第163話『バトルエ―――――――――――――――――――ンド!』
おいでませ。
「く――」
つまりアエルのジョーカーをレオンのジョーカーが上回ったのだ。ただの相性の問題か、それともパペットと繋がるユーザーの精神状態の差か。
……負けない……アエルの力をオレは信じている!
「アエル!」
だから、アエルもオレを信じてくれ!
「――! させない!」
再び動き始めたオレの足を見てレオンはすぐに体を動かした。鍵を幾つも取り出してオレの体に向けて放ってくる。
全部は避けられない。でも避けられるだけはちゃんと避け――
「――⁉」
鍵が鍵に当たって向かってくる方向が読みづらくなる。銃撃には跳弾と言う技術があるがそれに似ている。鍵は跳ねて跳ねて、その総数の四分の三程がオレの体に触れる。
「――!」
体中の関節が機能を封じられて倒れこむ。
「勝たせてもらうよ!
『ウォーリアネーム! 【正しき鍵は真実を解き放つ】!』」
光の翼があるもののレオンの見た目は大きな変化なし。テレズマロットが消えて無数の鍵がレオンの体に巻きついただけだ。
「そうやって皆油断してくれるんだよね!」
油断? むしろ警戒する。同化でステータスが増すのは自分自身良くわかっている。
「人の警戒ってまず前に向くんだよ! それが油断に直結するとも知らずにね!」
背の上で気配がした。けれど体中が封じられているせいで身動きがとれない。
そこに。
「――⁉」
超重力が襲ってきた。
なんだ? レオンの能力にこんなのあったか?
「ありがとう」
『いいえいいえ』
レオンの礼に応えるおじさんの声。テレズマロットの声――かな?
しかしその予想は外れていて、オレは心の目を瞠った。重力のかかった背の上に顔が現れたからだ。
「へぇ、気配だけでそこまでわかるんだ?」
『違うね、この子は星章で視ているんだよ』
「セイショウ?」
顔と会話するレオン。この顔、独立した意識があるのか。
『レオンにはないよ』
「それなら欲しいな」
『無理無理』
「お前誰の力で意識与えられたと思ってるの?」
否定されてちょっと声に怒気をはらむ。
『ご機嫌をとって「できる」と言うのに何か意味が?』
「……ふん」
唇を尖らせるレオン。
『誰の力』と言った。つまりはこれが同化したレオンの能力に他ならない。いや、それ以外に何があると言われると言葉を失うが。
「そうそう、これはレオンの能力。進化した鍵はあらゆる物体に意識を持たせ、逆に意識を閉じる事もできるんだ」
神さまじゃあるまいし。
「今みたいに重力に意識を持たせたりもできるし」
鍵の一つが閃いた。
「土に意識を持たせたりもできる」
「――!」
月の表面に巨大な顔が現れてグパッと口を開けた。
オレの体を丸呑みにして、口は閉ざされる。
――? どこだ?
体が浮遊する感覚。例えるなら水の中に放り込まれた時に似ている。体を得体の知れないものが包んでいて呼吸すらままならない。
出なければ――負けてしまう。
「負けるだけで済むと良いねぇ」
「――?」
レオンの声だ。囁かれた声が届いてきた。
「下手すると死んじゃうよ? まあ今までの連中もそうだったんだけど」
今まで?
「レオンとバトった連中、皆病院に宿泊中なんだよね」
「!」
「宵もイカせてあげるよ」
この子! 可愛い態度とっているけどかなり根性ヤバイ系!
「――――――――――――っ!」
「ん?」
オレは動かない全身に力を込めて歯を食いしばる。動くイメージ、動かす気力。
動け体! この子は野放しにしたら危険だ!
