第161話「イカれてる人ってムダに人気あったりするからさ」
おいでませ。
「う~ん」
「便秘かいよー君?」
「違います」
そもそも料理店で便秘アピールする人は追い出されるだろう。多分。
悩んでいるのはこれ、オレの前に広げている電子ファイルが原因。
「星章」
「聞いた覚えあるわよ」
と言ってパスタを一口、ララ。今朝までと打って変わって上機嫌なのはリューズの意識が戻ったと連絡を受けたからだ。
「元気になったと言う事で歳上&身分が上なのでここの代金はララが持ってね」
「嫌です」
などと言う交流がオレとの間にあった。極めて遺憾である。
因みにゾーイにも同じ事を言ってみたのだが華麗にスルーされた。極めて遺憾である。
「確かオーラを日本語で言うとそうだったと思うわ」
「オーラって……」
漫画やアニメに出てくるアレですか? オレは神族や魔族じゃないし戦闘民族でもないのだけど。
「あはははは。そんなんじゃないわよ。あくまでイメージ的にその言葉が適当だろうってだけ。
正しくはこれ、ここに書かれてある通り」
言ってファイルの一つをフォークでつつく。マナー違反です。
「士気――海から生まれた生物の持つ海の力。
星章――世界から生まれた星の持つ星の力。
オレ、人から生まれた人なんだけど」
「共鳴よ。星と共鳴できる人間だけがその力を借り受けられるって言う。
これは努力云々でどうにかできるものじゃないって聞くわ。生まれ持った才能、それだけ。
元来小さな光らしいけれどパペットシステムを加えると共鳴度を上げられるらしいわ。
けど、宵がねぇ」
「そいつがあるのとないのとじゃどんな違いがあるんだ?」
チーズinハンバーグを食べながら、アトミック。トロットロに溶けたチーズが香ばしい匂いを放っていて食欲をそそられる。
「えーと、単純に生命力が上がるだけだって」
「そうなのか? オレ、体力とか筋力をサポートしてる風に感じたけど?」
「生命力が上がるならば」
割り箸を一つとってゾーイはその端を両手で握る。
「日頃からセーブがかかっている壊れやすい肉体が強化されるのだ。その分引き出せる膂力も上がる」
箸を握る手に力を込めてパキンと折って。
「頭の方は良くならないけどね」
「それどう言う意味かなララ?」
悪くないつもりですが?
「いえいえワタシのお友達にはそれなりに良識を持って頂きたく」
「良識を持つのと頭の善し悪しは関係ないですよお姫さま」
「ぬ」
「それに記憶力には自信があるよ。レ――」
「きゃ――――――――――――――――――!」
声でか!
顔を朱くして立ち上がったララに好奇の目とジト目とが集まる。それに気づいたララは更に顔を朱くしてストンと椅子に着席した。
「ピュアってのは――」
一方打って変わって涙月が真顔で口を開いた。ただフォークに苺が刺さっているから今一つ格好がついていない。
「仮想災厄の核を回収――ってか食べてた女の子だよね?」
視線を向けるのは、仮想災厄インフィデレス。
「うん」
「あの子って人間? 仮想災厄?」
「ん~~母さまは人間。父さま――ユメの奥さんだよ」
仮想災厄のママ――と本人は名乗った。それをインフィデレスは知らないはずだから二つの証言が揃った事で確定情報と思って良いだろう。
「ピュアはエレクトロンの人間なの?」
「そうだよ宵。あ、でも内緒の人ね。『ダートマス』がエレクトロンCEOの前職――処刑人――を引き継がせる為に作った人間だから」
ごほ、ごほ、とむせる音がした。急に祖父の名が出てきて驚いたのだろう、ゼイルだ。
「ゼイルちんのお祖父さまって人殺しなの?」
「ちん……違うよコリス。それじゃとっくに捕まってるでしょ」
「んではでは処刑人とはこれ如何に?」
「……ごめん知らない」
「危険思想を持った人を社会的に復帰できないようにするんだよね」
さも当たり前といった様子でインフィデレス。周りにいる客が幾らかざわついたがどこ吹く風と言った表情。蜂蜜のたっぷり乗ったワッフルを口に運びながら彼は続ける。
「基本、犯罪に巻き込んで裏に売り飛ばすんだけど、その役目を母さまが受け継いだの。イカれてる人ってムダに人気あったりするからさ、なんだろね? 不良に憧れる女子学生みたいなもんかな? まあそんな感じの人を表にいさせちゃ社会が大変だって事で表から『処刑』するわけ」
……成程。理屈はまぁ、わからないでもない。正しいかどうかはともかく、そう言う行為ありきで今の平和があるのだとしたらオレは否定できない。
ただ、気になる点が。
「涙月の言葉にあったけどそのピュアって人、仮想災厄の核を食べてたのはなんで?」
「パペットの同化と原理は同じ。皆の核を食べて能力を保ってるの。つまり母さまがいる限り仮想災厄を本当に倒したとは言えないわけね」
マジですか。あの奇行にそんな意味があったとは。
「じゃあ勝った気でいたオレたちって――」
「ん~間抜け?」
「うるさいです」
しかし確かに間の抜けた話だ。肝心な能力を残したままだったとは。
「んじゃ私から質問」
「はい涙月」
「ピュアは強い?」
「そりゃもう」
それを聞いて腕組みする涙月。口に咥えたスプーンを上に下にと振っている。
「宵兄はユメとの戦いに集中するとして、ピュアはあたしたちが相手するのかな?」
「あ~超ありそう」
言ったララを始め皆の表情が引き締まった。しかし、
「え? 皆で女の子一人倒すの?」
涙月は疑問を呈した。
「違うの涙月姉?」
「いや~よー君が対ユメなら対ピュアは私が引き受けようかなって」
「無理無理。母さまは一人で倒せる人じゃないよ」
「む」
唇を尖らせる涙月。
「星章があるんだよ? 母さまにも。でも涙月は使えないでしょ?」
「ぬ」
「数の利で何とかするしかないわけか」
こちらも腕組みするララ。
「一対多数はワタシも気に入らないけど、しようがないんじゃない?」
と言って涙月を見る。涙月は唇を波立たせて「ぐ~」と唸っている。
「まあその辺は置いといて、自分アマリリスに会いたいんだけど」
「あ、ああ、そう言う話もあったね。でもオレは午後から決勝だから」
付き合えない。
「私はよー君の応援に行くよ!」
当然でっす、と涙月。
「ワタシも」
こちらも当たり前、とララ。
「ララが行くなら私もだ」
常識だろう、とゾーイ。
「んじゃあたしも」
楽し気に、臣。
「ボクも」
大会見たいし、とゼイル。
「ガキンチョが行くなら保護者のオレも」
ガキンチョに睨まれて、アトミック。
「あーわたしもですぅ」
最後に、コリスも。
「………………つまり自分は終わるまで待つんだね」
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