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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第195話「『【夢見る僕の心の大きさは】』」

おいでませ。

☆――☆


 天から落ちた蒼白い光は宇宙ロケットを包み地上にあったマスドライバーを直撃した。マスドライバーは粉砕され、施設ごと地面を抉り巨大な大穴を作り上げる。その直径凡そ百メートル。これは最早破壊と言うより消滅だ。

 ではこれを受けた宇宙ロケットは?

 それは――全くの無傷だった。

 幽化(ユウカ)、つまりオレのパペット『レヴナント』のジョーカー、コラプサー(吸収進化)。これの発動によって光は吸収されオレは更に強化された。


「あの~」


 宇宙へと向かう宇宙ロケットの中、氷柱(ツララ)はおずおずと震える手を挙げる。


「なんだ?」


 それに対して鬱陶しそうに顔を向けるオレ。


「なぜ……地上に降り注ぐ分は無視されたのでしょう……?」

「あれは無人だ」

「いやぁ建てるのに結構なお金がかかっていると……」


 まあ億はくだらないだろう。


「あれを使用し追手が来る可能性がある」

「だから壊したと……」

「そうだ」


 それを最後にオレは顔を元に戻し目まで閉じた。氷柱の方もこれ以上言葉がなかったので黙って座席に乗った尻の位置を整える。

 そうしている内に宇宙ロケットは大気の壁を突破し、重力の喪失を皆に感じさせた。

 やがて見えてくる二つの『地球の城』。科学の力で作られた貴族階級の居住エリアであり、綺羅星(キラボシ)本社とエレクトロン本社の頂点に存在する特別居住区だ。観光エリアもあるにはあるが居住エリアに繋がる通路は厳重に管理されて観光客は通れない。

 そして目的の人類史上最も豪奢と言われる国際宇宙船ヴェーロ――衛星軌道を行く船は『地球の城』よりも外側にあった。

 数人が窓を覗いてヴェーロを探すが、見えない。


「まだまだ見えませんよ。こっから同じく衛星軌道を通って、三十分と言ったところですね」


 と、人間号の一人が言葉にする。


「た~だ、敵は来るようですが」


 窓に顔を近づけ『地球の城』を覗く。城の上には人型獣型のロボットが群雄割拠していた。


「いくらなんでも宇宙空間では戦えませんよわたくしたち」


 そう言うエルエルに首を縦に振って同意する一同。


「あれらは我らが相手します」


 ベルトを外して立つはアンチウィルスプログラム十名。ムダ口をたたかずに二重扉まで向かうと躊躇なく開いて外に飛び出した。


「マジで」


 宇宙空間を不思議なブーツで滑っていく彼らを窓越しに見ながら(オミ)は呆れまじりにそう言葉を零す。

 アンチウィルスプログラムは纏う黒いスーツのおかげで火山地帯でも深海でも自由に行動できると聞く。彼らは戦闘のプロであると同時に救助のプロでもある為にその強化スーツにはあらゆる技術が練りこまれている。

 程なくして彼らはロボットたちと戦闘に入り、


「ロケットの航行を邪魔するな」

『承知しております』


オレは念を押して命令を飛ばしたが元々そのつもりだろう。攻撃は勿論爆風も火花の一つすらも通すつもりなどない、と。

 宇宙ロケットは衛星軌道に入り、アンチウィルスプログラムを残して進んでいく。あっと言う間に戦闘の様子は見えなくなり、皆は暫し地球の姿に目を落とした。


☆――☆


 桜色に燃える髪、全身に現れた同色の文様。

 前に掲げたオレの手に八つの人魂が集まって剣になる。羽子板に似た形と大きさで、柄の部位は竹、刃は天叢雲(アメノムラクモ)と同じく和紙と洋紙の組み合わせ――白い紙でできていた。

 その紙剣(シケン)を注視するユメ。そしてそんなユメを注視するオレ。彼はきっとこう思っているはず。「武器に見えない武器程危険だ」――と。

 同感だ。この紙剣から感じられる圧はこれまでの剣とは比べ物にならない程鋭利で輝いている。

 それと同時に。

 オレは全身から苦無(クナイ)を飛ばす。苦無は中空でくるりと反転すると紙剣にその身を溶かし混んでいく。

 輝く紙剣。それから感じる刃物の気配は一段と増している。

 往くぞ。


「――!」


 オレは一瞬でユメとの間合いを詰め、下方から斬りあげる。その隙間に天つ空(アマツソラ)の手が潜り込んできて、天つ空の掌を斬り落とした。

 通じる!

 そう確信したオレは斬りあげた姿勢を整え、天つ空を落とすべく彼の首を狙った。

 しかし。


「『ウォーリアネーム――』」

「――!」


 ユメが遂に。


「『【夢見る僕の心の大きさは】』」


 パペットと同化した。

 金に輝く髪。王冠のように頭を囲む白い角。背には宇宙色の翼。

 疑いようのない神の威圧。

 オレはそれに弾き飛ばされ、着地と同時に唾を飲み込んだ。しかし神の威に圧されてはいられない。

 なぜか? オレの中に入っている天叢雲からも神の威圧を感じるからだ。ユメに圧されては新たなパペットに申しわけが立たない。

 すぅ、息を吸って、はぁ、吐いて。

 ユメを睨む。ユメはと言うとまだ微笑を崩さずに。

 さて、往くぞ。

 クリスタルを蹴ってオレは宙に浮くユメへと向かった。

 その往く手を宇宙カレンダーから現れた夜空色の炎に似た物体が遮る。しかし、紙剣の一薙ぎによって祓われた。


「へぇ」


 感心するユメ。オレはユメに向かって紙剣を振り下ろす。ユメは宇宙カレンダーを丸め小さくすると棒としてそれを持ち、紙剣を迎え撃った。


「――!」


 紙剣と宇宙の棒は互いの威圧を跳ね返しながらぶつかり合う。だけど。


「はっ!」

「――!」


 オレは力いっぱい紙剣を押し振り抜いた。初めてユメの目が見開かれる。

 ユメは数歩後ろに下がると夜空色の炎をオレの真下から吹き上げた。

 この炎は――ダメだ。得体は知れないが驚異的な攻撃性を感じる。

 炎が猛り、ユメは上を向いた。そこには炎から逃れたオレが。


「天叢雲――ジョーカー」


 世界が白く輝いた。光は収斂し、あらゆる命を象っていく。鯨に象に鳥に蟻に菌。遥か昔から今、未来に至るまでの全ての命が繋がってオレとユメを囲む。黒い仮面、白い光の中に桜色な命を宿したそれは高速で回転すると溶け合って小さくなってオレの中へと入って行く。

 感じる。命の輝きを。

 オレは紙剣に星章(セイショウ)と命を乗せてユメに迫る。

 そんなオレを殺そうとユメは夜空色の炎で幾度も幾度も攻撃し、オレはそれを祓っていく。

 ユメはオレの紙剣を宇宙の棒で止めようとするがそれもあっさり斬って。


「――っ」


 ユメの微笑みが消えた。けれど決して焦った様子も取り乱した様子も見せない。三流ボスの如く叫んでくれたりはしないか。


「ユメ」


 上から斬り下ろしたオレは今度は下からユメを斬り上げる為に紙剣の角度を整える。


「なに?」

「君には不傷不死(フショウフシ)の力がある。だから君は――命の輝きを知らない」

「――真域滅火(シンイキメッカ)の光――」


 夜空色の炎が太陽よりも輝く。


「だから君は――命に敗けるんだ!」


 紙剣が、ユメの体を斬った。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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