第156話「だからお前は星になってくれ。優勝してパペットウォーリアの星に」
おいでませ。
「咆哮!」
二度試してみるけれどやはりブレスは出ない。
「咆哮は禁じたよ。王の命令だ。
続いて命ずる。天嬢 宵、城に来い」
「――!」
体が勝手に浮き上がる。強制的に。王命――それがジョーカーか。
お城の門に続く大階段に足が落ち着いた。同時に強制力が消えて体が自由になるがここまで来たら玉座を目指す以外にないだろう。
良いさ。直接対決、望むところだ。
しかし。
オレは歩を進めた。進めながら考える。王命から逃れる方法は? それがなければ対面しても負けてしまう。
対面できれば、だ。
例えばそう、廊下に飾られている無数の鳥頭の巨像が動いて邪魔したりしないとも限らないわけだ。今まさに動いているが。
「玉座に呼んどいて邪魔するとか!」
長槍を遠慮なしに突いてくる砂の巨像。動きは緩慢で鈍いがなんせ数が数である。避けるだけで手一杯で進めない。
咆哮は禁じられている。ならば。
「咬牙!」
牙の一撃を受けて巨像の一体が倒れる。続けて二体目、三体目。なんとか穴を開いて奥へと侵入する。
その後も落とし穴があったり矢が降ってきたりと古典的な仕掛けが至るところで発動し、それでも玉座の間まで辿り着いた。
「はぁ……はぁ」
へとへとになりながらだが。
「やれやれ、やっと来た」
「はぁ……呼んどいて邪魔しといて『やっと』とか随分な王さまだね」
「侵入者の割に態度が大きいなぁ」
少し怒った表情で言うカルパ。怒りの沸点が低い。
「王命出すよ? 咬牙を禁ずる」
「咆哮!」
「――⁉」
伸ばした右腕から出る炎のブレス。カルパの耳を掠めて壁を突き破った。
「なんで……」
「なんで? そっちのジョーカーが効くのにこっちの攻撃が絶対に封じられるなんておかしいよ」
舌を打つカルパ。その苛立ちが必要なのだ。レベル以外にパペットの優劣が左右されるものがあるとしたらそれはパペットと繋がるマスターユーザーの精神状態に他ならない。
つまり苛立っている今のカルパの心がパペットを脆くしていると言うわけだ。
「王命。天嬢 宵、土下座で詫びろ」
体に得体の知れない力が篭る。オレの膝を折ろうとする。しかし。
「アエル!」
首一つだけ同化を解いてカルパを攻撃する。
「――!」
アギトを開き、残忍な牙を覗かせてカルパをバクっと――
「『ウォーリアネーム! 【王の視点でものを語る】!』」
――は行かず、肝心要のカルパが砂の城と共に消えた。
「うわ」
その影響で足場がなくなり慌ててアエルの飛行能力を発動させる。
カルパ――どこに?
これまでにも体を何かに変える能力には出会ってきた。今度のもそのパターンだろうか? それとも超速度で逃げた?
などと考える必要もなかった。なぜか。それはだ、眼下に広がっていた平安京の街並みがオアシスに変化していたからである。
「あれが――全てカルパ⁉」
まっさらな水の溜まり場。湖面に生える緑と僅かな動物。レンガ造りの小屋が一つ。
「けど!」
オアシスに触れていないのは好都合。この上空から――
「咆哮!」
吹き飛ばす!
ブレスがオアシスに届く――前にオアシスの表面に何らかの文字と画が浮かんだ。
なんだ?
「死者の書――発動」
「⁉」
オアシスに触れるブレス。しかしブレスは捻じ曲がり、渦を巻き、何かに吸い込まれ消えていった。
なんかジョーカーが二種類あるみたいで卑怯っぽいんですけど⁉
「才能の差じゃない?」
「あ、そう。じゃあこう言う手を使っても良いの?
『樹王』」
緑の光がフィールドを満たし、上空にカルパと――オアシスとそっくりな逆さオアシスが出現した。時間の複製である。
「衝・突」
「はぁ⁉」
フィールドからちょっと離れて、オレは逆さオアシスを降下させた。
「ちょっと! 待て!」
「ま・た・ない」
「くっそ死者の書! フルバースト!」
カルパから赤い光が放たれて、しかし逆さオアシスからも赤い光が放たれる。
樹王による時間の複製はこちらで操れるし数秒ずらして同じ動作をさせられるしリアルタイムで常に複製し続けられもする。チートじゃないし。
だから赤い光は二人の中央でぶつかり合い、共鳴し、互いを包んで書に記された通りに死後の楽園アアルへと導かれ消えた。
「え――」
消えた。………………………………………………………………消えた? 消えた⁉
「『泉王』!」
これはまずい。オレは焦って泉王の力を発動させた。
蒼い光が広がって時間が逆流する。カルパと逆さオアシスが再出現して、砂の城まで戻しそこでストップ。
「……え?」
玉座に掛けるカルパが口をあんぐりと開けて一言だけ零した。記憶は逆流していないはずだからそう言う反応にもなるだろう。
だけどだ。
「咬牙!」
「――!」
砂の城に突入して戸惑うカルパに牙を仕掛け、
「ぐぁ!」
完璧に決まった。
『勝者! 天嬢選手! 準決勝進出です!』
「……勝者は倒した相手の思いを背負って飛ぶ必要がある」
控え室でさっとシャワーを浴びて汗を流し、皆と合流しようとドアを開けたところでカルパが仁王立ちしていた。びっくり。
そして言うのだ。
「……勝者は倒した相手の思いを背負って飛ぶ必要がある」
――と。
「そこスト――――――――プ!」
「ん?」
こちらに近づいてくる数名分の足音。涙月たちだ。声を上げたのはララ。彼女は駆け足でやって来てオレとカルパの間に身を滑り込ませる。
「ダメよ聞いちゃ」
「なんで?」
「宵、リューズと全力で戦える?」
「――は?」
リューズ――今も集中治療を受けているであろう青年の名を出されてオレは瞬間意味がわからなかった。
……ああ、そう言う。
「聞かなくて良い事情を聞いちゃったら貴方は絶対後ろ髪を引かれるわ」
「そーそーよー君ってそう言うタイプだよねぇ」
タイプと言うか……皆そんなもんなのではなかろうか?
「別に天嬢の足引っ張るような事言わないさ」
「貴方にとってはそうでも宵にとってもそうとは限らないでしょう」
「……星になって欲しいんだよ」
サラッと自分の言いたい言葉を入れてくる。
「あ! こら!」
「まーまー」
「「なんで当事者の宵(天嬢)が宥めに入るのよ(だよ)!」」
喧嘩ってこうやって仲介に入るもんだと思います。
「ララが気遣ってくれるのはありがたいけど」
「気遣ってません」
プイッと顔を背けるララ。
……じゃどうして間に入ったのさ……。
「えと……で結局なんなのカルパ?」
「俺の故国は直に国家破産する」
「「「――!」」」
「もう経済が限界なんだ。融資してくれていた他の国にも見捨てられたしな。
だけどここで俺が優勝すれば運営がEUに掛け合ってくれる手筈になっていた」
歯を軋ませるカルパ。手も強く握られている。
「天嬢、お前が優勝すればまだ望みは繋がる。『ひょっとしたら天嬢 宵と良い勝負をしたカルパは今後の技術実験に役立つかも』ってな。そうすれば俺は国への融資を条件に出せる。
だからお前は星になってくれ。優勝してパペットウォーリアの星に」
「……星かどうかはともかく、優勝はする」
誰かに強制されたからではなく、オレの意思で。
「……ああ」
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