第17話「ありがとなー。先生絶対幸せになるからなー」
いらっしゃいませ。
「あ」
しばらく歩き続け、モールに着いたオレたちは、オレはとあるショップの前で脚を止める。
「ここ寄って良いかな?」
「良いよ。
ってかなに屋さんこれ?」
「レコードショップ」
「レコ……なんだっけ」
やっぱり知らないか。絶滅危惧種だからしようがない。
「えっと、今音楽はネットで聴くのが主流でしょ?
その前にはCDって言う円盤みたいなのから読み取って音楽を聴いてて、レコードはその源流みたいなもの。
大きい円盤で黒くて、彫られている溝を針でなぞって音を出すって言う」
「よー君そう言うのに興味あったっけ?」
「いや、お父さんへのお土産。
こないだレコードプレーヤー買ってたから」
「そっか。
私も見てみたいな。入ろ」
「うん」
自動ドアを並んで抜けて、ショップにイン。
小さなショップで、お客さんはオレたちを除き五人。店員さんは一人。お? 古いレジが置いてある。昨今はバイオメトリクス認証での支払いがメインで現金はサブであるのを考えると珍しい。売っているものの時代に合わせたんだろうか?
「何か、薄いんだねレコード」
他のお客さんの迷惑にならないよう小声で、涙月。
その手には壁に掛けられていたLPレコードが一枚。ジャケットから半分だけ姿を見せていた。
「うん。うちで初めて触った時割れるんじゃないかってヒヤヒヤした」
割れずとも傷一つつけたら音楽に影響が出てしまうから、扱い方は慎重に丁寧にが基本だ。
「あ、レコード表面は触らないようにね」
「ん」
ソッとジャケットの中にレコードを戻しながら。
さて、どれを買えばお父さんは喜んでくれるかな? お父さんはロック好きのオレとは違ってクラシックが、それも壮大な感じのが好きだからそれ系で行くか、あえて新しい分野を聴いてもらうか。
ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。良し。
お父さん好みのを一枚、1990年代のポップスを一枚買って帰ろう。
購入するものが決まり、涙月の方を見てみると色とりどりのジャケットの方に目を奪われていた。こう言うタイプも珍しくないとお父さんに聞いた覚えがある。アートとして楽しむ人がいるのだとか。涙月もそのタイプだったか。
なら、彼女が楽しんでいる間にオレはレコードを選んでおくとするか。
「えっと」
すでにお父さんが持っているものとはかぶらないように。記憶の中にある父所有のレコードジャケットを頭に思い浮かべる。
一枚、二枚と手に取ってきちんと確かめる。ちゃんと中身であるレコードの方も。
……良し、この二枚にしよう。
一度涙月の方を見て、まだ目を輝かせていたから一人でレジへ。
現金払いオンリーだったが思いのほか安かったので一安心。
支払いを終えて振り返ってみると後ろに涙月が並んでいてちょっとびっくり。
「買うの? プレーヤーは?」
手に一枚レコードを持っているけれど。
「オブジェとして部屋に飾ったらかっこいいかと思いまして」
「ああ、成程」
そう言う楽しみ方もあるか。
では、と涙月にレジを譲って彼女の支払いが終わるとショップを出た。
てくてくとモール内を歩き次に目を止めたのは。
「よー君、ここ見て良いかな」
アロハシャツを売っているアパレルショップだ。
「良いよ」
勿論である。
「やっぱハワイと言ったらこれだよねえ」
と、吸い込まれるようにショップの中へ。
「知ってるよー君? アロハシャツの起源」
「起源? ハワイの文化じゃないの?」
「違うんだよこれが。
何と日本の和服が起源です」
「え、そうなの?」
ずいぶん違う気がするのだけれど。
「日本人がハワイに渡ってさ、着物を仕立て直してシャツにしたのがこれ。
日系人経営のムサシヤから最初のアロハシャツが出たんだってさ」
「へえ、意外な繋がり」
日本とハワイって本当に強い縁があるんだなあ。
