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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第181話「普通ってとても素晴らしいと思うなぼくは」

おいでませ。

☆――☆


「『シンボルスォード』!」


 氷柱(ツララ)――ぼくのパペット、剣の聖獣シンボルスォードが人類背信プログラム アポスタタエに全身剣の体で体当たりする。しかしアポスタタエの光の体には全く歯が立たない。


「じゃ・ま」


 それどころか腕力一つで地面に叩きつけられてしまう。


「お前じゃわたしの相手にならないよ!」


 アポスタタエの前面に二振りの大剣が出現する。


「おっとぉ!」


 だが炎の翼で砕かれる。


「――あまりやりたくないけど」


 ぼくがそう言うとアポスタタエを貫く形で剣が七振り出現する。頭、首、両肩、胸、両太腿だ。

 膝をつくアポスタタエ。その体を翼が包んで――彼女は甦る。


「わたしは死なないよ。お前の攻撃じゃあな」

銀子(ギンコ)!」

御伽(オトギ)! お前の攻撃でもだ!」


 背後から飛び出てきた銀色の狐をアポスタタエの腕が薙ぎ払う。と同時に銀子は爆発を引き起こし爆風をまき散らす。


「効かない効かない!」


 そこにぼくのエネルギーソードが空間を超えて現れる。アポスタタエの体内から現れるようにしたのだがそこから追い出されて体外で出現し、地面に突き立った。

 銀子は爆弾をばらまき爆発させ視界を塞ぐ。


「氷柱!」

「OK!」


 銀子の作り出した爆弾がぼくの空間転移でアポスタタエの胸に埋まり、爆発して体を砕いた。


「良い加減死ねよ」

「口の悪い奴だな御伽!」

「――!」


 砕けた顔だけで喋るアポスタタエ。その体もまた炎に包まれて甦る。


「氷柱……」

「うん……これはちょっとまずいかもね……」

「ちょっとなんてもんじゃないだろ? わたしが相手じゃお前らは死ぬ。最悪にまずいんだよ」


 左の腕を伸ばすアポスタタエ。


「ペイル・ブルー・ドット」

「「――⁉」」


 並んでいた二人は咄嗟に左右に分かれる。しかしアポスタタエのこの攻撃は少し体をずらせばかわせると言うものではない。それを証明する傷が二人についた。二人の両手の小指が根元から飛んだのだ。


「あぐぅ!」

「い……つぅ……」


 アポスタタエにこう言った力があるのは知っていた。(ヨイ)からメールを受け取っていたからだ。それに応じて神巫(カンナギ)を含めた魔法処女会(ハリストス・ハイマ)のシスターの大半が既にアマリリスを伴って脱出しており、アポスタタエの足止めにぼくと御伽がこのアメリカ支部に残った。

 しかしここまで手も足も出ないとは……。

 ぼくはちらりと後ろを見やる。そこには一緒に残ったシスター数人が横たわっていて。


「どーこ見てんだ」

「――⁉」


 視線を戻した先に――いや目の前にアポスタタエがいた。


「ぐっ⁉」


 アポスタタエの右拳が腹に決まる。


「ただでさえ父さまと母さまに先を行かれたって言うのに余所見とか余裕だな? お前わたしに勝てるとでも思ってる?」

「……ぼくは実力くらいわきまえているつもりだけど」

「ならどくか死ぬかしなよ」

「……どっちも嫌だな。『ウォーリアネーム――【閃き煌めく剣山刀樹】!』」


 嫌だから、戦う。


「ムダな同化――」

「『ウォーリアネーム! 【雪夜(セツヤ)に響く】!』」

「御伽! 増えてもムダだ!」


 真横に両腕を伸ばすアポスタタエ。両手から核レーザーが出て二人を吹き飛ばす。


「? 手応えが――」

「なかっただろうね」

「――⁉」


 アポスタタエの顔を掴むぼくの掌。二人ともぼくの力で空間転移していて、ぼくはアポスタタエの正面、御伽は背後に出現してアポスタタエの後頭部を掌で抑える。


「何やってもムダだって!」


 ぼくの掌から剣が無数に伸びる。彼女の顔を幾つもの欠片に分断し、そこに御伽がジョーカーである『火薬』を流し込む。火薬を流し込まれたものは爆弾と化し、次々と爆散していく。


「顔には――」

「――ないか!」


 (コア)の場所だ。仮想災厄ヴァーチャル・カラミティ(コア)さえ壊せば必ず倒せる。甦りの能力を持っていても例外ではない。


「なら次は上半身だ」


 剣が出現、アポスタタエの上半身を切り刻み、御伽が爆散させていく。

 ここにも(コア)はない。


「最後」


 トドメに残った下半身を切り刻み、爆散。

 体を失った翼がバラッと羽を散らして消えていく。


「良し」

「勝ったな」


 勝利の笑みを交し合う二人。

 だけど。


「ムダだって!」

「「――⁉」」


 声が響いた。アポスタタエの声が。

 炎が猛り、渦を巻き、アポスタタエが再出現する。全くの無傷――否、更に強化された体で。


「わたしは仮想災厄ヴァーチャル・カラミティ! 人類背信プログラム! その背信とはルールへの背信! 仮想災厄ヴァーチャル・カラミティ(コア)で動く! このルールをわたしは持たない! わたしの体に(コア)はない!」

