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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
191/334

第191話「男の子だから、かな」

おいでませ。

☆――☆


『それでは午前十一時に第二戦を開始します! 皆さまおトイレは済ませてくださいね!』


 そう言った実況が流れ、私・涙月(ルツキ)は「行ってきま~す」と言いながら席を立とうとした。

 ところが。


高良(タカラ) 涙月」

「うへい⁉」


 思わず仰け反る。いつの間にそこにいたのか隣の席にピュアが座っていた。

 私の周りに位置していたララたちにも緊張が走る。


「……全く気づいていなかったわね?」

「ま、前に集中していたもので」


 す~は~と胸に手を当てて深呼吸。


「私に何か用かい?」

「あのゼイルって言う子、棄権させた方が良い」

「え?」


 なぜに? いやそれは決まっているか。


「あの子じゃユメには勝てない」

「む」

(ヨイ)でも無理」

「むむ」


 私は人差し指を一本立ててちっちっちっと左右に振る。


「うちの二人は御強いですぜ」

「ユメは次元が違う」

「……ひょっとして心配してくれてる?」

「全然」


 目を閉じて首を左右に振る。


「さいで……」

「ユメはアマリリス無効化プログラムとして生み出された」

「うん」

「でも気づけばアマリリスではなく人類に対するプログラムになっている。エレクトロンに生み出されてダートマスに書き換えられた。

 彼は本来人を殺す必要のない人だった」

「…………」


 私はいつものおふざけモードを伏せてピュアの隣に座りなおす。


「ひょっとして、ユメの心配をしているの?」


 それにはピュアは応えずに。


「……私は人を殺す感覚を知っている」

「……うん」

「この体に私が『入る』前、私の宿に相応しい子を選ぶ為にこの子は色々なテストを受けた。その一つに他の候補との殺し合いがあった」

「…………」


 やりきれない、そんな気持ちが私たちの胸に広がる。


「最終的にこの子が残って、拘束されて、私が入れられた。この子の意識を喰う形で。だから私は人を殺す感覚を知っている。

 それはまがり間違っても嬉しいものではない。

 ユメはそんな経験する必要なんてない」

「惚れてますなぁ」

「……惚れる?」


 それって何? そんな顔。


「あれ? 違った?」

「……さあ」


 ピュアはユメを見る。すると特別待機エリアにいるユメと目が合った。彼は一度だけ手を振ると目を閉じて軽い睡眠に入った。


「……良いかい?」

「なに?」

「おトイレに行きたいのだけど……」

「……そう」


 服が掠る音だけを発してまずピュアが席を立つ。


「忠告はした」

「ん~、二人は辞退なんてしないと思うよ」

「なぜ?」

「意地、プライド、使命感、人間だから、ウォーリアだから、色々あるけどやっぱり――男の子だから、かな」

「……意味不明」


 そう言うと、ピュアはその場を去って行った。


「難儀な子や……っはっ! トイレ!」


☆――☆


「おーいゼイルー」


 椅子に座ってじっとしていたボク・ゼイルは上から降ってきた声に顔を上げた。緊張していた為か体がビクンと揺れたが相手には気づかれただろうか?


「うぷぷ。ビクついてやんの」


 ばれてた。


「……なんか用? (オミ)


 思わず熱が篭って朱くなった鼻を臣から見えない角度にずらし、ボクは頭上にいる彼女に聞く。

 臣は口に手を当てて笑っていたがボクの応じに居住まいを正す。


「ん~、マジでユメと戦う気かと思って」

「戦う気だよ」

「…………」


 二人はユメを見る。彼は目を伏せていて眠っているのか休憩しているのかじっとしていた。


「質問変える。勝てる気でいる?」

「……それ、言外に『無理』って言ってる?」

「あ~……うん。一応心配してやってんだけど」


 知り合ったからには、一応、か?