「と、言うわけでこのド派手なのを家族に買って帰ろうと思います」
ピンク・真っ黄色・真っ赤・真っ青。計四着。
……四着? ご両親と弟君と――
「涙月自身の分?」
「そ。家族で着てみようかと」
カラフルな一家が爆誕しそうだ。高良一家は皆元気いっぱいだから似合いそうだけど。
「買ってくるね」
「うん」
アロハシャツの購入を終えて、次に目と脚を止めたのは。
店外にいても甘い匂いがしてくるお菓子ショップです。
「クッキーに」
「チョコレート」
「キャンディーに」
「グミ」
それぞれが安いものだからたっぷり買ってしまった。一人バケツ一杯分くらい。
買ったなー。
「どれもおいしそうなのがいけないんです」
と、ほくほく顔で涙月。
「帰るまで我慢できそうにないからもうちょっと、今日食べる分を買おうと思います」
「あ、オレも」
太らないか心配になるところではあるけれど、その分動けばいっか。……こうして人って太ましくなっていくんだろうな……。
ではでは続いて、宝石ショップ。
とは言っても高いものではなくパワーストーンがメイン。
うちのお母さんがこの手のものが好きだからいくつか買って帰ろうかと。
ブレスレットかペンダント、が良いだろうな。
……せっかくだ。二つ買ってしまおう。
健康運のブレスレットと仕事運のペンダント二つを。
「私も買おうっと。
自分の分と、お母さんの分」
「どんな運目当て?」
「恋愛です」
「……涙月はともかく、お母さんの分も?」
「お父さんともっとラブラブになってくれれば弟妹増えるかなって」
元気っこがもう一人増えちゃうのか。賑やかさが倍増しそう。
それでは、それぞれ購入して次に。
オレは後お姉ちゃんと妹ちーちゃんの分だな。
お姉ちゃんには――サングラスだ。
ファッション性が高くて普段使いもできる、ずれにくいもの。
最近スポーツが好きな――観るのもプレイするのも――お姉ちゃんだからスポーツやアウトドアアクティビティーに最適なサングラス。
一つではなんだから二つ買っておこう。
ちーちゃんには――ポップでかわいいバッグを。
好きなおもちゃを持ち歩きたがる子であるからして。
彼女の好みに合うのは当然、お友だちに自慢できそうなものを。
「それじゃ私はお父さんに買おうかな。
お父さんボロボロなのずっと使ってるんだよねえ」
話を聞くに、デザインを気に入っているみたいで皮が剥げているにもかかわらず棄てるに棄てられないらしい。
「娘の私が選んだものなら大切にしてくれそうだし」
あとは弟に~、とモールを歩きながら。
「よっしゃ、ペアのマグカップにしよう」
「ペア?」
「そうそう。弟、好きな子ができたみたいでさあ」
おやまあ。
「その子にもあげられるように。背中を押してあげようかと」
「良い姉さんだ」
「もっと褒めて良いんだぜ」
「ふふ。
ってあれ?」
涙月の持っている荷物を見て、ふと疑問。
「パワーストーン屋さんで買ったの、一個多くない?」
三つ袋があるようだけど?
「これはねえ、ずっちー先生の分」
「先生の?」
「神社には行けそうにないからさ、恋愛運の上昇をプレゼントしようかと」
「成程、その手があったか」
でも生徒に貰って喜んでくれるのだろうか?
余計なお世話だこりゃー! とか言われたり……。
「渡してみたらわかるよ。
いらない言われたら自分で使うさ」
「そ」
では、お土産も買ったし、そろそろ良い時間だし――午後三時――ホテルに帰るとしましょうか。
「お前らああああああああ」
「「いやびっくり」」
ホテルに戻り、ずっちー先生を捕まえて早速パワーストーンで作られたブレスレットをプレゼントする涙月。
するとなんと、ずっちー先生大・号・泣。そして涙月に加えてオレの肩まで抱くのだ。
「ありがとなー。先生絶対幸せになるからなー」
ほんと、良い人なんだから誰か魅力に気づいてあげてください。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。