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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第16話「満天の星空ってのだねぇ」

いらっしゃいませ。

 一時間後、食事も終わって皆それぞれ部屋に戻っていく。

 この後は基本部屋で過ごすのだがホテル内であるなら就寝時刻の午後十時まで多少の自由が与えられている。

 だからオレと涙月(ルツキ)は合流し、そして――――――――――――――――見た。

 生徒のいなくなった食堂で羽目を外しまくっているずっちー先生たちを。


「酔ってるねぇ」

「先生、酒癖悪かったんだ……」


 結婚出来ない理由が何かわかってしまった。

 結婚願望の強いずっちー先生であるが、まあ、頑張ってください。同僚の先生にもイケメンいますよ。近すぎて見えてなさそうだけど。


「そう言えばよー君、ハワイにも神社あったよね?」

「あるけど、どうかした?」

「ずっちー先生の将来を祈っておこうかと。恋愛方面の」

「恋愛成就の神社だったかな」


 違ったような違わないような……まあ良いや。神さまの心は広いだろうし。


「んじゃ私らは予定通りジュースを買って、屋上に行こう」

「うん」


 と言うわけで、早速ホテル内にあるショップでジュースを買って屋上へ。

 行ってみるとやはりと言うかなんと言うか同じ考えのカップルが多数いらっしゃったり。

 天文台見学が昼の内だから星を見に来たのだ。オレたちも他の皆も。


「満天の星空ってのだねぇ」


 小声で、涙月。

 ここでは皆が静か。静寂の中で寄り添い、星空を眺めている。

 ただ目に焼きつける人あれば写真や映像に収める人も。

 座っている人あれば横になっている人も。

 思い思いの形でハワイの空を心に刻んでいた。

 耳を済ませれば潮騒も聞こえてきて、星空にピタリとあって。

 海と空。

 真逆の位置にあるのにどうしてこうも似合うのか。

 自然と自然だからかな?

 願わくは、海と星が人の敵になってしまいませんように。






 翌日。

 天文台見学組はまずここ『ヒロ山麓施設』の見学から始まる。

H型になっているヒロ山麓施設には実験室、機械工作室、図書室、計算機室などなどが存在し、望遠鏡から離れて出来る作業がここで行われる。

 オレはまず施設の表札を写真に収めた。銀の板に青い文字で書かれた表札だ。

 表札だけを撮ろうとしたのだが涙月がひょいッと顔を覗かせてきて。しかもピースつき。まあ良いや。と思いながらも涙月が他所に向いた瞬間表札激写。「ちぃっ!」涙月が舌を打ったが放っておいた。

 それを終えると階段を昇って施設の中へ。

 1997年発足だから施設はあまり新しくないのだが大きなシミュレーターが動いているサマは迫力があり、初めて触れる本格的な機材に感動したものだ。

 この施設の見学を終えるとハワイ島マウナケアの山頂に設置されている『すばる望遠鏡』へGO。

 標高4200メートルのマウナケア山頂だ。雲の上の望遠鏡である。何それ凄い。

 あまりに好条件ゆえにマウナケアには計十一か国・十三の望遠鏡があり、すばる望遠鏡もその一つになる。

 ドーム内にある真っ青に塗られているすばる望遠鏡とご対面するとまずその大きさに驚かされる。

 22.2メートル。重さは555トンである。……ゾロ目にこだわったのかな?

 子供の頃地元近くの山にある天文台に寄った事があるけれど流石に比較も出来ない。

 オレたちは観測所長の話を聞いて、歴史を聞いた。

 凡そ十年かけてこのすばる望遠鏡は建てられたらしい。

 それからずっとすばる望遠鏡は宇宙と言う謎と神秘を解き明かす前線に存在し続けていると言うのだから見事なものだ。

 やっぱり夜に来たかったなあここ。






 更に翌日。

 火山見学組が出ていったのと同じ頃、オレたち不参加組はホテルで解放された。


「プールとお土産どっちにまず行こうかなあ」


 とオレが呟いた途端、涙月の目がキランと光った。


「プールで!」

「え、まだ泳ぎ足りないの?」

「全っ然足りない! ってか海とプールは別物だよ!」


 そう……なの、か?