「やってる、かよ」

「やってんのよ」


 二人揃って微苦笑。


「これも一応言うよ。やめときなよ。死ぬよ」

「…………」


 顔を上げるボク。もう鼻は朱くない。寧ろ白かった。ボクが見上げた先にあった臣の顔は笑いなどなく真剣一つ。悲しんでもいないし怒ってもいない。まるで姉が弟を諭す時の表情だ。

 ボクはそれを認めるとすぐに顔を下げた。


「この大会で命かけるとは思わなかった」

「そりゃ誰でもそうでしょ」

「しかも身内が絡んでいるし」

「そりゃ誰でも――いやあたしらだけか」

「ああ」


 二人は祖父と父を思い出す。全く同じ顔、背格好。身長まで同じだったはずだ。趣味や嫌いなものはどうだろう?


「その身内がボクに辞退しろって言ってこない。どう言うつもりかは知らないけど」

「ひょっとして愛されていないんじゃないかって思ってる?」

「ああ」


 臣は、臣にはボクの気持ちがわかっている。わかってしまっている。


「……わからないでもないけど。AIの生体端末って言われてもねぇ」

「ボクら、人間社会に溶け込む為の道具だったり、ただ適当に奥さんを持った結果かも知れない。それならそれで――良くないけどまあ良いとして、この大会でもほっとかれてるって事はどうなっても良いってんだろ?」

「それはぁ……悲観的じゃないかな? あ、お疲れさまの一言も貰ってないや」

「ここらで一矢報いてやるよ。ユメに勝てないまでも怪我の一つくらいは負わせてやる。

 んで宵兄さんに負けちまえば良いんだよ」

「命かけて、何て止めときなよ」

「さあ? 全力は出すからどうなるかわからな――」

「や・め・と・き・な」


 きつく言われてボクは思わず口を噤む。


「それしたら葬式の時大爆笑してやるよ」

「……超失礼な」

「いやなら止めなよ。

 全力出すなとは言わないからさ、一矢報いてそれでも生きてなよ」


 生きろ、と。


「……わかったよ」

「で祖父さんと父親それぞれぶん殴ろう」

「殴るの?」

「殴るっきゃないっしょ? 人を大事にしろーってさ。それくらいやる権利あるでしょあたしらにはさ」 

「――そうだな」


 二人共に笑った。難敵を前にしているにも拘らず。


「じゃ、約束だよ。ホイ」


 臣がシールド越しに小指を立てた手を当ててくる。


「……や、恥ずかしいから良い」

「や・り・な・さ・い」

「……わかったよ」


 恥ずかしさをため息に乗せて吐き出して、ボクは席を立ちシールドを挟んで臣の小指に自分の小指を当てた。


「頑張んな」

「ああ」


☆――☆


『時間です!

 ゼイル・セイン選手! ユメ・シュテアネ選手! 準備はよろしいでしょうか⁉ ダメでもスタートしちゃいますよ!』


 二人は同時に席を立ってバトルフィールドの傍まで寄った。二キロメートルと言う長い距離を挟んで二人の視線が交差する。

 特別待機エリアに戻ったオレは二人の表情を見た。

 ユメは微笑を崩さない。ゼイルはひたすら真剣。


『バトルフィールドを選定します!』


 ルーレットが表示され、針がくるくると回りだす。針が――止まる。


『決定! 天の川!』


 ナノマシンが収斂し、まず暗闇ができ上がる。次いで星が散りばめられて――最後に様々な色に輝く光の粒による川ができ上がった。実物の天の川とは違う幻想的な空間。


『ではお二人とも中へ!』


 シールドに穴が開いて二人は中へ。シールドが再び閉じられる。

 ゼイルは天の川の上に足を降ろして何度か足を着いたり離したりを繰り返す。水ではなく光の粒が舞い上がる。

 どうやら数センチメートル足が沈むらしくゼイルは慣れようとその場でジャンプしたり軽く走ったりする。

 そうしている内に――


『バトルスタート時刻が迫ってきました! カウントダウンをスタートします!

 10

 9

 8



 3

 2

 1

 0! バトルスタート!』

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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