第18話『時刻が迫ってまいりました!』
いらっしゃいませ。
「さあよー君。
この夜を超えたらいよいよだよ」
「うん、わかってる」
何が? と聞かれたならこう応えよう。
パペットウォーリア前哨・学校別代表決定戦中学生の部
――だ。
今現在夜八時。
この後しっかり寝て起きるととうとう始まるのだ。
うちは姉妹校と二校で競う事になる。
ここ屋上から見える海上にてスタートするそれを思い描き、思わず唾を呑みこんだ。
緊張はある。
高揚感もある。
不安はあるか? ないとは言えない。
自信はあるか? 驕りにならないレベルで。
肩に乗るアエルをひと撫でする、オレ。
「勝とう、涙月」
「うん」
全ての感情を受け入れて、パートナーと一緒に勝利と未来を手にするのだ。
そうしてやって来る研修旅行最終日。
即ち――
パペットウォーリア前哨・学校別代表決定戦中学生の部。
オレと涙月を含めた生徒の多くは海岸に集まっている。
参加者は海に近い場所に。
見学組はその後ろに。
この後十時よりこの海上にて前哨戦が開始される。
『さあ晴天に恵まれた本日お集りの皆さま!』
そんな海岸に響くのはマイクを通した見知らぬお姉さんの声。
『参加する皆さま!
見学する皆さま!
地元の皆さま!
観光の皆さま!
パペットウォーリア運営本部より派遣されたわたくしが本日の実況を担当させていただきます!
高嶺 凛です!
よろしくお願いしますね!』
参加する学校が日本校だから基本は日本語で。しかし地元の人たちに通じるように英語に同時通訳もされている実況さんの声。
って言うか実況さんが水着になる必要はないと思うのだが……まあ良いか。海岸だし。
『まずは前哨戦フィールドを形成いたします!
ナノマシン散布スタート!』
海上に出ている幾隻かの船。機材を積んだそれらの船からナノマシンが大気中に散布される。霧のように舞う青白い光の粒――これらが全てナノマシンである。
彼ら――ナノマシンはまずフィールドの地盤を作りあげた。
一辺一メートルの六角形。六角形ブロックの集合体にて形成された平らな人工の大地。
海上一メートルに浮くこれが地盤となって、その上に土を模したナノマシンが。
更にその上に背の低い草葉が生い茂り、所々に岩の代わりに水晶柱が置かれ、いくつかの浮遊する島が。
浮遊島からはどうしてか滝のように水が溢れ、大地に河を作り上げている。
『本日の決戦地はここ!
日本の伝説・高天原です!』
その神秘とも言うべき土地を前に、ここに集った皆から歓声と拍手が上がる。
『ただし! この半径二キロメートルの土地は永遠のものではありません!
バトルスタートから十分経つと最外周となるブロックが海へと没し消えてしまいます!
そこから更に十分ごとにブロックは消え続け、最後には全ての大地が消滅します!』
つまり。
『時間制限付きのバトルロイヤル! と言うわけですね!
選手ユーザーの皆さまは他ユーザーに一度敗北したら退場! イコール敗戦!
ブロックの崩壊に巻き込まれ海に没しても退場です!』
即ち。
『最後まで残った二名が前哨戦勝者!
パペットウォーリアへと歩を進められるわけですね!』
何となく、一度だけ隣にいる涙月と拳を合わせる。
『戦い方は皆さまの自由!
チームを組んで戦うも! お一人で戦うも!
ただしパペットでもアイテムでもないただの暴力は反則となり! 反則が重なればこちらの判断でレッドカードを出させていただきます!
多少の格闘はイエローカードですみますがこれはあくまでパペットバトルである事をお忘れなきようお願いします!』
ではまず! と言葉は続き。
『ユーザーの皆さまを高天原の土地へとご案内いたします!』
三十隻近い小型フェリーが海岸近くまで現れ並んで。
『どのフェリーに乗るかはご自由に!
フェリーは高天原のいずこかに接地し、そこから皆さまには高天原に足を着いていただきます!
バトルスタートまでは移動可能ですのでお好きな場所をお選びください!』
フェリーから海岸に小型・簡易的な橋が伸ばされる。
オレたちは一斉に動き出し、橋を歩いてフェリーまで移動。乗り込んだ。
因みに涙月とはここで離れた。違うフェリーに乗ったのだ。オレたち二人はチームではなく一人一人で勝ち上がる道を選択した。
途中で顔を合わせたら正々堂々勝負しようと誓いあって。
『選手ユーザーの皆さま乗り込まれましたね!
ではフェリーを動かします!』
ゆっくりと動き出す、フィールドまでの道先案内。
波飛沫が上がり顔にいくつかかかるが気にならずに。
程なくして高天原外周に辿り着き、もう一度橋が伸ばされた。
『お昇りください!』
一人、また一人と橋を渡り高天原の土地に足を踏み入れる。
うん、こうして見るとかなり不思議な光景。浮遊する島って下から見ると圧されるような迫力があるんだな。
全てナノマシンでできているにもかかわらずそんな雰囲気はまるで感じられない超自然だ。
『十時まで! バトルスタートとなる十時まで残り五分です!
皆さま移動をお願いします! 留まっていらしても構いません!』
フェリーが離れていく。
これで、勝ち残ってここを離れるか、敗けてしまい離れるか。二つに一つ。
『最後に事前情報を一つ!
ハワイにおけるバトルはパペットウォーリアでも行われます!
勝者となりこの地に凱旋するか! 敗者として去るか!
皆さま次第となります!』
勿論凱旋を目指す。きっと誰も彼もがそう思っているだろう。
オレだってそうだ。
その為にまずスタート地点を決めなければならないのだが……。
いっか、動かなくて。
スタートしたら中央に向かって走り出そう。
『さあさあ!
残り一分!』
心臓が早鐘を打っている。
だがどうしてだろう? この緊張が心地良い。
『時刻が迫ってまいりました!
残り三十秒!
ん~~~~~~~~~~~~~~~。
10!
9!
8!
パペットウォーリア前哨!
バトルスタ―――――――――――――――――――――――――――ト!』
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。