「ってなわけで行こう!」

「うおおおおお腕痛いんですけどお!」


 めっちゃ力強く引っ張られて、またもや強制連行されるオレであった。






「はあん、それをやってみたかったんだ?」

「うん」


 泳ぎ足りない、と言っていた涙月だったが水着に着替えた彼女がまずとった行動はプールサイドチェアに寝そべって優雅にジュースを飲む事だった。

 パラソルの下で、サングラスをかけて。

 セレブごっこがしたかったらしい。


「オレは泳いでくるよ。

 せっかくのインフィニティプールだから」

「ん~ここで見てる~。

 飲み終わったら私も行くよ」

「うん」


 当分来ないだろうな。ジュースのグラス、ハンドボールくらい大きいしフルーツ山盛りだし。

 それまでのんびり泳がせてもらいましょうか。

 まずは準備運動をして、一歩プールへ進み出て――沈んだ。


「ぷはっ」


 そしてすぐに浮き上がった。

 思ったより深かった……。心臓びっくりしてるや。

 あ、涙月がまた撮ってる。


「アエル、クラウンジュエルにアクセスして今の消して」

『そう言う頼みは聞けんな』


 ですよね……。

 ならばかっこいいところを撮ってもらおう。

 オレはプールの端っこまでいって、飛び込みからの自由形。

 一思いに五十メートルを泳ぎ切った。

 なかなか速かったと思う。自由形だけは自信あるんだよな。平泳ぎやバタフライは苦手なんだけど。

 涙月は――うん、しっかり撮っている。

 これでさっきのは帳消しに出来ただろう。

 お、涙月が準備運動を始めたぞ。

 彼女はそれを終えると三つある飛び込み台の内一番高いところ――十メートル――に昇り、ためらいなく飛び込んだ。マジか。

 バシャーン、と言うよりスポーンとプールに飛び込んで、ほとんど飛沫は上がらずに。

 う、うまいじゃないか……。

 上がってきた涙月は犬のように頭を振るとオレの方を見て渾身のドヤ顔を一発。

 ……くぅ。






「服良し。

 髪良し。

 荷物も持った」


 水着から普段着になって、ホテル一階にある更衣室兼シャワールームできちんと髪も乾かし終わり、フロントに預けていた荷物も受け取り、こちら準備万端。この後はお土産を買いに行く予定だ。

 さて涙月は、


「お待たせー」


姿を探して頭を動かしていたら更衣室兼シャワールームから出てくるところで。

 あ、今度はちゃんと髪乾かしている。


「うん。普通の服も見る予定だからさ。

 濡らしちゃったらダメじゃん?」

「涙月が気を使っている」

「使うさ私こう見えて気遣いの人ですが何か?」


 ……そうなんだよね、豪快に見えてオレの事も色々察してくれるし。

 明るい性格に、繊細な目。

 そりゃ告白もされるか。

 奪われないようにしないと。オレの恋人ってわけじゃないんだけど。


「行こう、涙月」

「あいあいさ」


 恋人ではないが、こうして一緒にいる時間が多いのは確か。

 きっとどんな男よりも長く隣にいる。

 それにあぐらをかいて余裕ぶっこいている内に――なんてならないように今告白するべきだろうか?


「よー君はさ」

「うん?」

「恋人がいる女の子を好きになったら告白する?」


 ……この子オレの心の中でも読めるんだろうか。


「例えばほら、うちの学校にいつも飴舐めている美少女っ子がいるじゃん?」

「ああ……」


 一つ上の先輩に、確かにそんな女性がいる。

 朝・登校してから下校するまでずっと飴を口に含んでいる人。

 何度先生に注意されても授業中ですら舐めるのを止めないと言う。

 だから登校してから下校までと言うよりも寝る時すら舐めているのでは? とも言われていたっけ。


「他にもほら、姉妹校に超絶美少女の生徒会長がいるじゃん?」

「うちの生徒会長といとこだって言う人だよね」

「そ。

 そんな二人に恋人がいたとして、よー君が好きになっちゃったら?」


 恋人持ちの子に告白、か。そんな経験ないけれど……。


「多分する」

「先輩にはダメって言ったのに?」

「う」


 そうだった……。

 痛いところを突かれ、オレ、撃墜。

 けど。


「チャレンジもしないで諦められるかって言うと、きっと無理だと思う。

 好きな人がその時の彼氏とオレ、どっちを選ぶにしても伝えるくらいはしておきたい」


 言わない気持ちは、ないのと同じ。


「オレの方が幸せにできるんだ、って強い思いで」

「……そっか。

 意外と恋愛に積極的ですな」

「涙月はどうなの?」

「私は……うーん……」


 腕を組み、考え込む。

 これこそ意外だ。涙月なら突っ走っていくかと。


「私、今安心しきっているからなぁ。

 恋敵が出てきたらどうなるんだろ。ねえ?」

「オレに聞かれても。

 って言うかどうして急にこの手の話?」

「昨日の夜女子部屋では恋の話に花が咲いたんだよね」

「あー」


 女の子は恋バナが好き。都市伝説ではなかったのか。


「そこで『恋人がいたらどうする?』っとなったわけです。

 皆積極的に奪いに行くらしいよ。

 自分の幸せはもぎ取ってでも手に入れる! ってさ」

「そ、そうなんだ」


 力強すぎて怖いな……。

 男子よりも女子の方が恋愛では強いのかも知れない。


「だから、もぎ取られないように気をつけようと思うのです」

「……ですか」

「よー君も気をつけてね。

 君の好きな人は案外もてるから」

「……ん」


 気をつけよう。大切に気持ちを育てながら、用心もしつつ、たまには積極的に。

 ……手握っても大丈夫かな? なんてこのレベルでも悩むオレ、子供だなあ。

 少しは大人に、


「ん」


ならないと、と言う事で繋いでみた。

 繋いだ瞬間涙月の手の指がピクリと動いた。予想の外だったから驚いたのか、それとも緊張からか。

 答えは涙月の胸の中だけれど、握り返してくれた。

 うん……、今はこれが精いっぱい。人にどう見られているか何てわからないけれど、乱される事なくオレたちはオレたちのペースで進んで行こう。無理に歯車を組み合わせたって壊れてしまうだけだろうから。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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