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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第187話『別れの日が近づいている』

おいでませ。

「キリーク」


 そうアマ選手が呟くと糸が粉になってしまった。


「な⁉」


 目を瞠るハイメ選手。しかし動揺は一時。ハイメ選手はすぐに気を取り直して糸を手に巻き付け巨大な拳を作り上げる。


「おおおおおおおおお!」


 氷塊を蹴ってアマ選手に迫る。繰り出される拳。アマ選手は五本の腕をクロスさせてそれを防ぎ雷の腕でハイメ選手の顔面を掴む。けれど電流は外に逃がされて効いていない。


「なら、カーン」


 顔を掴んだ掌から剣が伸びてハイメ選手の顔を貫いた。


「……!」


 傷はない。しかしその剣は――


「邪心を切る」


 ハイメ選手の体から力が抜ける。それを認めたアマ選手は雷腕の力を解き、ハイメ選手の体を蹴って宇宙空間に漂わせた。


「降参しな」

「……リザイ――」


 リザイン。そう言うとしたらしいが言葉は途切れ、ハイメ選手は笑った。


「――?」


 なんと、ハイメ選手の全身が糸に変わったではないか。


「な⁉」


 いや全身どころではない。氷塊も、空間も糸に変わっていく。


「降参した方が良いですよ」


 糸がアマ選手を襲う。アマ選手は雷や梵字でそれを捌き続けるが圧倒的物量で迫ってくる糸に腕を、脚をと絡め捕られ。


「ほら、拘束した」


 藁人形のように体を大の字に固定され、アマ選手は唇を嚙んだ。と思ったら。


「ふ……あはは」


 劣勢にも拘らず笑った。


「似た力持ってんだね」

「……なんと?」

「こう言う事!」


 アマ選手の全身が――雷へと変化した。いや全身だけではない。氷塊も空間も。


「どっちの浸食が上か試そうか⁉」

「浸食? これは同調ですよ」


 糸が、雷が互いを襲う。

 こう言った能力の場合意識を固定する核――『基石(キセキ)』がどこかに存在する。それを捕えた方が勝つ。

 糸が波となって雷を薙ぎ、雷が洪水となって糸に奔る。

 糸が雷と同調しそれすら糸に変えていく。雷が糸を侵食しそれすら雷に変えていく。

 両者の力は全くの互角。これはもう精神の戦いだ。己を肯定する力こそが自らの領域を広げ、劣ると一気に犯される。


「どこまでも!」

「良くやりますね!」


 両者はとうとうフィールド全てを変えてしまい、最早土星の影すらない。

 フィールドがただの白いガラス製の舞台に戻ったその時、糸人間と雷人間が糸と雷渦巻く空間に出現して一方の手で互いの首を握り・一方の手で手を握り合っていた。


「ふぐぐぐぐぐぐ!」

「ぬぐぐぐぐぐぐ!」


 基石の場所がわからないからか人間の体を僅かばかり戻して戦っていると言うところか。だがそれなら。


「ら!」


 アマ選手が残り四本の腕でハイメ選手の顔、腹を殴りつけた。


「ぐ……!」


 ハイメ選手の口から一滴の血が垂れる。やはり取っ組み合いになったら腕の多いアマ選手の方が優位。


「らららららららららららららら!」


 拳の連撃。ハイメ選手の体を滅多打ちにし、とうとう彼の体から力が抜けた。


「悪いね!」


 組まれた腕がハイメ選手の頭部を上から下へと殴打。


「この――」


 ハイメ選手の手がふらつき、目の前にあったものを適当に掴む。そこは。


「いやああああああああああああ!」


 胸を掴まれて大声を上げるアマ選手。ハイメ選手の腕を払いのけ、一瞬の隙が生まれた。ハイメ選手大チャンス。と思ったのに。


「すみませんでした!」


 ハイメ選手がとった行動は――ジャパニーズDOGEZA。


「許さ――いや許す!」


 キランと輝くアマ選手の目。

 その足がハイメ選手の後頭部を踏みつけた。

 顔を押し付けられたフィールドにヒビが入った。糸がパラパラと崩れていく。ハイメ選手の体も元の人間のそれに戻り、そのままハイメ選手は沈黙する。

 そんなバカな。

 呆れてものも言えなくなっているオレの横で涙月(ルツキ)が大爆笑していた。


『勝者! アマ選手です!』






『なんとも珍妙な結末ですが! これで全優勝者が決定しました!』


 フィールドに並ぶは運営の人間とウォーリア四人。


『小学生の部優勝者! ゼイル・セイン選手!』


 ゼイルが一歩前に出て歓声に応えて手を振る。一歩下がって、


『中学生の部優勝者! 天嬢(テンジョウ) (ヨイ)選手!』


オレも一歩前に出て、手を振って左右前後に礼を一回ずつ。一歩下がって、


『高校生の部優勝者! ユメ・シュテアネ選手!』


