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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第172話「それじゃ、ここは責任もってどうにかしようか」

おいでませ。

 声のした方に振り向いてみれば、大会運営用のスーツを着た大人たちが既に周りを囲んでいた。しかしスーツはボロボロになっていて血も所々から流れている。


「君たちは離れて。我々がこの先は引き受けます」


 それぞれがパペットを顕現して、同化する。その隙にコリスたちはカーマインから離れてオレたちと合流。

 一方でカーマインからの心音とそれに呼応する光は強くなり続けている。

 これは――


「一斉に打つ!」


 運営委員は思い思いの武器を手に、リーダーと思しき男性の合図で同時攻撃に移った。一撃・二撃と打撃・射撃が当たり――カーマインを包んでいたサソリの体と光が暴走した。

 なんだ⁉

 サソリだった物が光と混ざり合い、溶け合い、カーマインを包んでいく。


「があああああああああああああああああ!」


 カーマインが吠えた。それはもう人の叫びではなく獣の叫び。

 そうか、捕食の限界。吸収できる情報量が彼の許容を超えたんだ。


「子供たちを守れ!」


 オレたちの前に陣取る運営委員。


「ぐぁああ!」


 その大人の首筋にカーマインが噛み付いた。同化していたパペットが口に吸い込まれ、ぶちぶちぶちと嫌な音が鳴って肉が喰い千切られる。


「な」


 驚いている暇などなく、カーマインはすぐ傍にいた別の運営委員の腹に喰いつき、パペットを吸収して肉を喰う。


「咆哮!」


 炎がカーマインの上体を仰け反らせ――るも、表面を焼いただけで大ダメージとはいかなかった。

 まずいなこれ。


「コリス! 鯨に乗せられるだけ乗せて上に!」

「あい!」

「……ウォーリアネーム……」

「――!」


 獣と化したカーマインの口から涎と共に溢れた言葉。


「【がなりしゃくり獣は往く】」


 カーマインの姿が更に異形へと変貌する。

 オレたちは鯨に乗って空の上へ。


「やはりユメの――」


 え?

 一緒に鯨に乗せられた肉を千切られた運営委員が言葉を漏らした。


「あの、ユメがなんて?」

「ユメに敗れた時……カーマインが何か埋め込まれたんだ……」

「――!」


 この暴走はユメによって意図的に起こされたものか?


「うんにゃ違う違う。これはウルトレスのしわざだねぇ」

「え? うわぁ⁉」


 いつの間にかオレの背後にちょこんと座り込んでいたのは――


「インフィデレス⁉ 君いつの間に⁉」

「今の間に」


 せめて気配くらい放とうよ。


「インフィデレス――だと? 人類銀貨プログラム⁉」


 流石に名前を知っていた運営委員。血相を変えて武器を手に取る。


「あ、あ。この子は大丈夫です。今のとこ」

「うん自分大丈夫。今のとこ」


 ……オレが今のとこと言うのはともかく、本人に今のとこ言われると将来が凄く心配である。


「しかし――」

「それより現状どうにかするのが先決じゃないの? これ父さまじゃないよ」


 下で暴れ続けている獣を指さす。


「ウルトレス――だっけ?」

「うん。ウルトレス・スケロルム、人類無法プログラム。

 確かに人を操る時種を植えるから、それを父さまが持ってたってだけだね。ウルトレス本人は別のところでせっせと種蒔きしてるだろうね」

「な――」


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


「「「――!」」」


 インフィデレスの言葉、それを証明する爆発が同時に街の様々なところで上がった。


「……あの、一つ聞いても良いですか?」


 オレは運営委員に向き直る。

 吟子(ギンコ)の治療で出血を抑えられた二人は荒れる呼吸を繰り返してオレとインフィデレスを交互に見る。


「どうぞ」

「大会は続行されていますか? 高校生の部」

「今は停止中――にしたかったが続行しているよ。スポンサーの綺羅星(キラボシ)とエレクロトンの声でね」


 やっぱりか。


「……そうですか。ララ」

「ええ」


 ララのバトルはもうすぐだ。大会が続いているならそろそろ行かなければならない。


「こっちにいるわ」


 だが、ララは即断した。


「他国とは言え王室として市民を見捨てるわけにはいかないわ」


 それにゾーイも首肯し同意を示す。


「正直ユメに敵う気しないし」


 そっちが本音か。


「よー君後ろ!」

「え? うぁ⁉」


 後ろから飛来してきた黒い物体がオレたちを追い抜き爆発地点へと散っていく。

 あれは――


「失礼。ここは任せてもよろしいか?」


 一人残ったその人の機械で処理された声。真っ黒な専用スーツ。アンチウィルスプログラム。


「もう一度問う。速やかに答えを。

 任せてもよろしいか?」

「良い!」


 遅れたら何をされるかわからないと、オレは慌てて声を出した。


「では」


 それだけ言うと男――女か?――は別の場所へと飛び去っていく。

 ……前の恨みで攻撃されるかと思った……。しかし良く考えれば彼らに心情的な復讐はないだろう。向こうはプロなのだから。

 オレは息を思いっきり吐いて、吸う。

 アンチウィルスプログラムが動いた。

 魔法処女会(ハリストス・ハイマ)も動いている。

 ならば。


「それじゃ、ここは責任もってどうにかしようか」

「「「おうよ!」」」






「がぁぁぁぁぁぁああああああ!」


 哭くカーマインの周りを無数の光の蝶が舞う。運営委員の一人のパペットだ。蝶は幻惑の鱗粉を撒き終えると集合してサメに変化した。カーマインは見当違いの場所で角に似た突起物が生えた腕を振っている。鱗粉に幻惑されて架空の敵を殴っているのだろう。その隙にサメはカーマインの喉元に噛み付き、しかし硬質化した皮膚に牙の方が負けてぼろぼろと崩れた。ならばとサメはT-レックスに変化してより強力になった牙で二度噛み付く。


「あああああ!」


 今度は僅かばかり皮膚に喰い込み、それが原因でカーマインに居場所を突き止められてしまい顎を強烈に殴られる。

 T-レックスの背後から大小様々なボールが飛び跳ねながら出てきてぐにゃりと姿を解くと全身から針を出した。針の大半はカーマインの皮膚で折れてしまうが彼の周りを覆って期せずして動きを封じる。


「君たち今だ!」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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