「な……⁉」

「嘘だろ……」


 絶望が広がる。斬っても爆散させても死なない敵。まさに無敵。まさに災厄。


「……どうする聖剣?」

「……さて、どうしたものか……逃げる?」


 ぼく本人すら本音では思っていない提案。御伽も理解しているようで。


「あんたがそんな性格しているならハナから魔法処女会(ハリストス・ハイマ)に協力なんてしていないだろ?」

「まぁね」

「ご相談終わりかなぁ?」


 両腕を腰に当てて首を傾けるアポスタタエ。もう眼も鼻も口もなく、だけどそれでも笑ったと感じた。


「それじゃ、宵の言っていたあれで行くか?」

「そうだね、それしかなさそうだ」

「お?」


 二人はアポスタタエを挟んで展開する。


「ま~だわたしとやる気? どうしようもないってわかっただろう?」

「それでも譲れない道さ」

「立派だなぁ聖なる剣。けど錆びついた剣でどうにかなると思っているなら命貰うからな」


 それには応じず、ぼくは御伽と目を合わせる。『もう一方』には目を向けてはならない。これは賭けだ。


「行くよ御伽!」

「ああ!」

「来なよ!」


 二人は同時に駆けて――


「あ、ごめん来なってお前らじゃない」

「「――⁉」」

「ハウス・ドッグ!」

「何⁉」


 足を止めた二人の元にいつの日にか見たロボット数十体が空から舞い降りた。


「で、これ」


 続いてアポスタタエが取り出したのは――本。やはりいつの日にか見た本だ。御伽がパペットを捕らえる為に使っていた仮想の本。


「おいで、エンゼルハイロゥ」


 その本から兵器にまみれた武装天使が現れる。体長約三メートル。全身は黒に近い紫で、真っ白な翼が際立って美しく見えた。


「こいつはパペットの集合体だ。御伽が集めたパペットも含まれているよ。良い仕事してたらしいねぇ。わたしはあまり知らないけど」

「……っ」


 苦虫を嚙み潰した顔になる御伽。自分のやってきた事を思い出して苦痛に心が染まったのだ。


「さ・て・と。わたし、ハウス・ドッグ、エンゼルハイロゥ。どうするどうする?」

『御伽』

「!」


 御伽へとぼくの心の通信が届く。これはパペットではなくサイバーコンタクト時代からある通話機能の一つである。


『予定通り続けるよ』

『ハウス・ドッグとエンゼルハイロゥは?』

『大丈夫、いま援軍が来た』

「え?」

「なに⁉」


 ハウス・ドッグの立つ下から水が溢れ出た。水は矛の形をしていてハウス・ドッグの悉くを貫く。


「フレンズ」


 溢れる海水。波打つ海面。

 跳ねる海竜――フレンズ。金の装飾をつけたその体はとても綺麗で。

 前野(マエノ) (マユ)のパペットだ。

 溺れ海流に流されるハウス・ドッグ。


「更~に!」


 天空に灰色の街が現れた。

 ルフトマハトゥ――前野 誠司(セイジ)のパペットである。

 街に設えられた砲台が下を向き――


「ファイア!」


 一斉に砲弾が打ち出されてハウス・ドッグを砕いてしまった。


「っちっ! エンゼルハイロゥ! 前野兄妹のパペットを殺せ!」

「ねうねう!」

「――!」


 ライガーの凶暴な牙で、エンゼルハイロゥの首元に嚙みついた。ねうねうはそのまま息を吸い込み――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッオ!


 弟・宵の炎のブレスに良く似た光のブレスを放ちその首を吹き飛ばす。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!』


 エンゼルハイロゥの断末魔。同時に纏っていた武装から銃弾が、ビームが、投擲武器が放たれ出鱈目に周囲の建物や樹木を傷付けていく。だが言った通りそれは断末魔で、攻撃はすぐに止んだ。


「や・く・た・た・ず・だ・な!」


 イラつきを見せるアポスタタエ。


「良いよ良いよ! どいつもこいつもわたしがぶっ潰す!」


 両手に光のメイスを作り出し、まずはぼくを睨む。


「普通は弱い奴からだろうけど! 普通じゃつまんないしな!」

「そうかな? 普通ってとても素晴らしいと思うなぼくは」

「ごめんなお前の意見聞いていない!」


 ぼくへと向かって翼を羽ばたかせる。瞬間アポスタタエの姿が消えて――


「――!」


 メイスがぼくの左肩にめり込んだ。【覇―はたがしら―】と同化によって強化されているはずの動体視力でも全く姿が追えない。けれど。


「ん?」


 ぼくは気丈に意識と体に力を入れてアポスタタエを捕まえた。


「なになになに⁉ 良くある自爆でもしてみる気か⁉ それでも死ぬのはお前だけだよ⁉」

「は……流石に自爆機能はついてないな……シスター!」

「⁉」


 ぼくの叫びに近い声にアポスタタエが目を向けてみれば、倒れこんでいたはずのシスターたちがいないではないか。


「なに?」

「氷柱さん!」


 名を呼ばれぼくはアポスタタエの足を剣で貫いて地面に縫いつけると同時に距離をとった。その頃にはもう五人のシスターがパペットと同化した状態でアポスタタエを囲んでいて。


「「「いきます!」」」

「なっ⁉」


 一人目、一人のシスターが氷でアポスタタエを凍らせ、

 二人目、一人のシスターが破邪の結界でアポスタタエを封じ、

 三人目、一人のシスターがエナジーシールドでアポスタタエを囲み、

 四人目、一人のシスターが空間断絶でアポスタタエを隔離し、

 五人目、一人のシスターが縮小の力でアポスタタエを閉ざした。


「倒せないなら、こうするしかないよね」


 こうして、不死の仮想災厄ヴァーチャル・カラミティアポスタタエは敗北した。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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