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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第174話「ワタシは絶対恋した相手を振り向かせるわ」

おいでませ。

☆――☆


『お報せがあります!』


 勝ち残っているウォーリアとチケットを持つ人たち全員にこのメッセージが届けられたのはパペットウォーリア高校生の部午後の試合開始一時間前の十二時だった。

 内容はこう続く。


『大会運営よりバトル形式の変更をお伝えします!

 辞退選手多数の為トーナメントは中止となります! 代わりのバトル形式は残っている高校生ウォーリア全員によるバトルロイヤルとなりました!

 参加選手は八名! 開始時刻は午後二時!

 ご迷惑をおかけしますが以上の通りにお願いいたします!

 繰り返します――』






「はぁ……」


 オレの泊まっているホテルのエントランスでソファに腰掛けた――いやしなだれている――ララは退屈そうにため息を吐いた。豪奢なシャンデリアが天井付近で煌々と輝いていて壁には月の油彩画が飾られている。

 その真下にある赤いソファでララことレア・キーピングタッチと言うプリンセスが物思いに耽っているのだ。自国・自国民の今と未来を思って、であるならばなんと立派な姫だろうと賞賛されるところだが。


「辞退するんじゃなかった……」


 考えているのはパペットウォーリア辞退について。

 オレはホテルの向かい側にあるショップをちらりと見る。涙月(ルツキ)たちがカーマインとの戦いで傷付いたナノマシン衣料の予備を買う為にそこで物色中だ。直ってはいるのだが奢ると言ったおバカさんがいたからである。オレも行こうかと思ったのだがララが残ると言ったので護衛に誰かが残ろうと――プリンセスなので。一応――ジャンケンをしたのだが、見事に負けてこの通り。因みに本物のボディーガードさんがいるにはいるのだけど話を聞くにララの方が強いみたいだ。良いんだろうかそれ……。


「納得して辞退したんじゃなかったっけ?」

「そうだけどぉ」


 オレの言葉にララは背もたれにかけていた顎をずるずると下げてソファに横になった。


「脚見えてるよ、結構際どいとこまで」

「あら? ワタシの脚に興味あるの?」


 悪戯っぽく笑む。


「じゃなくてもう少しでご自慢のレースが見えるよって話」

「――っ!」


 慌てて短いスカートを抑えて姿勢を正す。ララの頬が少し朱くなった。そしてオレを睨んでくるではないか。


「オレに罪はないはずですが?」

「~~良い加減忘れなさい」

「………」

「な、なに?」


 オレがジト目で見ているとララは目を丸くしながらもじもじと指を合わせ始めた。オレは言おうかどうか少し迷い、口にした。極めて小さな声量で。


「……そう簡単に忘れられる程見慣れてないし……嫌いじゃないし……」

「え? なんて?」


 聞こえているはずだ。だってますます顔が朱くなっているしソワソワしだしたし。


「…………」

「…………」


 不本意な沈黙。合わせる目をお互いに持たない。気まずい。言うんじゃなかった。


「……(ヨイ)

「……ん」

「あんた、涙月とはどこまでイってんの?」

「はぁ⁉」


 思わず大声が漏れた。

 エントランスにいるスタッフや宿泊客がザワつきこちらを見て止まっている。

 オレたちは萎縮しつつ皆の目が離れるのを待った。


「な、なんでそんな?」

「じゅ、重大事項よ。国政に関わるの。答えなさい」


 そんなバカな。


「な、なに国政って」

「こ、答えなさい」

「…………………キスまでですが」

「ふ、ふ~ん」


 目を意地悪そうに細めて唇を尖らせるララ。鼻が朱い。

 なに聞いてるんだこの人は……。

 オレはララに負けない程度の意地悪そうな表情で、


「んじゃ、ララは誰とどこまでイったのさ?」


と聞いてやった。


「…………」


 あれ?

 どうも思っていた反応と違う。てっきり「な、何言ってんのよこのスケベ!」とか言う展開になるだろうと思ったのだが、予想外にララの表情が真面目になった。姿勢すら正している。上品、そう上品と言って良いだろう。


「ワタシは絶対恋した相手を振り向かせるわ」

「……はぁ」

「普通の恋人同士になるのは難しいだろうけれど、カメラに追われながらドライブして、薄いピンクのウェディングドレスを着て、一緒に料理して、そうね、子供は双子が産めれば良いわね。一人だと淋しいだろうから。

 頬にキスしてくれる子に育てて、将来送り出して、二人で隠居して。そうね、川の傍が良いわ。水の音って好きなの」


 ……何を言い出しているんだろう?

 オレは突然始まった明るい家族計画に戸惑いを隠せず、しかしそれでも目をそらせずにララを見つめ続ける。


「…………」


 ララは口を閉ざすと静かに立ち上がり、正面に座っていたオレの前に来た。


「?」

「貴方、ワタシに惚れなさいな」

「は?」


 ――と、口が塞がれた。ララの口によって。

 ほんの少し触れ合う程度の全然力の篭っていないキス。ララはすぐに口を離すと、


「これで同列ね」


と言って悪戯の成功した子供っぽくウィンクするのだ。






『っと! 言うわけで! バトルロイヤルです! 参加者は一名が新たに辞退し七名となってしまいましたがどっこいバトルは予定通りスタートしちゃいますよ!』


 実況アナのお姉さんは一人ではないのだが、その誰もが超元気。色々あったのにめげてない暗くなってない逃げ出さない。アナウンサーの鑑だ。


『ユメ選手!

 ナーム選手!

 ヒリムレイム選手!

 スヘフェニンゲン選手!

 アッカム選手!

 チ選手!

 ペマ選手!

 フィールドにお集まりのウォーリアの皆さま! バトルを観にいらっしゃったギャラリーの皆さま! 開始まで時間がありません! バトルフィールドを選定しちゃいます!』


 ルーレットが表示され、針がくるくると回り始めて――止まる。


『決定! ブラックホールフィールド!

 ナノマシンを収斂します!』


 今や世界中に撒かれているナノマシンが一点に凝縮し、形を成していく。

 黒いカーテンがかかり、フィールド全域に及ぶほど巨大なブラックホールが底面に造られる。

 オレたちギャラリーとフィールドの間にはエナジーシールドと言う壁があり、更にバトルフィールドと選手やスタッフが待機するフィールド外円の間にもエナジーシールドがある、だからブラックホールの重力は届かないが、


「――っ」


頭上――遥か頭上に再現された雲が吸い込まれていく。

 まともに戦えるのだろうかこれは?


『では全選手フィールドへ!』


 その合図で七人は登壇用に開いた入口からバトルフィールドへと進入する。

 一人は浮き、一人は球形のバリアに包まれ、一人は何もしない。皆思い思いの形で重力の渦を避けている。


『バトルスタートまで

 10

 9

 8



 3

 2

 1

 0! バトルスタート!』


 七人の内六人の視線が――ユメに向いた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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