第194話「『ウォーリアネーム! 【手にした夢は純白の輝き】!』」
おいでませ。
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
八つの首が炎となって舞い上がり、反転してオレの体に吸い込まれていく。
出し惜しみなし。難しい事は後で。
「咆――」
「――世界消滅の火・夜――」
目の前が、光に染まった。
「――哮八叫!」
咆哮を止めてからの防御は間に合わない。だったら攻撃して威力を殺ぐ。
ユメの放った白い光がオレの放った黒い炎とぶつかり、しかし抑えられずにあっと言う間に目の前まで押し込まれる。
こんなに差があるのか!
『宵!』
「獣王⁉」
オレの体に自主的に時間凍結をかける獣王。更に獣王は同化を解いてオレを咥え、横に放り投げた。しかし獣王は投げた勢いで体が数秒止まってしまい、そこに世界消滅の火が襲い掛かる。
オレはクリスタルの上を転がりながらその光景を見た。
獣王の黒い鎧の鱗が砕け下にあった白い皮膚が破かれていくのを。獣王の心が――紋章が砕け散る。
「獣王!」
『前を!』
今度は泉王。見るとそこに巨大な手が。
天空神アトラス『天つ空』の手が顕現した泉王を叩き潰す。泉王はジョーカーを発動させて時間を逆流させようとするが発動しない。
「パペットの力はパペットで防げる――よね? 宵」
「――ユメ!」
天つ空が右腕一本で支える天球の上、ユメは器用に立ってこちらを見下ろしている。
「宇宙カレンダー」
宇宙の歴史を記したカレンダーが広がり、泉王を握る天つ空の手の中にブラックホールが生まれた。重力の渦は泉王を飲み込み、体を作る分子をバラバラにしていく。
泉王――消滅。
ユメ!
オレは天つ空の腕を駆け上がり、
「皇波六叫!」
今オレができる最強の一撃をユメに叩きこむ。しかし最強の斬撃はユメの周囲に張られた反重力シールドで防がれ届きすらしなかった。
そんな……。
いやまだだ。まだ全て防がれたわけではない。
「樹王!」
時間の複製。十体の分身を造ってもう一度皇波を撃つ。
その瞬間未来の様子が見えた。血王のジョーカーによってオレだけ五秒先の未来に送られたのだ。ユメの放った反重力は既に消えていて皇波が届いた。
斬れた――そう思ったのも束の間。刃はユメの電衣【seal―シール―】すら斬り裂けていなかった。
防御された? どうやって?
「天つ空ジョーカー、不傷不死」
なっ……。
一瞬、絶望した。だが、
「まずその状態を解こうか、宵」
絶望に更なる困惑を招くユメの手がオレの胸に触れた。
「星章」
ユメの体が白く輝き、手を伝って彼の星章がオレの中に流れ込んでくる。言いようのない不安。体を内側から浸食される嫌悪感。それら全てを吐き出すように同化していたアエル残り全ての首が分離した。
膂力が低下し浮遊の力が消えて落ちていく。
『宵!』
落ちていくオレを覇王が支え、
『オオオオオオオオオオオ!』
闇王が天つ空の首元に噛みつき、
『――ガアアアア!』
冥王がジョーカー、時間崩壊をユメに仕掛ける。
しかし、闇王の牙は不傷不死のジョーカーを突破できず、また冥王も突破できなかった。
「天つ空」
『――世界消滅の火・伽――』
滅火の白き光が闇王と冥王に寄り添い、逃げる彼らの体をゆっくりと犯し、消滅させる。
「――世界誕生の火――」
ヒビの入った天球から流れる白い光。溢れるAIロボット。
「咆哮四叫!」
襲い来るAIロボットに向けて放つもそれは一体すら傷付けられず。
『ならば!』
「血王!」
血王はAIロボットに向けて大きく口を開き、それを丸のみにした。だが体内から機械化が進み、意識すら乗っ取られていく。
『宵……ここまでだ――覇王!』
覇王は躊躇せず敵となる血王の頭部に噛みつき、これを砕いた。
なんだよ……AIロボットにすら不傷不死があるのに機械化した血王にはないのか……。
『惚けるな!』
覇王に檄を飛ばされ、オレは固まっていた体をびくりと揺らす。
顔を上げると既にAIロボットが眼前に迫っていて、オレに憑りつくと言うところで樹王の首がそれを邪魔した。機械化していく樹王。
『クオオオオオオ!』
樹王は機械化した自らの体にブレスをぶつけ壊し、ボロボロになった体でユメを嚙み砕こうと向かっていった。
「天つ空」
だが、樹王の首を天つ空の手刀が貫いた。光の粒に分解されて消えていく、樹王。
「――――――――――――――――――【COSMOS】!」
使わないつもりだった。けれどそうも言っていられない。オレはあらゆる兵器を顕現しユメを撃つ。
