第178話「人とAIじゃ必ずAIに天秤は傾く!」
おいでませ。
アポスタタエの指が人差し指にある【COSMOS】に伸びる。
「この!」
青銅の剣を振る。咆哮と牙の力を乗せている状態でだ。なのに。
「――っ」
アポスタタエの首を狙った斬撃は光の体を傷つけられずに止まっていた。
「あらら、わたしが思ってる以上にパワーアップしたっぽいね」
驚愕も程々に、オレはアポスタタエの腹を蹴り反動で二メートル程度の距離をとる。すぐに『闇王』の力で折れた骨を再生した。
「……はぁ……そ、そんなに【COSMOS】が欲しいわけ?」
「体力回復までの時間稼ぎ? ま、良いけどさ。
【COSMOS】ね、わたしが欲しいんじゃないよ? 欲しがってるのは『ダートマス』爺さまさ」
「……ダートマスは【魂―むすび―】システムを持っているはず」
幽化さんの話ではダートマスとユメ、アマリリスが持つシステムだ。
「お前さ、【魂―むすび―】がどう言うものか理解してる?」
「…………」
正直全てを知っているとは言い難く。
「【魂―むすび―】はアマリリスを完成させる為のシステムだよ」
「アマリリスを?」
「そう。パランはこれ以上アマリリスを危険にあわせたくなくてシステムを四つに分けた。そいつが集まってしまえばアマリリスは本当に至高で危険なAIになってしまう。
【魂―むすび―】はさ、サイバー空間からあらゆるものを取り出せる。けどね、拡張もできるのさ。それができるのはサイバー空間に標識を付けたアマリリス一体だけだけどね。
そうしてアマリリスはサイバー空間に情報爆発を引き起こし、見た事もない数式を発生させる。それを皆狙っているのさ」
世界を拡張させる数式。
「ところがどっこい。爺さまにも同じ奇跡を起こせる」
「……さっきアマリリスだけって言ったじゃん」
話が違うではないか。と思ったのだが。
「サイバー空間で起こせるのはって言っただろ? 爺さまはこの世界に標識をつけている。この世界でこの世界の為の数式を生み出そうってのさ」
「ちょっと待って。それ何か違いがあるの?」
「あるさ。サイバー空間は人の作った宇宙だ。だから生まれる数式は人の為のもの。だけどこの世界はもうAIのもんだ。AIと言う生命の為の数式が爺さまなら生み出せるわけさ」
AIの為の――数式。
「別に良いだろう? 元々爺さまがこの社会維持してるんだし。巡り巡って人の為にもなるさ」
「オレは――オレは、人とAIは共存できると思っている」
「あっは! 実に常識人な答えだな! でも無理だ! 人とAIじゃ必ずAIに天秤は傾く! 存在のレベルが違うんだよ! だから人間共はアマリリスを利用しようとしている! あの子の力を欲しがっている! お前だって――」
刹波の一撃がアポスタタエの顔を掠った。髪の毛の代わりに頭蓋にある炎が揺れる。
「オレはアマリリスと共存する。それをオレの人生で証明してやる」
「……無理だって言ってんだろ」
声に怒気が篭る。
「やるって言ってんだろ」
「……ふっふっ……わたしに殺されるお前が? わかってる? わたしまだジョーカーも仮想災厄としての能力も使ってないんだけど」
「あんたや大人は笑うかも知れないけど、オレはまだ子供だ。夢見て何が悪い」
「……ほんっと子供だよ。呆れる。怒り通り越して呆れる。
せめて夢見たままで――死にな!」
火柱が上がる。オレたち二人と外界を分ける巨大な火柱。熱気が猛って息を吸う度に喉が焼け付く。汗も急速に出てきて目に落ちてくるそれを手で拭った。一瞬だけだ。一瞬だけ視界が塞がっただけだ。その間にアポスタタエは小さな、雀程度の火の鳥を十羽生み出していてその火雀が姿を消した。
どこに。
「――っつ!」
火雀を追うべきかアポスタタエから視線を外すべからずか迷っているうちに火雀が姿を見せオレの両肩を焼いた。
火柱の中から⁉
火柱に溶け込み移動していた火雀。それらは一度攻撃するとすぐに飛び立ちまた火柱の中へと姿を消す。出鱈目に攻撃しても当たる確率は非常に低いだろう。それなら。
