第184話「次は大会で会おう」
おいでませ。
顔色を変えるわたし、神巫。いや、巫。わたしと涙月の間には友情が成立しているのだから。
「それは聞き捨てならないわね」
「神巫の意見は聞いてないし」
「……父さん」
【神巫とピュアが戦う事には関与せぬよ】
「ちょ――――――――――――――――――――と待て――――――――!」
「うわぁ⁉」
またもやの乱入。それもダートマスよりも遥かに大きな声で。
「る、涙月?」
「よー君凄まじい勢いでがんば!」
「精一杯やってます」
「ん? ああそうか」
ユメは何かに気づいて軽く手を振った。
すると宇宙空間に穴が開いて――
「おぉ?」
宵たちが雪崩れ込んできた。先頭にいた宵を押し潰さん勢いでドドドと倒れこみながら。
「重い……」
「女の子に重いとか言ったらダメよ宵」
「……すみません」
若干の理不尽を感じた様子ながらも宵はララに謝罪を一つ入れる。
少し前からユメのこの空間に入ろうと宵は【COSMOS】を使っていたのだが声を侵入させるのが精一杯で、結局ユメが招き入れたと言う形だろう。
「そこのピュア! 私に用があるなら――あれ? ピュアは?」
声を張り上げる涙月だったが、びしっと突きつけたはずの指は空ぶってそこにいるはずのピュアは忽然と姿を消していた。
「この中にいるのね?」
「「「――⁉」」」
その消えたピュアの声。声の発生点は宵たちのすぐ傍、仲間たちの内側。そこにピュアはいたって普通に立っていて、手にはアポスタタエを閉じ込めた結晶があった。
ピュアに向かって武器を振る一同。しかしピュアは『|女王陛下の軍《アームド・フォーシーズ・オブ・ザ・クラウン》』を使役してその全てを防ぎ、余裕をもってユメのいる場所まで歩いて行く。
そこでピュアはアポスタタエの結晶を口に含むと――飲み込んだ。
「――――」
ピュアの目が見開かれる。彼女の黒い瞳が赤く染まり、星を讃えた髪の毛が風になびくように広がった。
「――っはっ」
腹を抑えうずくまるピュア。それに寄り添うユメ。彼女の手を取り立たせると、ピュアが口を開いた。
「これで、私は――」
「ああ、君は仮想災厄となった」
「「「――!」」」
【人類精進プログラム・ピュア】
「セイシン?」
それは誰の呟きだったか。
【ピュアの力は人類を進化させるのよな。最も、どちらのニンゲンをかはこのダートマスにはわからぬよな】
「退くよ、ピュア。まずは君の力が安定をみるまで隠れていよう」
「……うん」
「父さん、宵の弱体化は必要ないよ。ちゃんと勝つからさ。
それじゃあね、宵、皆。次は大会で会おう」
空間が回った。ぐるぐると星が巡り、点ではなく線となって周囲を覆い、気づくと元の世界に戻っていた。ユメとピュアの姿を消して。
☆――☆
『とんでもない事態になりましたが!』
そんなボイスメッセージが届いたのは同じ日の夕方、アマリリスをどこにいさせるかを考えていた時だった。因みに幽化さんは「興を殺がれた」と言ってあっさり姿を消してしまった。
メッセージの声の主はパペットウォーリア実況リーダーのお姉さん。怒っているのか苛立っているのか苦しんでいるのか声が少々やけっぱち気味だ。
『大会は続行されます! マジで! 今日中に会場は修復される予定です! ウォーリアの皆さま! 関係者の皆さま! 奮ってご参加ください!
では明日からの予定をお報せします!』
そう言ったお報せの最後に。
『尚! 皆さま「やっぱりな」とおっしゃられるかも知れませんが発表します!
高校生の部優勝はユメ・シュテアネ選手となりました! 繰り返します! 高校生の部優勝者はユメ・シュテアネ選手です!
