらしい。


「大丈夫。肝心なとこはよー君オンリーだから」

「……そうですか」


 オレたちまだそこまで進んでいませんが。そもそも五歳児のオレに向けて言うセリフではないと思う。夢の中とは言えね。


「宵! 涙月! こっちよ!」


 雲を渡っていったその先に手を振る少女が一人。ララである。お隣には男装のゾーイも控えている。いや今のゾーイは男の子だから男装は普通か。


「ララ、間に合った?」

「……………ふ」

「笑ったな⁉ オレを見て笑ったな⁉」


 何とけしからんお姫さまでしょう。


「今のよー君は可愛いですからなぁ」

「言っとくけどオレの趣味じゃないから! 指定したのはララだろう!」

「それは――ふ、そうなんだけど……うぷぷ」


 口元を手で隠しているが目まで笑っているから全然表情を隠せていない。

 くそう、バカ真面目に従うんじゃなかった……。


「では、そろそろ行こう。パレードはもうすぐだ。……………ふ」

「ゾーイにまで笑われた!」


 その時聞こえてきた大きな拍手。


「ああ始まっちゃった。宵をからかっている場合じゃなかったっ」


 オレたちは――正確に言うとオレを抱えた涙月らは――走りだし、パレードを追う。


「コリスはどしたん?」

「コリスなら『デイ・プール』のアトラクションゲームに行っちゃったわ。ほら、日本の名物ゲーム。きのこで大きくなるやつ。凄いわよねテレビの中のものを実際に体験できるんだから。パレードには間に合わすって言っていたから――」

「ヤッホー!」


 陽気な声が飛び込んできた。


「うっぷ」

「もう来る頃じゃない?」

「遅いぜ言うの」


 涙月の顔面に飛びついてきたのは、オレと同じ年頃の幼女。ロリっ子コリスである。


「聞いてください今日のゲームポイントのレコードホルダーわたしですよ凄いと思うんですが如何でしょう凄いですよねえっへん」

「コリス、まず私の顔面解放して前が見えない」

「おっとすみません!」


 ぴょん、と飛び降りて脚を止めているオレたちをグルンと見まわし、


「メリークリスマスイヴです!」


ぱぁ、と晴れやかに笑うのだった。


「「「メリークリスマスイヴ。そんでもってハッピーバースディ・コリス」」」






『夢の中』でクリスマスパレードを堪能してシューティングゲームで遊んでいたオレたちの頭にアラームが鳴った。目覚ましアラームだ。


「涙月、コリス」

「うん。名残惜しいけど起きる時間ですな」

「日本は朝か。ではそろそろこちらも戻るかララ」

「そうね」

「む~、学校もこの世界でやってほしいです」


 皆が起きる作業に移ろうとする中コリスは唇を尖らせて。


「そう言う提案もあったけどね。でも人間、現実も忘れちゃいけないんだよ」


 オレは小さな手を動かしてホログラム起床ボタンを押す。


「じゃ、また今度」

「ええ」


 皆の姿が薄れていく。現実のオレの体が目を覚ましているのだ。同時に音楽が流れてきて――当然例のヴィジュアル系ロックバンドの曲である――オレは瞼をそっと持ち上げた。

 アマリリスの放った暁の数式によって解放された最高位のコンピュータ【覇―はたがしら―】。その機能の一つ、二つの世界。


『デイ・プール』――体ごと電子変換させる事でインできるゲームワールド。

『ナイト・プール』――夢を繋げ拡張し脳が眠った状態でインできるドリームワールド。


 二つの世界は繋がっていて『デイ・プール』はともかく眠っていながら意識が覚醒していると言う矛盾を孕んだ『ナイト・プール』の研究は使用されながらも続いている。最も有力な説は意識は脳だけでなく体の細胞全てが持っているのではないか、と言うものだが確認はされていない。


「ん~」


 オレはベッドから上体を起こしてまず伸びをした。体の骨がパキパキとなった。

 気温は2℃。けれども【覇―はたがしら―】の体温調整が効いているおかげで寒くない。

 ベッドから降りて鏡を見ると【覇―はたがしら―】の起動を示す光が利き目である左目に灯っているのが見て取れた。


「ん?」


 メールのアイコンが点滅している。クリックして開いてみると涙月からのオハヨウメールだった。その一言がとても嬉しい。胸に灯る優しい気持ちが熱を持っているみたいでオレは少しばかり苦笑した。

 メールを返して、オレは有名ブランドが多数のアパレル登録を行った電衣【seal―シール―】を操作し学生服を着用する。

 カーテンを開けて外を見る。白色交じりの青空が広がっていて、日本・イギリス共同開発オービタルリング【レコード・0(ゼロ)】が見えた。これまた暁の数式によって造られたもので綺羅星(キラボシ)本社『ゴールドティア』とエレクトロン本社『白金時代』によって支えられる人工の星の輪っかである。貴族階級の居住エリアである『地球の城』に接続されているこれは犯罪者を除き誰もが利用可能だ。ただ、今はショップと第一陣移住者を募集中の段階で、うちもその移住抽選に応募している。はてさてどうなるやら。

 鼻から空気を吸い込むとお味噌汁の匂いがした。

『ナイト・プール』で色々食べたとはいえそれによる満腹感はあくまで夢の世界のもの。現実の体は八時間も寝ればお腹が減る。

 オレは二階にある自室から出て階段を降り、トイレをすませて洗面台で顔を洗った。ようやっとここで意識が本格的に覚醒する。朝はぼ~としている事が多い。涙月は目を開いた瞬間に大覚醒するらしいけれど。

 食事が用意されている部屋まで行くと姉さんとお母さんが掘りゴタツとキッチンとを往ったり来たりしていた。

 掘りゴタツに熱は灯っていない。前述通り体温は調整されているから寒くないのだ。


「あ、おはようよーちゃん」

「おはよう姉さん、お母さん」

「おはよ。

 宵、お父さんとちーちゃん起こしてきてくれる?」

「はーい」


 食事はなるべく家族一緒に摂る。昼食はバラバラになってしまうがそれは仕方ない。

 オレはお父さん&お母さんの寝室まで行くとお父さんを起こして、次いで一緒に寝ていた妹を起こし抱っこして掘りゴタツへと連行した。途端妹は――ちーちゃんはカッと目を見開いて用意されていた朝食に顔を向け、よだれを垂らす。


「たべていい~?」

「もう一分待ってちーちゃん」


 全部のお皿を運び終えたお母さんはそう言うと先に姉さんを休ませ、お父さん・姉さん・オレの通勤・通学用カバンにお弁当を入れて自分も着席した。

 丁度そのタイミングでお父さんがやって来て、


「「「いただきます」」」


全員手を合わせて食事開始。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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