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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第193話『パペットウォーリアファイナルバトル! 決勝戦です!』

おいでませ。

☆――☆


「…………」


 オレ・ゼイルが泣いていたのは負けたからではなかった。勿論勝負の結果は悔しい。ここまで来てああも簡単にあしらわれてプライドも傷つけられた。しかしそれ以上にオレの立ち直りは早かった。自分はまだ若く今が天井にぶち当たっている状態とは思わない。

 強くなる。

 そう思うだけで気力は湧いて出た。

 ではなぜ泣いている? それは。


【よくやった】


 エレクトロンCEOである祖父からのメールを受けて、オレは泣いたのだ。


☆――☆


「準備は良いな? 良くなくても行くぞ」

「ならなんで聞いたんすか……」


 他を無視する勢いで歩き始めた幽化(ユウカ)の――オレの背中に前野(マエノ) 誠司(セイジ)は文句をぶつける。しかしオレの方はそれを軽く無視して歩き続ける。

 その後ろに続くのは天嬢(テンジョウ) (ユウ)・前野 誠司・(マユ)・サングイス・氷柱(ツララ)・火球・エルエル・(オミ)・ゼイル。統一政府所属アンチウィルスプログラム十名・日本電脳情報庁所属人間号一~十。

 時刻は十二時五十分。

 前方にあるのはアメリカ所有宇宙ロケット発射用マスドライバー。巨大な煙突にも見えるその中にある宇宙ロケットは一行の搭乗を待ち焦がれている。

 目指すは国際宇宙船ヴェーロ。ダートマスを積んだ船である。

 今、ここに攻撃を仕掛けられるコンピュータは人間号の働きによって麻痺している。けれど向こうにもプログラムのプロがいる。侵入、妨害、侵入、妨害と繰り返し打たれる攻防は長く見積もっても十五分しかもたないと思われた。その間にマスドライバーが使えるのは一度だけ。それを逃さず宇宙へと昇がらなければならない。


「全員ここでパペットと同化しておけ。

『ウォーリアネーム 【君臨】』」


 オレとレヴナントの同化。背に黄金の翼が煌めく。

 続けて――


「「「ウォーリアネーム――」」」


 全員それぞれの名を唱えてパペットとの同化を果たした。


「マスドライバーの周囲はオレの部下共が固めている。

 乗り込め。あと五分だ」

「「「はい!」」」


 午後一時まで


 10

 9

 8



 3

 2

 1

 0


『打ち上げます』


 ミッションコントロールセンターからの声が入ってきて、マスドライバーは宇宙ロケットを放出した。

 その瞬間、天から光が落ちた。


☆――☆


『さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあ!

 ついに! ついに! ついにこの時がやってきました!

 パペットウォーリアファイナルバトル! 決勝戦です!』


 太平洋上に造られた国際雲上緑地都市『ロサ』――実験中の浮遊システムで造られた気象操作都市である。

 渇水を許さず、日照不足を許さず、天災を許さない。

 開発者の趣味で浮遊システムである柱に薔薇が絡みついている事からラテン語で『ロサ』と言う。

 都市の内部はと言うと中央にある気象操作装置を囲むように農業ビル、ショッピングモール、スポーツ・ミュージック等エンタメ施設、住宅街となっている。

 その一角、多目的大フィールドにてパペットウォーリア決勝が行われる。

 歓声が響く。会場が揺れる程のそれは耳に響くが決して嫌なものではない。それどころか気分を高揚させるもので。

 直径二キロメートルフィールドの外苑の端に立ってオレは向かい側にいるユメをじっと見ていた。彼もこっちを見ていて、口元には微笑が浮かんでいる。

 オレは肩に乗っているアエルをそっと撫でた。その手に小さな頭をすり合わせてくるアエル。今のアエルはもうお菓子を食べる必要なく自在にレベルを調整できる。まずアエルを巨体にして様子を見るべきだろうか? それとも開始直後に同化するか? とずっと考えていたのだがユメがどう出てくるかわからないから答えは出なかった。


「うん……」


 ユメは――人間の敵である。人を殺したし、ゼイルを殺そうとしたし、オレ自身一度殺されている(あれは自滅に近いが)。それはわかっているのだけど、彼の心が変わる事はないのだろうか? ピュアを愛せているのなら同じように人間を――と期待してしまうのは甘いのかな?


「……やめた」


 ぐちぐち考えてもわからない。初っ端から全力で行ってまずユメを組み伏せる。彼に希望を持つのは勝利を得てからだ。


☆――☆


「隣良い?」

「え? あ」


 客席に座る私・涙月(ルツキ)の横に現れたのは――


「ピュア」


 だ。


「てっきりダートマス防衛に行っていると思ったよ」

「そう言う命令はあった。けどこっちが気になったから」


 ララたちは警戒色を浮かべたが私は手で「どうぞ」と隣の席に座るよう促した。席に着くピュア。その横に私・コリス・ララ・ゾーイ・アトミック・インフィと並んでいる。因みに御伽(オトギ)魔法処女会(ハリストス・ハイマ)の護衛役をこなしている。


「私と戦う?」

「ううん」


 私の問いにピュアは首を横に振る。


「ユメが心配?」

「心配はしていない」


 ゆっくり瞼を閉じて、ピュア。


「さいで」

「……(ヨイ)が心配?」


 ゆっくり瞼を開けて。


「うんにゃ全然」

「そう」


☆――☆


『では改めてお二人を紹介します!

 まずは南席! 天嬢 宵選手! 中学二年十四歳! 男の子! ユーザーLv99! パペットは「アエル」! Lv100!

 続いて北席! ユメ・シュテアネ選手! 高校二年十六歳! 男の子! ユーザーLv100! パペットは「天つ空(アマツソラ)」! Lv102!

 互いウォーリアとして頂点と言っても良いでしょう!

 このお二人の内、勝者のみが前覇者である幽化さまとバトルできます! その幽化さまは――どっか行っちゃいました!』


 どこかやけくそ気味に言うお姉さん。

 幽化さんはダートマスを討つ為に行動しているはずだ。そしてエキシビションまでに戻ってくる。そう言っていたし、きっとそうなるだろう。

 だからオレはユメに勝ってその時を待つ。


『さあ! 時間がやってまいりました!

 バトルフィールドを選定します!』


 この時の為に用意された特別なルーレットがフィールド中央上空に表示され、針がくるくると回り始める。このルーレットはこれが最後だ。エキシビションは素の舞台――ガラス状のディスプレイそのままで行われるのが通例となっているから。

 針の動きがゆっくりになって――止まった。


『フィールド決定! 世界樹!』


 ナノマシンが輝き、収斂し、尖ったクリアな巨大クリスタルが花びらのように広がった。これが『幹』だ。その中央に白く巨大な十字の光が輝いて、それに合わせて小さな色とりどりの十字架が舞う。


『ではお二人ともフィールドへお上がり下さい!』


 オレとユメは踏み出し、クリスタルに足を乗せる。足が滑るかと思ったが靴のおかげかそれともクリスタルに細工がされているのか杞憂に終わった。


『では――バトルスタートカウントダウンを始め――』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ォア!


「「「――!」」」


 都市に溢れる『マナ』。

 どうやら運営は体力低下によるバトルの決着を望んでいないらしい。


『カ、カウントダウンを始めます!

 10

 9

 8



 3

 2

 1

 0! バトルスタ――――――――――――――ト!』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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