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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第19話「~~~~~どいつも! こいつも!」

いらっしゃいませ。

 鳴り響くサイレン。

 湧き起こる歓声。

 とうとう前哨戦が始まった。


「アエル!」

『おう!』


 肩に乗っていた状態から巨大な姿へ。

 加えてオレはアイテムである八つの人魂も顕現して。


「行こう!」


 オレの周りにいたユーザーは全員どこかへと散っていたから誰もおらずに。

 けれどもどこで誰と当たるかわからない。

 用心しつつ、けれど臆病にはならないよう度胸をもって駆け始めた。

 と、その時だ。


「――!」


 オレの行く手を突如マグマが遮った。

 選手であるオレを攻撃する不意打ちの一手ではない。オレの行く先を塞ぐ一手だ。

 これを放ったのが誰かと言うと。


「よう、天嬢(テンジョウ)


 草葉の陰から現れたのは――


「……三条」


 だった。

 まさかファーストバトルで仕掛けてくるとは。


「ぶっ殺しに来てやったぜ」


 その表情に笑いはなく、嗤いもなく。

 ただ、怒りがあった。

 だからオレは。


「楽しくなさそうだ」


 こう言い放った。


「あぁ?」

「これは勝負だけれど、楽しんで良いはずなのに」


 むしろそれが本質のはず。


「楽しむねぇ……全っ然楽しくねえよ。

 てめえといても俺はちっとも楽しくねえ」


 ならばなぜ関わりにくるのか。


「決まってんだろ。

 俺は邪魔な石ころを蹴飛ばすのが趣味だからだ」

「……オレは石ころじゃない」


 かつては石ころだったかも知れない。

 けど、今はもう違う。

 オレは決して、石ころではない。


「は! てめえなんざどこまでいっても石ころなんだよ!

 ガルデロッサ!」

「!」


 三条、パペット顕現。

 これは? 以前見た、いつも見せていたパペットと全く違う。

 マグマでできた三つの頭を持つ獣。ヒドラだ。


「三条! 前までのパペットはどうした!」

「あんな負け犬野郎棄ててやったよ! サイバーコンタクトごと割ってやった! 完全削除だ!」


 殺したのか。自らのパペットを自らの手で。


「新しいサイバーコンタクトを買うのに親に頭下げたんだ!

 全部てめえのせいでな!」


 完全な逆恨みじゃないか。

 むかつくなこいつ。

 腹の底から怒りがわいてくる。

 ……怒り?


「――あ?」


 一瞬、三条の動きが止まった。

 オレが一つ強く大地を踏みしめたからだ。

 いけない。危なかった。

 暴力で戦ってしまうところだったのだ。

 それじゃいけない。いけないんだ。

 息を大きく吸って――吐いて。


「三条。

 お前がどう言うつもりでオレと戦っても、オレは絶対に怒りに沈まない。

 けど、向かって来るなら必ず勝つ」


 ビキ。と音がした気がした。三条の血管が浮かび上がった気がしたから。

 それだけ強く怒気を感じたから。


「良いじゃねえか……」


 アイテムを顕現する、三条。

 小型の戦車だ。現代風ではなく中世のヨーロッパ物語に出てきそうな戦車。が、四機。

 ……オレを嫌っていながらオレと似たパペットを持ち、前野 誠司さんと似たアイテムを持つとは。


「行くぜ天嬢!」


 先手は三条。

 ヒドラからマグマのブレスが放たれた。

 それを迎え撃つのはアエルの火炎のブレス。

 ブレスとブレスがぶつかり合って――


「なっ⁉」


 マグマが押されて火炎がヒドラの首を掠めた。


「何やってやがるガルデロッサ!