怖々とした歓声。恐れながらもその圧倒的な実力に惹かれる人間も多いらしい。

 ユメは一歩前に出るとパンツのポケットに手を突っ込んだまま頭だけで一礼した。一歩下がって、


『社会人の部優勝者! アマ・セメタコス・ヴァルガント選手!』


アマ選手は一歩前に出てスカートを両手でちょこっと摘まんで腰を落とし軽く一礼。一歩下がって、


『ではこの方に登場していただきましょう!』


正面ゲートに続く人の列が割れ、そこからとある人物が姿を見せた。


『前大会優勝者! 幽化(ユウカ)選手です!』


 一際大きな歓声。幽化さんはまっっっっっったく表情を変えずにオレたち四人の前に進みでる。


『優勝者四名によるファイナルバトルの結果覇者となられた選手が幽化選手とのバトルに進みます! チャレンジャーはゼイル選手か⁉ 宵選手か⁉ ユメ選手か⁉ アマ選手か⁉ 皆さまにはクリーンで青春爆発なバトルを望みます! いやまじで!』


 特にユメに向かって言っているのだろうがユメは目を閉じて微笑を浮かべたままちっとも動じていない。


『では皆さま! 明日はお休みですので明後日にまたお会いしましょう! お元気で!』


☆――☆


翌日。大会休日。


 オレは魔法処女会(ハリストス・ハイマ)施設にあるホールで目を閉じてアイテム人魂の集合体である剣を握りしめている。敵がいるわけではない。ただ静かにそうしている。意識を集中させ続ける。

 次第にオレの体にほんのりと桜色の灯が燈り、その光はどんどん大きくなって剣へと伝っていく。


『――宵』


 オレを呼ぶ声。オレは小さく唇を開き。


「アエル?」


 相棒の名を呼んだ。


『別れの日が近づいている』

「え?」


 思わずオレは目を開ける。


『そのまま聞け。集中を乱すな』

「う、うん」


 もう一度目を閉じて揺らいだ心を落ち着かせる。心と同様に揺らいでいた星章(セイショウ)の光も落ち着きを取り戻し、剣の刃となって姿を留める。


『我らに何があっても取り乱すな。まっすぐに前を見ろ。

 そうすれば新たな光はお前に届き、お前を見守り続けた「奴」を感じられるだろう』

「奴?」

『お前の内に眠るお前の魂の記憶。

 忘れるな。我らはいつもお前といる』


 それっきり声は聞こえなくなった。

 別れ――だって? オレがアエルを失うと言うのだろうか?

 そんなのあってたま――


「セイ!」

「痛い!」


 いきなり側頭部を蹴られた。涙月に。


「よー君、集中して攻撃見逃したらシャレになんないよ」

「う……せめて蹴るなら靴くらい脱いでよ」


 頭を手で払うと土が落ちてきて。


「敵が靴を脱いでくれるとでも言うのかい」

「言わないけど……」

「では」


 西洋剣にもランスにも見える武器を構える涙月。


「ちょっとお相手してくれる?」

「願ってもない」

「あ、次ワタシねー」


 とホールの壁際で手をぶんぶん振るララ。


「じゃその次あたしねー」


 その横で手を振る(オミ)

 なかなか大変なトレーニングになりそうだ……。






「ゼ~はぁ」


 ホールにぶっ倒れて荒く息を吐くオレ。

 あの後氷柱(ツララ)さんとアトミックに御伽(オトギ)とまでバトルして、更にそこからシスターとの連戦。しまいにゃ皆でバトルロイヤルと言うとんでも展開になり、オレはセイもコンもつき果てた。


「ひどいよ皆……」


 オレの為と言うよりそれぞれ楽しんでいた節があり。


「午後からは休みなさいね」


 冷たいタオルをくれながら、(カンナギ)


「ただ」

「ただ?」

「わたしはこのくらいのトレーニング毎週やっているけれど」

「…………」


 簡単に火をつけられて、オレはこう言った。


「もう一周お願いします」


 すぐに後悔する事になるのだが。






 日は落ちて、夜。時計の針は既に0時を回っている。


「いよいよだ」


 一試合勝ち抜けばユメと戦う時が来る。

 幽化さんの話だと幽化さんたちはダートマスを討ちに動くとの事だ。となればピュアも動くだろう。エレクトロンと綺羅星(キラボシ)がどう動くかはわからない。明日で全ての勝負がつくのかもわからないが戦局は大きな山場を迎えるだろう。

 ……勝つ。もとい、楽しんで勝とう。

 どんな形であれオレがやっているのはパペットウォーリアなのだから。

 ユメ――アマリリス無効化プログラム仮想災厄ヴァーチャル・カラミティの父。であるならば。


「君は、なぜオレと戦うの?」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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