第185話「国際宇宙船ヴェーロ」
おいでませ。
☆――☆
「――以上だ。わかったな」
「えっと……」
表示されていたホログラムスクリーンを消して幽化――オレは集まっている面々に目を向ける。しかし問われた方は今一つ理解が及んでいないらしく。
「始める前に二度は言わないと言ったが?」
「いやそうじゃなくて、この戦力で良いのかって話っすよ」
そう前野 誠司はオレを前に委縮しながらも声を出した。
ここに集まっているのはオレ・宵の姉である天嬢 夕・前野 誠司・繭・サングイス・氷柱・火球・エルエル・臣・ゼイル。そして統一政府所属アンチウィルスプログラム十名・日本電脳情報庁所属人間号一~十、以上である。
オレはこの面々に向けてこう語った。
宵とユメが戦っているうちにこれでダートマスを討つ――
と。
「聞けばダートマスにも【魂―むすび―】ってのがあると。サイバーからあらゆるものを取り出せるんならこの戦力でも不安っすよ」
そう述べるのは人間号の一人。
「問題ない。数を増やせば死人が増えるだけだ。それに邪魔だ(本音)」
「勝算があると」
「ロケットを思い描け。走り、数人を切り離し、また走る。それを繰り返して最終的にオレをダートマスまで送れば後はどうにかしてやる」
「確かに」
言葉を引き継ぐ人間号の内一人。黒い和服に狐帽子で鼻上を隠していて誰が何号なのか判別できない。
「戦力を増やせば戦域が広がってしまう。そうなれば一般人の巻き添えも多くなるでしょうねぇ」
「そうだ。その為の一本道」
「因みにどう言う順番で切り離されるんでしょう?」
と、繭。
「さあな。敵と遭遇した際最後尾にいる奴を切り離していく」
「成程。では、幽化さんが遅れたら?」
「切り離せ。代わりに残った奴がダートマスを討て」
自分が残ったらどうしよう? それを数人は考えたようだが言葉にはせずに呑みこんだらしい。睨まれたくないからだろう。
「あの~」
おずおずと手を挙げるは臣。
「あたしにパパは任せてほしいんだけど――ですけど」
「好きにしろ」
「お祖父さんはボクが」
「それも好きにしろ」
「そいじゃ聞いても良いかな?」
代わって手を挙げたのは火球。その肩には最近生まれたばかりの彼女のパペットが乗っている。涙月のクラウンジュエルに似たSDキャラ、侍タイプだ。ただし刀はプチ侍の背丈よりも大きい。
「大本命のダートマスはどこにいるの? 単純に綺羅星やエレクトロンにあるわけじゃないでしょ?」
「そうだな。今は上だ」
「上?」
「国際宇宙船ヴェーロ」
「「「――!」」」
国際宇宙船ヴェーロ――衛星軌道を回り続ける統一政府の宇宙船の名だ。統一政府の会議はこの船で行われる事が多い。
それはつまり――
「統一政府はダートマス側⁉」
と言う証でもあった。
誠司の挙げた声に全員の視線がアンチウィルスプログラムに向く。彼らはその視線を涼風のように受け流し、一人が口を開いた。
「正直に言わせていただくと統一政府中央議会クヴィン・スーノ五名の内四名はダートマス側であります」
「例外は一人、スプマドールだな」
「そうです、幽化殿。我々はスプマドール氏に配分されているアンチウィルスプログラム。宵氏を襲ったのは他の四名に配分されている者たちです」
親指以外の四本指を立てながら。
「オレたちはスプマドールの支援を受けて空に上がる。ただしワンチャンスだ。空に上がる船は国家民間問わず監視されているからな」
「でも昇っている途中でも撃墜できる配備はされていますよ?」
不安げに眉を下げる夕。その配備は――地上と天にあるミサイル配備はテロリストの船が打ち上がるのを阻止する為のものだ。
「そうだ。そいつを麻痺させる。だがこの手を一度使えば警備は強化され二度とできないだろう。だからワンチャンスと言った」
「そいつを我々が引き受けるってこってす」
呑気に手を挙げる人間号。
「本職ですからお任せを」
挙げた手の指三本を折って、ピース。何となく……不安だ。だが。
「良いな? では集合場所と時間を伝える」
☆――☆
『さあああああああああああ!
日付も変わって会場も一夜で回復すると言う驚き桃の木展開を迎え! 社会人の部いよいよです!』
昨日あんな事があったと言うのに会場の客席は満席である。
オレ・宵は会場全体を見回してみる。客のボルテージは上がっていて昨日の事件が委縮どころか注目と興味を呼び寄せてしまったのがわかる。警備は強化されている。非常口を兼ねる出入り口には警備員が二人ずつ立っていて、会場内フィールドにも本来東西南北四名しかいないはずだが今は倍ほどいる。フィールドを覆うシールドは四重になっていて厚みもこれまでの倍になっていた。
『もう最後までお付き合いください! どうなっても私は責任持ちません! 自己責任でお願いします!』
実況がやけっぱちになっている気がするけど、スルーしよう。
『社会人の部! 開始です!』
☆――☆
翌日
『――と言うわけで社会人の部優勝決定戦です!』
あれよこれよと社会人の部は進み、いよいよ最終戦です。
「……問題なく進む事実が奇跡に思える今日この頃」
「よー君もだいぶ毒されてるなぁ」
ダメだダメだ、感覚を戻さねば。
『ではお二人を改めてご紹介しましょう!』
フィールドには既に登場している。
『スリランカ代表! アマ・セメタコス・ヴァルガント選手! ユーザーLv90! パペットLv90!』
20代女性。既にパペットは顕現中。六の腕を持つ仏――阿修羅である。
『ペルー代表! ハイメ・パントーマ選手! ユーザーLv96! パペットLv95!』
30代男性。こちらもパペットは既に顕現中。が、あれは……糸――だろうか? 白い糸がハイメ選手の周りをふよふよと漂っている。
『バトルフィールドを選定します!』
ルーレットが投影されて、針がくるくると回り始め――止まる。
『決定! 土星の環!』
大気中のナノマシンが収斂し形を造っていく。土星本体が少しと、その環が大きくフィールドを横切った。
『では両選手フィールドへ!』
アマ選手とハイメ選手が環を構成する氷に用心深く乗って足元を確認。
『両選手準備はいいですね⁉ カウントダウン始めちゃいます!
10
9
8
3
2
1
0! バトルスタ――――――――――ト!』
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