では明日からの社会人の部、皆さまお楽しみに!』
「ま、スポンサー大手がエレクトロンと綺羅星だしね」
と、コーヒーを啜りながら、巫。
「よー君から【COSMOS】を奪う絶好の機会なわけだ」
「そ」
オレ的には実は有難い。どんな状況になってもオレは幽化さんが最終目標なわけで、その幽化さんはきっとこんな機会でもない限りオレと本気のバトルをしてくれないだろう。チャンスを逃すなんてしたくない。
加えてユメを止める機会でもあるのだ。彼を倒して、この争いを終わらせる。
……終わる――のか? ダートマスはどうする? ピュアは? 人間側だって【魂―むすび―】を狙っていて……。
「「「せーの」」」
「痛い!」
涙月とララ、それに巫にまで頭をど突かれて持っていたグラスからサイダーが零れた。
「ちょっと! このパンツ気に入ってたのに!」
ずぶ濡れだ。まあ防水の電衣だから大丈夫だけど。
「貴方、一人でぐちぐち考えてたでしょ」
ずいっと顔を近づけてくるララ。鼻と鼻が少し当たった。そんなララを押しのけて、
「苦労は仲間で背負うもんだよ、よー君」
「ご、ごめん」
ララと同じように涙月に顔を近づけられてしまい、顔に熱がこもる。それに二人からはそれぞれ違う香りがして鼻腔をくすぐられた。これもこれで恥ずかしい。
「宵」
「え?」
服の裾を引っ張ってくるのは――アマリリス。小さな手で強く握っている。子供が父親にするように。
「ん?」
「私も何かしたい」
切実に訴えかけてくる。
「ん……ん~?」
何か――と言われても……。
「それじゃ」
「うん」
「甘えてください」
「うん?」
オレの言葉に首を捻るアマリリス。
「アマリリスは甘えるのが仕事です」
「ん~~~子供扱い」
口を尖らせるアマリリス。
おお、可愛い。
「良いんだよ、アマリリス。君は良い子にしてて甘えてくれれば。それが子供の仕事。それに応えるのが年上の仕事。
でも【魂―むすび―】が全部揃ったらその時は新しい式、頼むよ」
「ん~、頼まれた!」
と、敬礼一つ。
「で~も、それは宵にも言えるのよねぇ」
アマリリスの両肩に手を置いてそう言うのは巫。
「わたしは宵より年上だけど、甘えてくれないし」
「や、さすがにこの歳で貴女に甘えるわけには……」
それはきっととても恥ずかしい。
「大体巫は幽化さんに惚れてるって聞いたけど?」
「だっ、誰に⁉」
一気に耳まで朱くする。
「シスターさんに」
「貴女たち!」
「え~?」
「だって~」
「ね~?」
きゃいきゃいと騒ぎ出すシスターたち。
前にもあったなこんな騒ぎ。所謂『女三人寄れば姦しい』と言う奴だ。
って言うか貴女方は主に操を捧げたのではなかったか?
「――で、結局アマリリスはどこに?」
ごまかしたいのだろう、巫は強引に話を戻した。ここ、アメリカ支部はユメたちに襲撃を受けている。二度目がないとは限らない。
「ん~、アマリリスどこにいたい?」
「皆のとこ」
つまりここから動く気はないと。
「どうしましょ?」
「意外と皆に囲まれている方が安心かもだよ? 巫」
オレの言葉にそれもそうかな? と頭を傾げる。
「それじゃシスターだけじゃ不安だから、宵たちもホテルじゃなくてここに泊まってくれる?」
「え⁉」
驚いたのはオレではない。ゼイルだ。
「どした?」
「どしたって宵兄さん……ここ女性の聖地なんだけど」
ドコか顔が朱い。初心だな。
「期待に応える事にはならないと思うけど」
「期待なんてしてませんシスターさん!」
「スケベ」
ジト目を向けて、臣。
「ス――」
ショックを受けるゼイル。
「一応言っとくけど寝室は別だよ坊や?」
「坊やじゃないですよ巫さま! って言うか期待してないってば!」
そんなこんなで時は過ぎ、日は沈んで夜を迎えた。
大会は続く。オレはもう一・二試合勝てばユメと戦うのだ。
ベッドの中でオレはその未来を思い描く。
でも既にうつらうつらとなっていて瞼が今にも閉じそうだ。
【魂―むすび―】を使われたらこちらも使う。それとも先手を打つべきか? いやまずパペットウォーリアとして戦ってみたい。未来がかかっているけれどそんな我儘は許されるだろうか? 是非とも許して戴きたい。
勝つ。絶対に。と重荷を背負っていたらまたど突かれそうだからこう言おう。
楽しむぞ――
と。
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