第188話『決定! 未踏惑星エホバ!』
おいでませ。
☆――☆
『さあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
午前九時! いよいよやってきましたパペットウォーリア最終日!
覇者決定戦&エキシビションマッチ決戦日です!』
熱い。日射しも暑いけれど実況のお姉さんも熱い。思わず椅子の上に立って片足はテーブルの上に乗っかっている。品はよろしくないけど気持ちはわかります。
「いええええええええええええええええええええええええ!」
あ、涙月が観客席で真似している。
「よ――――――――――――――――――君がんば――――――――――――――!」
恥ずかし!
既にフィールドの特別待機エリアにいるオレは思わず顔をそらした。
オレを含む各部門優勝者はフィールド内特別待機エリアに分かれて座っていて、それぞれに護衛が二人ずつ付いている。パペットの能力が防御に長けている運営側のスタッフだ。
『まずは対戦相手を決定します!』
今日この時まで誰が誰と当たるかは発表されていない。なぜなら実況の通りこの場で決めるからだ。
『ゼイル・セイン選手!
天嬢 宵選手!
ユメ・シュテアネ選手!
アマ・セメタコス・ヴァルガント選手!
フィールド中央へお越しください!』
座っていた椅子から立ち上がってオレを含めた四人が集まる。
そこにガンシューティングの装置が舞台下から浮かび上がってきて、東西南北にデジタルな的が表示された。
『皆さま銃をお取りください!』
言われた通り、銃を――シューティングコントローラーを手に取る。
『ではゼイル・セイン選手から的を撃ってくださいな!』
ゼイルは四つの的を眺めて、東の的に狙いをつけた。パゥ! と言うデジタルならではの発砲音とマズルフラッシュが閃いて、的が割れた。そこに【C】と言うアルファベットが一文字浮かぶ。
『ゼイル・セイン選手! 第二試合です!』
トーナメント表がフィールド中央上部に表示されて、Cの位置にゼイルの名前が記録された。
『では天嬢 宵選手! 続いてどうぞ!』
オレは残った的から南にあるものを選んで、撃ち抜いた。浮かんだアルファベットは――
『天嬢 宵選手! A! 第一試合です!』
この後すぐだ。
『続いてユメ・シュテアネ選手! どうぞ!』
ユメは迷わず北を向いて、撃った。
『ユメ・シュテアネ選手! D! 第二試合ゼイル・セイン選手とのバトルです!』
どよよ、と会場が騒めいた。
ゼイルとユメか……。
オレはゼイルを見る。すると彼もこちらを見ていて、一つ頷いてきた。いろいろ思うところはあるはずだがここにきて焦ったりはない。
ゼイルはユメを気丈に睨むもユメはトーナメント表を見ていて目を合わせずに。
『それでは最後にアマ・セメタコス・ヴァルガント選手! え~と、撃ちます?』
「撃ちま~す!」
こちらは呑気に声と手を挙げて、楽しそうに残った的を撃った。表示されるアルファベットは勿論、
『アマ・セメタコス・ヴァルガント選手! B! 第一試合! 天嬢 宵選手とバトルです!』
「宜しくねぇ」
と言って拳を突き出してきた。
「宜しくお願いします」
オレは自分の拳を彼女のそれに合わせる。
「ぶっ殺すから」
物騒なハートが飛んだ気がした。
『それでは皆さま一度特別待機エリアにお下がりください! フィールドを選定します!』
オレたちは一度散って、それぞれの椅子に着席。
『ルーレットを回します!』
もはや見慣れた――いやこの日の為に豪奢にデザインされたルーレットが映されて針がくるくると回りだした。やがてその動きはゆっくりになって――止まる。
『決定! 未踏惑星エホバ!』
ナノマシンが収斂し、とある惑星を模っていく。
未踏惑星エホバとはある場所に発見された地球型惑星の一つで、最も海がある可能性が高いと言われている星だ。現在超長距離用量子テレポートスペースシップが十年がかりで向かっている。量子テレポート含むワープは電波・物体を送る場合転送先の空間座標を計測する事が必要で、地球圏内を始め近距離宇宙空間なら既に計測が終わっている為問題なく使えるのだが(ただしその技術はまだ民間人対象外である)広域宇宙空間の計測はまだまだで計測・ジャンプ・計測・ジャンプ・計測を繰り返して進む事になる。その結果最新スペースシップでも十年と言う長い時間が必要となった。
そんな念願のお相手、未踏惑星エホバのイメージがここに形成された。
紫の空。紫の海。塩の岩。背の高い松に似た樹木。火山。空に浮かぶ大小の白い月。重力は1G。
『では宵選手! アマ選手! フィールドへ!』
オレたち二人は椅子から腰を浮かせて、真っ直ぐにフィールド内へと足を進めた。
フィールドの大半が海だが、オレはまず砂地に足を降ろした。シャリ・シャリと砂が鳴る。石と言うより珊瑚の欠片に近い物体なのだろう。綺麗な音だ。色も白で美しい。
しかし見惚れている場合でもない。前述通り大半が海だからそちらの様子も見ておく必要がある。
オレは海水に足を浸す。濡れると言う感触が再現されて靴の中に海水が侵入してくる。少しぞわっと震えが来た。遠くを見やるとこの海は遠浅のようで、ところどころに砂地が顔を見せている。
『では! バトルスタートまでのカウントダウンを始めます!
10
9
8
3
2
1
0! バトルスタート!』
「行くよボーヤ!」
「ボ……」
「『ウォーリアネーム! 【ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン】!』」
いきなり同化⁉
アマ選手の腕が六本になり、その手全てに三鈷杵が握られて。
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
八色の炎が天に昇る。龍を思わすその先端。一匹一匹がオレの中に吸い込まれ、左腕に黒鱗の巨盾が、右手に人魂の変化した青銅の剣が装備される。額には桜色な目が輝いた。
「今まで見せなかったアイテム見せてあげる! 決してこのままじゃやばいかなって思って昨日急いで精製したわけじゃないよ!」
正直者ですね。
ちょっと呆気に取られている内にアマ選手の新アイテムが顕現した。
木札だ。
一つの木札は縦十センチ横三センチと言ったところ。数はありすぎてわからないがその一つ一つに仏が刻まれている。
使わせない!
「咆哮!」
腕から出る炎のブレスが海水を蒸発させ砂を削りながらフィールドの端から動かないアマ選手に迫る。二キロメートルある距離もなんのその。スピード・威力共に衰えずに咆哮は彼女に届き爆炎を挙げた。
「……あれ?」
直撃した? まさかき――
「決まってないよボーヤ!」
「――⁉」
炎が渦を巻き、霧散したその中にアマ選手は平然と立っていた。
防いだ? あの木札で?
「防いだのとはちょっと違うんだな」
「え?」
「もう一発軽く撃ってみなさいな。そうすれば何が起きたかわかるんじゃない?」
こちらに向かってゆっくり歩きながら、アマ選手。オレもアマ選手に向けて足を進める。
誘いに乗って……みようか。
「咆哮――炎銃」
球状にした咆哮を撃ち出す。それでも直径は一メートルあるものでこれだってまともに喰らえば火傷くらいは残るだろう。それは通常の咆哮と同じ速度で飛び、アマ選手の周囲を飛ぶ木札に命中した。した――ら、弾けて消えた。炎銃は木札を燃やす事もできなかった。
まさか――
「無効化能力?」
「当たり!」
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