第171話「遅れて到着主人公!」
おいでませ。
「ふと思ったんだけどさ」
「なんだいよー君?」
カーマインの凶行。その連絡が入ってオレたちは街に散開した。
連絡内容によるとカーマインは会場にいたギャラリーと選手からパペットを『喰らい』、ユメに挑むも敗走したらしい。その途上で彼は尚もパペットを『喰らい』続け、敗走はいつの間にか凶行と呼ばれるに至ったらしい。
そんなカーマインを追う道すがら、オレには思い至った事がある。
「【紬―つむぎ―】、さっき全部パランが食べちゃったけど他の所有者はOKしたのかな?」
「……………………よー君、人間考えない方が良い事ってあるんだよ」
「……そうだね」
ひょっとしたらカーマインは【紬―つむぎ―】を失っていきり立ったのかも知れないが。
「しっかしパペットを『喰った』ってどう言う意味だろうね? いつかよー君とウォーリアドームで幽化さんを見つけた時パペットを吸収してたけどあんな感じかな?」
幽化さんのパペット・レヴナントのジョーカー。吸収強化、または進化。
それと似た技が?
「――とすると彼の目的は……より強力になったパペットでユメとの再戦――かな?」
「仮にそうだとしても強制的にパペットを食べちゃうのは感心しないなあ。世の中には通すべき筋道ってものがありんす」
「うん、そう――」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「「――⁉」」
会話途中で聞こえた悲鳴。幼い女の子の声だ。
「まさか――」
「こっちだよ!」
涙月がいち早く駆け出して、悲鳴の元へと向かう。そう遠くないはずだ。せいぜい百メートル圏内。
「あ!」
角を曲がった時にアトミックのドレッドノートが見えた。街の上へと持ち上がったのだ。ただ姿が半ばで曲がっていたけれど。
「くんにゃりイってるし!」
「何かの衝撃を受けたんだ。ぶつけたなら良いけど攻撃の可能性の方が――」
ドレッドノートの姿が消えた。一瞬見えた閃光は同化の輝き。
間違いなく何か――十中八九カーマインと戦っている。
「涙月! 同化していこう!」
「あいよ!」
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
「『ウォーリアネーム! 【騎士はここに初冠して】!』」
オレたちは緑地公園を横切って目的の場所に辿り着き、目にしたものは――異形。
異形と言う表現が一番合うはずだ。パペットでもなく人間でもなく、そこにいたそれは硬質の皮膚と辛うじて人型を保ったサソリの化物だった。
そのハサミの一つに成人した男性を捕まえている。
「宵! 涙月! バックステップ!」
「「――!」」
サソリ人間と対峙していたアトミックが声を張り上げる。彼の腕には小さな女の子が抱えられていた。捕まっている男性の子供だろうと思われたがそれを気にかけるより先にオレたちは言われた通りに後ろに跳んだ。【覇―はたがしら―】で強化されている上に咄嗟の判断だったから力の制御を誤って十メートルほど跳んでしまったがそれが良かった。『そいつ』が余りにもな速度で土中から突き出てきたから紙一重で避けていたらあっさりと追撃されていただろう。
「おっき!」
「サソリの毒針の尾!」
人の姿ほど太くあるそれは赤黒く、先端の毒針からは透明な液体がぽたぽたと流れ落ちている。液体の垂れてきたアスファルトが蒸発して穴を開ける。
「アトミック」
「カーマインのパペットのジョーカーだ。奴のパペットは体内の寄生虫。そいつがカーマインの喰ったパペットを吸収してカーマイン本人を化物に変質させる」
アトミックは左腕だけで女の子を抱えていて、右腕がだらんとぶら下がっていた。
「まさか」
「毒にやられた。回復はこの場じゃ無理だと思う」
吟子――吟子をパペットに持つゾーイも悲鳴を聞いたはずだ。彼女がいれば治せる可能性はある。
ならそれまでは。
「アトミック下がって!」
「悪い!」
青銅の剣でカーマインに斬りかかる。しかしカーマインは退くアトミックを追撃する道を選んだ。剣は空を斬り、オレは強く地面を踏みつけて強引に方向転換。カーマインを追う。そんなオレよりも速く、
「『一刺し必中』!」
涙月の西洋剣のようなランスがカーマインの横っ腹に刺さった。
「うっりゃー!」
「っっっっ!」
しかしカーマインは横に数十センチほど押されたものの何とか踏ん張り、刺されたランスを鋏で挟み千切ろうとしてくる。
「さ・せ・る・かー!」
涙月の体を金属質な魔法陣が包む。それによって涙月は更に押し出されカーマインと共に傍に建つビルに衝突した。ガラスが砕け散乱する。
「どっせい!」
おお?
涙月は自分よりも大きな体躯を持つカーマインをランスで刺したまま持ち上げて――頭から地面に叩きつける。
豪胆な。
「よー君! アトミック!」
「咆哮!」
オレの咆哮と、アトミックのレーザーがカーマインを襲い、ゴロゴロと道路を転がった。
「あっぶな」
オレたちの攻撃が涙月の服の端をかすったらしく千切れていたがまあお愛嬌。体に傷がつかなくて良かった。
「う~、電衣が~」
「ごめん後で買ってあげるから」
「おお、言質はとったぜ?」
……しまった、よくよく考えればナノマシン衣料には自己増殖(回復)機能があるんだった。
「あら? 終わったの?」
と、別の道からララとゾーイが合流する。
「ゾーイ、あの人を看てあげて」
オレはカーマインの鋏から落ちた男性を指差しゾーイに合図する。ゾーイはクールに片腕を上げてすぐに男性に駆け寄った。同時にアトミックが離した女の子も。
「手錠でもかけとこうかしら」
ポーチから拘束用の手錠を取り出すララ。
「……ちょっと何引いてんのよ宵?」
「いや……そう言う趣味があったとは……」
「違うに決まってんでしょ! 護身に必要なもの一式持たされてるの!」
頬を朱くして猛抗議。
「ああ、うん」
そうですか。んじゃそれで。
「納得してないでしょ!」
ドクン!
「「「――!」」」
空気を伝って聞こえてきた心音。誰から、などと問う必要もない。怪しい光を放つカーマインからだ。
「ララ、こっちに。アトミック手伝って。この人を移動させる」
「ああ」
ゾーイに手招きされるララとアトミック。二人は男性と女の子を抱えると緑地公園の中にあるベンチに男性を横たえる。
オレと涙月はカーマインの様子を見続け――上からひゅるるるると落ちてきた『至宝の果実』に踏みつけられたカーマインを見て口を開けた。
「うわっ、やりすぎた?」
「お嬢さまはこれだから」
「ぼっちゃまのあんたに言われたくないっての!」
『至宝の果実』の枝にしがみついていた臣とゼイルが早速口喧嘩。勿論そんな場合ではない。
「二人共カーマインから離れ――」
どべし! 更に上から落ちてきた鯨が『至宝の果実』ごとカーマインを押し潰した。
コリスだ。
「遅れて到着主人公!」
呑気に鯨の上でピースサインするコリス。勿論そんな場合ではないのだ。
「三人共離れるんだ! カーマインがそんな簡単にやられるならここまで騒動は大きくなってない!」
「その通り」
「「「――⁉」」」
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