オレは最高潮の剣を手にアポスタタエへと向かう。
「斬波!」
全力だ。全力の斬撃。だったのに――その一撃はやはり狙った首を斬る事叶わず。
「ほうら、いくら叫んでも肝心の実力が伴っていない」
「あぐ!」
光の手で首を絞められる。
「軽くだよ。かる~く握っているだけだ。マシュマロを摘まむ程度に。美味しい美味しいマシュマロをわたしに潰させないでくれ。見た目のキュートさが台なしになってしまう」
冗談ではない。潰れるどころか千切られてしまう。
第一それ以前に――
「――っはっ」
「おっと、ごめんごめん息ができなかったかい」
ほんの少しだけ手の力が緩くなる。その時間を狙ってオレの目がアポスタタエを睨みつける。
大きく息を吸いこみ――
「がぁ!」
「な⁉」
オレの口から出た咆哮の炎がアポスタタエの口内へと侵入した。手以外から出すのは不慣れだがうまくいった。
「く……が――!」
効いている。表面は頑丈でも内側はどうしようもないんだ。
首から手が離れオレはすぐに剣で斬ると突くとを何度も首に向けて放つが一つも効かない。このままでは駄目だ。既存の技は効かない。
「黒鱗八叫!」
剣の刀身の上に、黒鱗の力を上乗せ。
「咬牙――星章! 桜蛇!」
その上に牙の威力を乗せ、星章を乗せ、更に咆哮桜蛇の威力を上乗せ。
「皇波!」
その剣で以てアポスタタエの口を突いた。
「――はっ……」
貫かれたアポスタタエの喉。先程まで内側を焼かれた衝撃で体を抱きしめていた腕がだらんと頼りなく垂れ、次いで全身から力が抜けて剣を握るオレの力に支えられるだけになった。
「……はぁ」
オレの体からも力が抜ける。腕が落ちてアポスタタエが落ちた。
同時にオレも地面に尻餅をついた。でもこれで終わ――
「――⁉」
アポスタタエの背に翼が生えた。
「くそ……!」
オレは立ち上がろうと手をついたがその時火雀が飛んできてオレの両手を貫いた。
あぐ……っ!
穴こそ開いていないが皮膚だけでなく内側の肉までも焼かれた。
その間にアポスタタエが炎に包まれる。
オレは急ぎジョーカーを発動させようとするがアポスタタエから伸びてきた光の鎖に全身を絡め捕られて集中を乱された。鎖から強力な熱が放たれていたからだ。
「……ふぅ」
悠然と立ち上がる、アポスタタエ。光の体が少し変化している。
「内臓狙いとか口内狙いとか、なかなか攻撃的じゃないか」
嬉しそうに口角を持ち上げる。
「でもおかしいなぁ、お前の言うAIの内にわたしはいないのかなぁ?」
「……はぁ……」
どうだろう? 例えば人間皆友達と願っていてもそこに凶悪な殺人犯が混ざっていたらそいつと友達関係を願うだろうか? ……や、無理だな。
「……まずビンタ。で、手を握り合うまで殴り合い」
「あははははははお前なかなか男臭いじゃないか! 良いよそう言うのステゴロ大歓迎だ! だから!」
「だっ!」
顔面をぶん殴られた。一発で鼻が折れたのがわかる。しかも次も次も顔面に拳を当てられる。
この……こっちは鎖で縛られているって言うのに。
「頑丈だな! 割と力込めてんだけど!」
それはそうだろう。咄嗟に黒鱗八叫の力を全身に流したのだから。
「ならこうだ! ジョーカー!」
「――!」
アポスタタエの手に、バスケットボール程の水色の球体が顕現する。
「ブルー・レコード」
「――?」
球体をオレの体に当てると、それが何の抵抗もなく吸い込まれていった。
「何を――」
した? そう問おうとしたのだがそれはできなかった。なにせ地球の歴史が全てオレの頭の中に流れ込んできたからだ。
「――!」
圧倒的な情報量。【覇―はたがしら―】の機能で全身CPUを得ているとは言え処理しきれない。
「あ、ごめん。これステゴロじゃなかった」
ぺろっと出されるのは、舌。
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