 一つの首じゃなく三つ全部で撃つんだよ!」


 パペットとの連携がうまくいっていないな。

 ユーザーとパペットは同じ体温を持っている。それは繋がっていると言う事なのに。


「グズ野郎が!」


 イラついた三条は戦車の後方へ。

 彼の意志により戦車の全ての砲に火がついて――


「くたばれよ!」


 撃たれた。丸い砲弾ではなく尖った砲弾が。

 しかし。

 オレはその四つの砲弾を回転させた人魂で防いで。

 威力はあった。けれどこちらの熱さの方が上。砲弾はドロドロに溶けている。


「一撃防いだくらいで!」


 ヒドラが動く。

 今度は三つの口が開かれてマグマの息吹が放たれた。

 だが鞭の如く振られたアエルの首がヒドラの首を打ってブレスの方向を捻じ曲げる。

 そのアエルの首を狙って戦車から撃たれるも、


「!」


捻じ曲げられたマグマが三条に降り注ぎ、慌てて回避。

 撃たれた砲弾は別のアエルの首が噛み砕いてもいる。

 そんな状況に舌を打つ三条。


「撃てよガルデロッサ! 撃って撃って撃ちまくれ!」


 マグマのブレス、乱発。

 戦車もまた、乱発。

 バラバラだ。連携も何もあったもんじゃない。

 こんなの『攻撃』とは呼べない。


「行け! アエル!」


 全てのマグマのブレスと砲弾を身に受けながらもアエルの八つの首がヒドラに迫る。

 一つの首はマグマのブレスを逆流し、一つの首は飛び散っていくマグマを受け止めて、一つの首はヒドラの首に嚙みついて。

 倒れるヒドラ。閉ざされる口。

 しかしそこで。

 マグマの体をほどいてアエルの顔一つに纏わりついた。

 が。

 火炎のブレスによって散り飛ばされる。

 ならばとばかりにヒドラは三つあった首を一つに集約。極大と思われるマグマのブレスを放った。

 そんなヒドラの顎を打つ八つの人魂。

 放たれたマグマのブレスが明後日の方向へと飛んで行き草葉を焼く。

 オレがそちらに視線を向けた瞬間オレに向けて砲弾が撃たれた。

 けれどアエルが強固な黒い鱗でそれを防ぐ。


「くそが!」


 三条が戦車を蹴った。

 するとこちらも姿を解いて一つの巨大な戦車に。


「俺がよ! 味わった感覚をてめえも喰らえよ!」


 誠司さんに貫かれた時の事を言っているのだろう。

 サイバーコンタクトは痛みを齎さないがそれ以外の感覚を再現する。あの瞬間三条は吐くような怖気を感じたはずだ。

 それをオレに喰らわせようと。

 でも。大人しく喰らうわけにはいかない。


「おらあ!」


 もう一度戦車を蹴り上げる三条。同時に砲弾が放たれる。

 オレは人魂を手に戻し――


「なっ」


 人魂の姿を解いて炎の剣に。砲弾を縦に焼き切り裂いた。


「な……んでてめえに……」


 そんな芸当ができるのか、と言いたいのだろう。

 決まっている。

 努力したからだ。

 涙月やアエルに恥ずかしくないように体の使い方を覚え続けたからだ。

 技術と言うものは努力した分だけ増していく。

 そんな事も失念しているのか、三条。


「くそったれ!」


 三度戦車を蹴り上げる。

 すると今度は姿を解いた戦車が三条自身に装備されて。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 砲弾乱発。全てが人魂の盾によって弾かれる。

 行け。

 八つの人魂が撃たれて、


「おぅ⁉」


三条の纏う戦車を砕いていく。

 次いで人魂を呼び戻し再び剣に。

 そいつを振りかぶって――


「待てよ……」


 降ろす。


「待てよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 飛来した炎の剣閃が、三条の右腕を斬り裂いた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 悲痛な悲鳴を上げる三条。

 右肩から先をノイズに変えて。

 実際に斬ったわけではないから『斬られた表現』だ。

 だから痛みがあるはずもないのに三条は悲鳴を上げる。痛覚以外が再現されているから気持ちが悪くなったのか?


「くそっ! くそっ! ちくしょう!」


 悔しがる三条。

 オレを睨み、アエルを睨み。

 そんな様子を三条のパペット・ヒドラが見ている。三つに戻った首でただ静かに、動かずに。

 ヒドラの静かさに気づいた三条が一瞬沈黙する。絶句した、のだろう。


「何だよ……」


 しかし静かに口が動き出し、


「何してんだよ……」


顔色が紅潮していく。恥ずかしいのではない、怒りだ。


「戦えよガルデロッサ!」


 砕かれた戦車の欠片が浮き上がる。ボロボロになった状態でヒドラに引き寄せられて装備されていく。

 ヒドラが動く。

 戦車の砲に砲弾ではなくマグマが入れられて――撃たれた。

 でも、だ。

 言ったとおりに戦車はボロボロ。だから衝撃に耐えられずに砕け散って、マグマの砲弾も散ってゆく。


「このくそ野郎!」


 どっちが……。


「……もう良いだろ」


「あ⁉」


 オレの呟きに苛立ち顔を向ける。


「もう良いだろ、三条。三条の負けだよ」

「ざけんな! 俺のライフはまだ20残ってんぞ! これで勝ったつもりかよ!」

「つもりだよ」

「あめえんだよ!

 俺を倒したきゃ何で右腕だけ斬った! 首でも心臓でも斬りゃ良かっただろうがよ!」


 その理由は一つだ。

 三条自身に『敗北』を悟らせようと思ったのだ。思い通りにならない事もあるんだとこいつが理解しなければダメだと思ったから。変わらないと思ったから。三条も、オレの日常も。オレに対する態度も。

 けれど……ムダだったのか?

 何をどうしてもこいつに変化はないのだろうか?

 オレでは誰かを変えるなんてできないんだろうか?

 オレではオレの日常を守れないんだろうか?


「ガルデロッサ! ジョーカーだ!」


 ジョーカー。パペットに宿る特殊能力。


「使えよジョーカーを! このチビをぶっ殺すんだよ!」


 恐らくだが、三条はヒドラのジョーカーを使用した経験はない。

 マスターユーザーが『発見』してあげなければならないからだ。つまりパペットと共に過ごし、パペットを見ていなければならないのだが三条はヒドラをきっと見ていない。パートナーとして見ずに道具の一つとして隣に置いているに過ぎない。

 これではダメだ。


「ジョーカーを! 使えって言ってんだよ!」


 ヒドラは応えない。応えてあげるべき言葉を持たない。

 だが思いはあるはずだ。

 マスターユーザーに対する思いが。

 何を考えているだろう? 三条と同じように怒っているのかな?


「~~~~~どいつも! こいつも!」


 苛立ちが限界に来たか? とうとうヒドラから視線を外す三条。

 外して、オレを見る。


「もう良い……わかったよやってやる!」


 三条が駆ける。オレに向けて駆けだした。

 右の拳も左の拳も握りしめて。

 まさか!


「やってやるよ!」


 肉体での暴力に訴える気か!

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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