「ムダだよ。僕にもできるって忘れたの?」
全く同じ兵器を顕現して迎え撃つユメ。
ならばとオレは神話の神仏を顕現する。
ユメもまた同じ事をする。
二つの全く同じ力は共鳴し合い、消滅していく。
『電王』
『オウ』
覇王に呼ばれ、電王がオレに向かって口を広げた。
「なにを?」
『お前と覇王を電子空間に逃がす。宵、お前は生きよ』
待って――そう口にした時にはもう体は電子空間に。
同時に世界消滅の火が電王を襲った。
「覇王!」
『最奥――“メル”まで潜るぞ』
「そうはいかないな」
「『――⁉』」
響くユメの声。
電子空間が渦を巻き、穴が開いて強力な重力によって吸い込まれていく。その先にあるリアルに放り出されるオレと覇王。
「忘れたのかい? 僕は仮想災厄。ヴァーチャルとリアル双方に干渉できるんだよ」
天球に立つユメの手がオレの手を掴み、オレの体は彼の腕力だけで支えられる。
「これが最後だ。
――世界誕生の火・原始――」
天球から溢れる光。既にいたAIロボットが重なり合い、蛇にも龍にも見える獣になった。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
吠える覇王と機械の獣。
両者はフィールドを駆け巡り、攻防を繰り返す。咬んで、咬まれて、崩れて、崩れて、崩れて。機械の獣には傷一つつかず覇王だけが負傷していく。
「御覧、宵。最後の首が消える」
「……やめろ……」
護らなければ……覇王だけでも――!
「もうやめろ!」
「バイバイ」
機械の獣が――覇王の頭部を噛み砕いた。
同時にオレを捕まえていたユメの手が開かれて、オレは落下していく。
敗けた……ここまで差があったなんて……。
視界が歪んで、目が潤んできた。
このままではオレも殺されるだろう。
それで、良いのか?
「よー君!」
生き残る覚悟を――
不意に甦る涙月の言葉。約束。
覚悟。
生きる。
そうだ、オレは死ねない。死ぬなんてしてはいけない。
生き残らねば。
生きて、勝つんだ!
【そうだ】
「――?」
誰の声だ? どこかで聴いた覚えが……。
記憶を探ってみる。
そう、夢の中で――
【オロチは死して残すものがある】
アエルの亡骸である光がオレの手に集まってくる。
【天上から地上に送られた剣】
収斂する光が形を作っていく。
【名は――】
日本刀のように曲がった剣。短刀程に小さく細く、和紙と洋紙の白い紙でできた剣。
【――天叢雲剣――】
オレのアエルが残した、神に通じる第二のパペット。
暖かい……命の温度。手から伝わるアエルの想い。
往け
涙はまだ零れていない。泣いている場合じゃない。
誓っただろう。
魂を鼓動に乗せて、想いを心に乗せて、強く一歩を踏み出すんだと。
夢を全てに乗せてだ。
幽化さんにも言われただろう。思い出せ。
オレはオレを! 諦めない!
グッと瞼を閉じて強く、強く開いた。
……………往こう、アエル。
叢雲、後で名前を付けてあげる。
クリスタルの幹に足を着く。
顔を、ユメへと向ける。
「往くぞユメ!」
叢雲を振る。その剣閃から無数のガラスに似た透明な苦無が飛び出してユメに迫る。
AIロボットがユメの前に集まって苦無を一身に受け、貫かれ。
不傷不死は展開されているのかいないのか? それを確かめる時間は与えてもらえず、まだまだ無数にいるAIロボットが一斉に飛んで走って上から正面からとオレに襲い掛かる。オレは苦無を飛ばし対抗する。
打ち落とされるAIロボット。その陰から獣となったそれがオレを喰わんと襲い掛かり、オレは叢雲を突いて苦無を槍状に射出。獣の口内から喉を破った。
その時。
「――世界消滅の火・夜――」
光が放たれた。だがオレは苦無を編み込んで横になったコーンの如き盾として展開。誰も防げなかった神の光を防いだ。
ユメの手がほんの一瞬止まる。
その隙を逃さずオレは小さな十字架を足場に宙を駆け、勢いそのままに天つ空の胸の中心めがけて刺突。力を斬る奇跡も乗せてだ。
「――!」
息を呑むギャラリー、そしてオレ。
叢雲は天つ空を貫けて――いなかった。
通じない⁉
オレは慌てて後方に飛んで距離を取る。
「どうやら、不傷不死の方が強いらしいね」
ならば。
「それでも! オレはオレを諦めない!」
オレは新しき名を口にする。
「『ウォーリアネーム! 【手にした夢は純白の輝き】!』」
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