「アッ――――――エ――――――――ル!」
『――――――宵!』
アエルの声が届いた。空間にヒビが入って光が差し込んでくる。
口を開け。言葉に出せ。
「『ウォーリアネーム! 【小さな蛇は夢を見る】!』」
「うそー」
「アアアアアア!」
全身を縛るジョーカーに抵抗する体からびきびきと何かを割る音がする。
「さっせないし!」
鍵の力も強くなる。けれどオレの体が静かに灯っていき――
「なん――だよそれ⁉」
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「!」
空間が完全に砕けて月面に放り出されるオレの体。
「いたっ」
勢い余って転がって小さな岩に背を打ち付けてしまった。
戻った?
痛みをこらえてオレは体を起こし取り戻した視力でレオンを探す。しかし見当たらない。気配もなし。
そうか。今までオレを閉じ込めていたのと同じく何かの口の中に隠れたのか。
「喰え!」
「――⁉」
声だけのレオン。それを聞き届けたオレの背に当たっていた岩に顔が浮かび上がって牙の生えた口を大きく開けた。
「させるか!」
『ふごぅ⁉』
オレはその口の中にあえて腕を突っ込んで喉の奥を殴打。素早く腕を戻す。
『いってぇぇぇぇ!』
涙目になる顔面岩。ごめん。
ちょっと謝罪気分になっていると顔面岩の口から腕が伸びてきた。例の幽霊みたいな腕だ。そいつはオレの四肢を掴むと月面に押し付けて、
「どいつもこいつもさっさと喰っちゃえよ!」
そこにレオンの能力を受けた重力・空間・大地が巨口を開けた。
「――――き・く・か!」
オレの体に灯った光が一層強くなり腕を払いのける。
『ウォォォォ⁉』
『ふむ! これはまずい!』
『レオン! 我らは君の味方はできん!』
浮かび上がった顔が口を閉ざしてレオンに反旗を翻す。
「うわ⁉」
――と、突然レオンの体が中空に現れた。
「くそ! 時間まで裏切るの⁉」
『我らは星章の味方をしてもそれに逆らえない。否、しない』
「じゃあレオンにも教えろよあれ!」
『教える云々のものではない』
できない人には絶対にできない、そう言う。
「役立たず!」
「レオン!」
「なんだ――げ」
レオンが目を向けた先には剣を振り上げているオレが。
青銅の剣に咆哮と牙の力。ここに星章を上乗せできれば良かったのだけどそれは未だできず。けどユメと幽化さんと戦う時までには必ず!
「行くよレオン! これが今のオレの最強だ!」
「ふん!」
月面の意識を強制的に操って巨大な土のブロックを作り出すレオン。オレの体も拘束しようとするが星章に当たったブロックはぴたりと止まってしまい――オレは剣を振り下ろした。
「刹波!」
「――!」
剣圧が一瞬でブロックを切り裂き、レオンのすぐ横を通り過ぎる。
「――っっ!」
崖。剣圧は月面を切り裂いて奈落とも言える爪痕を残した。
「甘いんじゃない⁉ 当てずにレオンが降参すると思ったら大間違いで――⁉」
目の前にオレが現れてレオンは咄嗟に身構えたけれどもオレの放った剣の腹に脇腹を叩かれ、弾け飛び、ゴロゴロと転がって、跳ねて、五十メートル程度先でようやく止まった。
レオンの意識は――
「ぬん!」
「え⁉」
あったらしく体を勢い良く起こして首だけ振り返り、
「あ~~~、レオンの……負けぇ……」
ぼてっと体を横たえた。
最後の最後までレオンらしい。
『バトルエ―――――――――――――――――――ンド!
中学生の部優勝! 天嬢 宵選手です!』
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――――――――――!
沸き立つギャラリー。歓声で揺れる会場。
……えっと……優勝……した? 優勝――『優勝』――【優勝】。
涙月たちがいる方をゆっくり見やると彼女たちも多くのギャラリーと同じく喜んでいて。
「勝った……アエル!」
『うむ』
「やった!」
『天嬢 宵選手! レオン=サーテ選手の目が覚め次第表彰式になります! その場でお待ち下さい!』
月面が消えて、まっさらなフィールドに戻る。
勝った……ユメと幽化さんに届く距離に来た!
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